第10話 ブザー
地底世界、王城の跡地にて既に二〜三時間にも及ぶ時間が経過していた。
肝心の情報屋らしき人物の手がかりさえも掴めないままルドガリア王城の隅々まで見て回る、そんないたずらに時を過ごすような状況が続いていた。
参ったな。
このままじゃ、情報屋の情報はおろか脱出口さえ見つけられない始末だ。
どうする?
この問題、どう乗り越える?
【おかしい......本来なら、地底を維持するための制御装置の波動が中心部から漏れているはず......。
それなのに、まるで波動のはの字すら感じられない。
一体、なにが起きているんだ?】
なにが起きている?
すなわち、ドゥートスにとって思いもよらぬアクシデントが発生したと見て間違いないのか?
この王城に来てから数時間、ずっと廊下をぐるぐる廻ったままだ。
時折地上に繋がりそうな上の階層を目指し、それがなければ今度はさらに地下への階層へも足を踏み入れはした。
しかし一体どういうことだ?
この巨大な地底空間から抜け出すには、やはり最初の血液坑道以外にないってことなのか?
そうなると、いろいろまずい事になるぞ。
【うむ、これは予想外の出来事だ。
熱感知による周囲へのサーチもまるで機能しない。
これは、本格的に由々しき事態になってるねこれ】
冷静に言ってる場合か!
お前、大丈夫って言ってただろうが!
【言ってないよね?
僕、脱出口を探す、くらいのことしか言ってないと思うけど?】
あれ、そうだったっけ......?
ああ、これはいけない。
腹が空いてまともに頭が機能しない。
少しずつ、苛立ちが募り始めている。
そういえば、悪魔の森に逃げ込んでからというもの、ろくにご飯すら食べれなかったはずだ。
まずいまずい。
流石に餓死なんて洒落にならないぞ!
【そうはさせないよ。
脱出経路は必ずあるはず。
急いで情報屋を探す】
ドゥートスは全身の黒いエネルギーを左手らしき部位から生成し、漆黒のコンパスのような得体の知れない道具を作り出した。
【
シェイプ・ディテールと呼ばれる技はドゥートスの体力を激しく消耗させているようだった。
【察しの通り、これは風の動きを感知するコンパスだ。
まさかこんなところで力を使うことになるとは思わなかったけど、なにもしないよりはマシだろう】
お前、その力、命を削ってないか、それは!
明らかにお前の中にある気力が消耗している。
そんなに頻繁に使える能力じゃないだろ。
【......いいんだ。
確実に君を送り届けるのは僕の仕事だ。
必ず君を地上に送る。
いいかい、このコンパスを......つかっ......】
ドゥートスの手のひらの上でコンパスが微細な振動をブルブルと放つ。妙な振動だ。
まるで電話の受話器のように鳴り響く音響(ブザー)は僕にとある違和感を抱かせた。
このブザー、なにか様子が変だ。
ドゥートスが急に無言になったのもそうだし、強烈に不吉な何かを思い起こさせる。
これは、上?
上から、何か来る?
その時だった。頭上、廊下の天井の更に真上から爆音のような音が響き渡った。
ズシーン。
岩が降ってくる音。
僕らはその衝撃で足場が揺らぎ、思わず壁に寄りかかる。
が、その巨大な衝撃音は第一波、第二波、第三波と畳み掛けるように連鎖し、襲いかかる。
なんだ、何が起きているんだ!?
僕は思わず口から溢しそうになった言葉を呑み込む。
この衝撃、上から岩でも降ってきたのか?
凄い振動だ......!
それになんだか敵意のようなものまで同時に降ってきているように思う。
何が、何が近づいているんだ......?
僕は隣で佇んでいるはずのドゥートスを見やる。
空中でフワフワと浮いているドゥートスなら、何か冷静に策を講じてくれるかもしれない。
そう思った。
そう、思っていた。
僕が見た時、すでにドゥートスは謎の闇に取り込まれ、地面に溶けるように消えていた。
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