第13話 石像剣士


石像の男の動きは突如として変貌した。

まるで別人のように。

男は一瞬でガンナットの背後を取ると、すぐさま斬撃で斬る、斬る。


「おのれ......! 小癪なッ......!」


その間ガンナットは先ほどの蝋燭の紋様とともに何度も何度も致命傷からの回復、復活を果たすが、それらを嘲笑うかのように石像男は一撃でガンナットを致命傷にまで追いやっていく。それを何度も叩き込む。ガンナットが復活するたびに。

斬撃のレベルが違う。

コイツの斬撃は、一撃で人が即死するレベルの強さだ。

一度スイッチが入ればまさに別人。

この男、只者じゃない......!

ガンナットが、瞬殺された......!


「ここまでやるか......怪物......」


「裏切り者......俺が、殺す......!」


裏切り者? 

そういえばさっきも裏切りがなんとかみたいなことを言ってたな。

コイツ、もしかして暴走してる?

それに、まるで精神が黒い何かに侵されてるようだ。

石像男の顔、みるみるうちに黒い血管みたいなのが皮膚に現れ始めている。

ありゃあ本格的に何かに取り憑かれてるな。

それに相手は長物使い、リーチでは圧倒的不利だ。

これを、どう覆すんだ......?


「俺は......俺は.......ダイド、ロット.......!

ルドガリアの、要.......」


それは自己紹介か?

ルドガリアの、要?

気になる単語ワードが多いな。

だが、今はそれどころじゃない。

ガンナットに向いていた敵意が今度は僕にベクトルを変えている。

これは明らかに、僕への宣戦布告だ。

こんな異常時に、こんな化け物と戦う気力なんてねえってのに......!

クソッ、腹が減ってしょうがねえ!


こんなことなら早く逃げればよかったと、僕は心底後悔した。

しかし、それは正しい道でもあった。

この時の僕はそれを知る由もない。


「復讐だ......人間に復讐を......!」


復讐? 

誰かに怨みでもあるってのか?

やれやれ、この調子じゃあ多分何を言っても通用しないだろうな。


「復讐をぉオオオオオオオオ......!!!!!」


僕はその声に思わずたじろいだ。

なんだ、この猛烈に嫌な予感は......!?

コイツ、ここで仕留めないとまずい!!!


僕は本能でダイドロットを名乗る男に駆け寄る。

コイツはダメだ、だ!

そう思い、全身全霊、渾身の一撃をダイドロットのみぞおちに命中させた。


武人の気合スタイ・ボーモゥ!!!」


これは玉座の間で背後の分厚い壁を一撃で粉砕した僕の拳だ。

決して無傷では済むまい......!

そう、確信した。

確信していた。

だからこそ、僕は自惚れていると言われていたのかもしれない。

記憶の隅で、無いはずの記憶の隅でその記憶が蘇る。


「「イッテェ......! 師匠、強えよ......!」」


「「当たり前だ。こっちが何年格闘家をやってると思ってるんだ? キャリアが違うんだ、キャリアが」」


「「うう......今度こそ勝てると思ったのに......!」」


「「いいか、お前はたしかに武術家としての素質はある。

だが肝心なところが足りていない。

警戒心、観察力、力量差の把握、その他諸々がお前に足りない要素だ。

お前はもう少し、自分の自惚れに目を向けた方がいい」」


「「自惚れ自惚れって、それ何回目だよ師匠。

僕、そんなに自惚れてないだろ!」」


「「いいや、自惚れてる。

相手との力量差を把握しようともしてない時点で、お前は自分を高く見積もってる。

その証拠に、お前は俺が負けると言った相手と戦って一度として勝てたことはない。

の割に、平然と次は勝てるなどと豪語している。

そんなんじゃ、お前は一生勝てやしないぞ......!」」


「「そんなの、最初から実力差があったからでしょ!」」


「「違う。たとえ実力差があったとしても、お前には勝つための勝算と知性を最初から放棄してるんだ。

たしかに本能のままに戦うのは効率がいいかもしれん。

俺の"予告"に従えば、すぐに降伏もできる。

だが、お前がいずれ出会うが現れた場合、お前話す術なく殺される。

そうなると全てが終わりなんだよ。

お前は俺の言葉に少々流されすぎている。

だからそれをお前は越えなくてはならない。

俺の後継者なら、必ずだ」」


「「師匠......」」


「「いつか必ず証明して見せろ。

お前が俺の言葉を裏切り、勝てないと言い放った相手に勝利しろ。

そうしなければ、お前は永遠に前に進むことはできないだろう......」」


......。

そうだ。

たしか、そんなことを言われていた気がする。

僕、師匠に何を教わったんだっけ?

......ダメだ、まだ必要なものが足りていないのか?

だが、おかげで思い出した。

を。

相手の力量、もう一度測り直すんだ......!

コイツは、ここでは終わらない......!


と、思った次の瞬間、僕は石像男ダイドロットの発する暴風に吹き飛ばされた。

やばい、やっぱりコイツには、僕の渾身の打撃が効いていない......!

いや、防御されたんだ。

あの石の表皮に......!


石像男はズシリ、ズシリとその重い足でこちらに向かって踏み込んでくる。

コイツは、一体なんなんだ......?

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