第17話 地獄の花
ぐぅぅ......。
あれ......? そういえば、僕お腹空いてたんだっけ?
ヤバい、お腹痛くなってきた......お腹が空きすぎたんだ。
この感覚、嫌いなんだよな。
そういえば、そこに
どうするか、コイツ......。
それより、ドゥートス探しだ。
アイツ、一体どこに行きやがったんだ......?
俺はもう、お腹が空いてヘトヘトだぜ......。
しかし、奴が単独なのは助かったな。
ある意味不幸中の幸いだ。
今回、一対一でケリをつけられたことには感謝だな。
師匠に教えられた通り、命に敬意を。
数多の戦いとこれまで多くの経験をもたらしてくれた人々に感謝を。
さて......。
メシだ。メシを探そう。
よくよく考えれば、地底世界にはルドガリアっていう文明があったくらいだよな。
だったら、食料になるものの一つや二つくらいはあるはずだ。
せめて、飲み水が欲しい......。
僕は食糧を求めてこの崩れる王城、謎の装置のある秘密の部屋を後にしようと心に決めた。
生きることさえできなければ、ドゥートスと再会することさえできない。
ゆえに、急ぐのだ。
「食事、したい?」
......!?
なんだ、今の声!?
幻聴か? それとも、生声か?
あり得ない、突然背後に現れたのか......?
「ねえ、聞こえてるでしょ?
さっきからここにいるのに、全然気づきもしないなんて。
本当に、人間は鈍いの」
「え......?」
僕は驚きを隠せぬまま後ろに振り返る。
そこにあったのは宙に浮いた大量の分厚い書物と、その内の一冊を腕に抱えた黒髪かつ黄金色の瞳をした悠々と腰掛ける一人の美女だった。
ーーーーー
なんだ、アレ......?
大量の、本?
なんで空中に浮いてるんだ......?
「さあ。
一体なんでだと思う、ルマ?」
僕の名を知っている......!?
コイツ、まさか敵か!?
コイツはままならぬ相手だ......!
こんな時に、まさか三連戦目とは、運も尽きたか.......!
「誤解しすぎだって。
私、あなたの味方よ?
あの馬鹿な愚弟を止めてくれる良い人だもの。
力を貸すに決まってるわ」
ん? 愚弟?
どういうこと?
僕が愚弟を止めるって、どういう経緯を辿ればそうなるんだ?
「簡単な話よ。
あなたの命を狙う男、太陽の王。
アレね、私の愚弟なの。
カケラも自慢できない、最悪の男」
愚弟って、まさかそういうこと!?
太陽の王に姉なんていたのか!?
ってか今、最悪の男って言わなかったか?
「ええ、私はね、あの愚弟と対立してるの。
あの恩知らずの野望馬鹿はいつも自分のことばかり考えてるから、ムカつくのよ。
でもあなたは違う。
着いてきて。この地帝国の最下層に案内する。
そこに食糧もあるわ」
僕は即断即決で彼女に同行することを決めた。
いや、仕方ないといえば仕方ないはずだ。
僕はもう、腹が空きすぎてどうにかなりそうなくらい狂いかけていた。
決して彼女の美貌に惹かれて着いて行った、などという話ではない。今の僕にそんな余裕などカケラもない。
そんなこんなで僕は、彼女『ウルヴィナム』についていくことに決めた。
話を聞いたところによると、彼女はルドガリア地帝国の元王女様らしい。そして地底神ルドガリアの正統な娘であり、神姫ルードゥネイとの間に生まれた書物を象徴する神として君臨しているのだとか。
いやはや驚きの話である。
彼女は書物の神だったのだ。
道理で大量の書物が彼女の周りに浮かんでいたわけだ。
あの書物の厚みと数は流石神の風格といった様相だ。
「まあ、神と言っても仮の姿で生まれた偶像神なんだけどね。
本物の神様、我々偶像神の最上位にいる神様はね、もはや言葉では説明できない次元なの。
だから、神様といっても創造主と一括りにしちゃダメよ?」
それとよくわからない価値観を有していた。
なんだその面倒臭いルール。
要は神様に対する考え方、偶像神と創造主を分けて考えろってこと?
価値観がわからないと面倒なだけだぞそれは。
などといってるうちに僕らは螺旋階段を降りる。
どうやら、先ほどの謎の装置の部屋の隅にもう一つ隠し通路の入り口があったらしい。
僕は彼女とともに最下層に通じる階段を降りていくと、最下層の扉と思しき場所に到達。
「ここから先はルドガリアの王族以外の立ち入りは禁止されている禁忌の場所よ。でも今回は特別に許可するわ」
そう言って彼女は扉の鍵を開ける。
そして解放された最下層の景色を見て、僕は呆然とした表情でそれらを眺める。
これは、これは......?
「これは父上が作った『地獄の花』よ。
一つ食べれば三日間の寿命が得られる、食用制限のかかった禁忌の食品。
かつて世界が銅魔と呼ばれる魔物に地上が支配されていた時、苦肉の策として父上が生み出したのが、この『地獄の花園』なの。
そしてこの地にいる民の多くが、その花を食べ、やむなく不老を手に入れたのが発端なの」
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