第16話 ルード・ヌムー
相手も焦ってるのか、急に剣技の
これは、ビンゴだ。
ヤツの攻撃手段が枯渇し始めている。
だからこそ、速攻で僕に致命傷を与える攻撃を加えることにシフトしたんだ。
ならば......!
僕は半身の基本姿勢から左拳をこめかみに、右拳を顎に据える。
急所を確実に守る構えだ。
たとえ重たい剣技だとしても、四肢の管理と急所を守りさえすれば勝ち目はある。
やるぞ、ここが勝負どころだ......!
僕はこめかみにある左拳をダイドロットの剣撃に合わせて伸ばし距離を測る。
左拳はヤツを誘導するための撒き餌だ。
食いついた瞬間を狙う。
これは明確な誘いだ。
幸い、ヤツは剣技においては天才的だ。
僕の微かな記憶の片鱗を覗いてもこれほどの剣士は滅多にお目にかかれなかった。
ゆえに、付け入る隙が生じる。
武技における天才とはいつだってその類稀なる武術のセンスと距離感の支配力がウリだ。
中には僕のカウンターに勘付き、逆に誘いをかけてくる者だっているだろう。
しかし、天才というのは基本的に二種類のケースが存在している。
まず一つ目は天性の才覚に身を委ねるケース。
これは文字通り、天賦の才による能力が多くを占めている割合だ。
天賦の才に頼り切り、ほとんど余すことなく効率的に勝利していくタイプ。才能にかまけている分、自分で伸び代を潰している楽なタイプだ。
二つ目は天性の才覚がありながら、何よりも失敗と教訓を吸収し基礎を徹底しているタイプ。
僕が考える限りだと、後者のタイプの方が遥かに強さの次元が違う上に厄介この上ない。
元々備わった天賦の才に加え、弱点になるであろう失敗経験の無さや疎かになりがちな基礎力が埋められ、全くと言っていいほど隙がなくなる。
こうなると運否天賦が全く通用しないのだ。
だからこそ、僕はこの後者のタイプに勝てるよう常に努力をしてきた。
目の前にいるコイツはおそらく前者だ。
まだまだ才能に甘んじている。
そしておそらく本当の強敵との戦いを経験したことがない。
ゆえに焦りがモロに露出している。
努力は才能を裏切らないというが、努力が必要な環境にいなければ人は本当の努力を手にできない。
運が悪かったな。
記憶を無くしたとはいえ、僕はそういう人間なんだ。
過去のこと、自分が成し得てきた道のりが、手に取るようにわかるんだ。
体が、全てを憶えているから。
僕の揺るぎない自信、強敵と相見えてもなお動じない理由はこれだ。
いつもなら僕はスイッチをオフにし、何かしらとトラブルを避けるように気配を消していく。
だが、強敵相手だと逃げる隙がない。
ならば腹を括るしかない。
それが僕の強さになるんだ......!
僕は努力で培ったであろう右拳を右横腹にゆらりと移動させる。
安らかで力強く、僕の動きはまるで《暗殺拳》のように多くの無駄を削ぎ落としている。
そして......。
炸裂する。カウンター。
「
僕はダイドロットの顎に強力な拳を叩き入れる。
抜群のタイミングで放たれた伝家の宝刀はダイドロットの顎から脊髄まで見事に撃ち抜く。
強烈に決まったこの攻撃を受けて、ダイドロットは地に伏せる。
おそらく、しばらくの間体が痺れて言うことを聞かないだろう。
ひとまず......。
僕の、勝利だ......!
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