第二章 悪魔の水滴
第19話 記憶の対価
「我が主よ、悪魔の森の侵略が完了しました」
「......例の小僧とあの悪魔の行方は?」
「はい、例の少年と悪魔は依然として行方は掴めぬまま、現在悪魔の森周辺を捜索中です......!」
「うむ、流石に一筋縄ではいかんか。
あの森には忌々しき我が故郷が地底に眠っている。
だが我々の手中に落ちるのも時間の問題。
あの姉がいる限り、地底には手を出すなよ?」
「あの、それが......
「何、あの男、まさか地底に乗り込んだというのか......?」
「はい、そのようで......!」
「......愚かなことを。
あの男にしては珍しい。
まさかあれが判断を見誤るとは。
やむを得ない、一部を残して撤退しろ」
「て、撤退ですか?
ですがガンナット様が......!」
「生きていれば自力で帰ってくるだろう。
奴も少しは苦汁を舐めるべきだ。
私が命じたと言えば奴も反論できぬだろう」
「はっ、仰せのままに。我が主よ......!」
「さて、厄介なアメトスめ。
一体何を企んでいる?
たとえその姿を眩ませようと、俺からは逃げられん。
必ず始末してやる......!」
ーーーーー
旧地底領のある地底から静脈坑道をまたぎ地上への帰還を果たした僕とドゥートスは、次なる目的地であるユメール王国を目指し、ユメール王国に続く峠『シカニサ峠』に突入する。
「機嫌を直せよ、ドゥートス。
僕だって悪気があったわけじゃない。
お前がそこまで隠したがることだとは思わなかったんだ。
お前の身に何が起きたのか、それをどうしても知っておきたかった......それが、理由なんだ」
【......なんだ、ちゃんと喋ってくれんだ?
ふーん。でもそんなこと言ったって、僕の機嫌は直らないよー! 僕は拗ねたら面倒臭いんだから、ご機嫌取りなんて無駄なんだから!】
うむ、本当に面倒なやつだ。
しかし、あの状況......やはり、ドゥートスは何かに襲われていたようにも見えた。
あの時は空腹で冷静さを失っていたが、やはり妙な状況だ。
それに、ドゥートスが力を使った時に感じたあの違和感、コンパスが妙な音響を発した時、それと同時に頭上のかなり遠くから爆音のような音が響いていた。
もしや、あの音がドゥートスの身に起こった出来事に関係しているのか?
......わからない。
何がどう関わっているのかが読めない。
関連性が......見出せない......。
頭上の爆音、コンパスの異常、ドゥートスの消滅......。
爆音は
これらに関与するもの......もしや、太陽軍の基地が地底にも存在したとか?
そして何かしらの力を持つ者がドゥートスを攫い、タイミングを合わせてガンナットを地底に呼び寄せたとか?
だが、僕らの頭上から現れる意味がわからない。
それに奴は岩と同時に降ってきていた......。
僕らを捕縛するのなら、奴の能力的に奇襲をする方が遥かに合理的。
ある意味奇襲にはなったが、なぜこうもリスクの大きい登場の仕方をしたんだ?
理解不能だ。
【ガンナットは自ら地底に来たわけじゃないんだよ。
彼は
え?
......。
誘われた?
何がどういう意味だ?
ガンナットは自ら飛び込んできたのではないのか?
【半分は正解、半分はハズレ。
ま、これ以上のヒントはあげない。
君に対して何も言えない、僕からのせめてものヒントってやつだよ】
「なら全部を話すべきだろ。
お前、最初から全部話す気なんてないだろ?」
【まあね。僕には僕の事情があるし。
でもね、僕は君を裏切ってるわけじゃないんだよ。
今は話せないだけ......それは信じてほしい」
どうかな。
中途半端にしか自分のことを話さないやつのことを僕は信用できないね。
そのなんとも言えないヒントを言って僕を困らせるようなやつのことを信用できるか。
一瞬頼れる相棒だと思っていたけど、前言撤回だ。
僕はしばらく君を相棒とは考えないよ。
【そんなー、酷くないそれ?
......ま、とりあえず例の王国まで向かおう。
この峠を下った先におそらくその王国が見えるはずだからね」
例の王国、か。
たしか名は《ユメール王国》だったはず。
国の詳細は知らないが、《水の国》という別称があるほど水がありふれた町だと聞いている。
なんだろう......記憶を失っている割には、僕の中で謎の知識が不思議と浮かび上がってくる。
これは......どういう理屈だ?
記憶を失い、知識が頭に浮かぶ......これも契約の影響か?
【ピンポーン!
これはね、僕の契約が影響して起こっている出来事なんだ。
簡単に説明するね。
僕は君に力を与えるのと引き換えに、
ただ、君との契約を交わす上で、
つまり、君の頭には君が記憶を失くす以前の知識がチグハグながら自動で浮かぶようになっているってこと。それが真実だよ】
なに......?
それはつまり、僕とドゥートスの契約で僕の記憶は消えたが、知識はそのまま僕の頭に残留してるってことなのか?
【まあ意図的にやったと言えばそうなんだけどね。
だって不便じゃん、知識が全部消えるのって。
本当に赤子よりタチの悪い存在になっちゃうよ、知識まで消しちゃうと】
......そういうことか。
事情はなんとなくわかった。
そういう事情で僕は記憶を失う前の知識を得ていたということか。
ならばつまり、僕は記憶を失う前、ユメール王国について一般的な知識をそれなりに持っていたことになるってことか!
【そういうこと。
知識だけはそのままだから、頭が自動的に自分の知覚した情報に応じて知識を脳内に投下してくれる。
これなら君もある程度は困らない】
そうか?
その割には
【企業秘密ってことで】
......ふざけた企業秘密だな、おい。
やっぱグレーだろ、お前。
最悪僕の敵に回るんじゃないのか、お前はよ。
【大丈夫だよ、そのくらい。
僕らがなぜ契約を交わしてるのかわかってる?
こういう裏切りを抑止するためなのを少しは思い出してくれよ】
そうだな。
たしかに僕らは契約を交わした関係にある。
じゃあ、実際どんな契約を交わしたのか言えるか?
僕はお前との
それに対する意見を聞こうか、ドゥートス?
【......ノーコメントで。
今は言えないから】
言えないの一点張りか......このまま話しても埒があかなそうだ。
仕方ない、信じるよ。
疑いすぎるのもお互いにとって毒にしかならない。
それに、嘘はついてないだろ?
お前はずっと正直だ。
だから今回は見逃す。
本当に気になって仕方ないけど、見逃す。
ただ、もし信頼して欲しいなら、それ相応のものを示して欲しい。頼む。
【......いいよ。
こっちも喋ってないこと多いしね。
話せるようになるまで、どうか我慢してほしい】
僕はドゥートスに対する不信感を拭えぬまま、わずかな信頼関係と相棒としての絆を携え、シカニサ峠を降りていく。
そんな中、僕らが峠を降りきったところ、背丈の一回りはあるであろう巨大なリュックを背負う妙な人物が僕らとすれ違っていた。
神ノノレマ @hajime3252
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