第8話 静脈坑道を探して
「太陽の、王......!?」
忘れてた。
なぜ僕はこんな大事なことを忘れているのだ。
記憶喪失? 奪われた記憶の弊害が出ているのか?
ならば......!
「......」
質問しようと考えたが、咄嗟にやめた。
なんだか無意味な質問を投げかけてしまうような気がして。
そんな僕の内情を察したからなのか、ドゥートスは何も言わずただ黙々と先へと進んだ。
現在、僕らが辿り着いた場所は『マドノワ広場』というらしい。そう看板に書いてある。
どうやらここにはかつて多くの商人や子供が行き来していたらしい。
ドゥートス曰く、この広場は交易の中心地として数多くの鉱石を運び入れ、他国に輸出するための拠点のような場所だったという。
そんなマドノワ広場であったが、どうも活気という活気が感じられない。
それどころか人一人いない様子だ。
この地底世界、明らかに荒廃しているような、そんな匂いが感じられる。
【一瞬で真実を悟ったみたいだね。
そうだよ、この国は既に滅びている。
君が知る何百年も前にね】
僕はその言葉に唖然とした。
地帝国が、滅びている?
いつ、どうやって?
【とある事件をきっかけに強大な力を持つ悪魔が暴走したんだ。そして地底世界は滅亡の一途を辿ってしまった。
今君が見ている風景は旧文明の名残だよ】
悪魔......お前と同じ、悪魔が関わっているのか、国の滅亡に?
【悪魔は悪魔でも、彼は古代悪魔だ。
かつて創成期の時代に生まれた、痛みを背負う狼だったと聞いたことがある。詳しい概要はわからないけど、その狼は禍をもたらし世界の地上を人々が住めない環境に変えたんだ。
その悪魔の名は《傷の王》という】
傷の王......いつか、僕が戦うことになるのか?
この地底を滅ぼしたっていう悪魔と。
【まさか。
傷の王は封印されてるはずだよ。
何を隠そう、英雄の手によってね】
英雄?
英雄って、傷の王とやり合ったってことか?
【そう。彼こそは地上に閉ざされた現代悪魔の祖を地上に連れ出し、尚且つ地上を傷の王の勢力から勝ち取った世紀の英雄、君も名を聞いた彼だよ】
僕はその時、星の紋様の刻まれた護符をなぜか頭に思い描いていた。
ーーーーー
マドノワ広場から続く道、ルドガリア地帝国を代表する公道であった道『マズミの神経路』と呼ばれる道に足を踏み入れた僕らは、地上への脱出を図るべく脱出口となる道を模索していた。
当然、僕らが使用したルートの血液坑道は使えない。
ドゥートスの話によるところ、このルドガリア地底領に通ずる血液坑道には動脈坑道と静脈坑道があるとのこと。
僕らが目指すのはそのうちの静脈坑道になる。
無論、その静脈坑道がどこにあるかなどわかるわけがないため、それらの模索は非常に難航している状態なのだが、地底には食糧と言える食糧が見当たらないため、やむを得ず根気を振り絞って静脈坑道を探しているのである。
しかし、こうも広い空間内で静脈坑道を探すのはキリがないな。時間も浪費する。
何か良い手があればいいのだが......。
【たしかに、この状況を打開できないのは非常にまずい状況だね。それに、太陽軍がこの地底世界への扉を見つけないとは限らない。あまりモタモタしてられない事態だ】
まったく、急かすようなことを言って。
だが、ここに逃げ延びた以上、何かしらの延命手段は必須じゃないのか?
それに、せめて情報くらい、持っていてもいいんじゃないのか?
【......情報?
そういえば、この旧地底領には、このルドガリアの守護神として君臨する情報屋がいるとかなんとか、聞いたことがある気がする。
その情報屋が今もいるのなら、地上への脱出口を知っているかもしれない......!】
なぜその情報を先に言わない?
それ、一番肝心な情報だろう!
必要な情報を出し渋ると、僕が死んでしまうんだぞ!?
そうなれば全滅だ。
そう、僕が今交わしている契約は一連托生の契約である、悪魔との《同盟契約》だ。
お互いの力を何十倍にも高める代わりに、誰かが死ねば全員が即死する、そんな大きなリスクを背負った契約を交わしている。
そんな状態の中で僕一人がのほほんと死んで許されるわけがない。
計画は、まだ始まってすらいないんだ。
【たしかに、同盟契約がある以上、死ぬことなんてもってのほかだ。
ま、どちらにせよ君という大きな戦力を失えば、こちらとしても希望が潰えてしまう。それだけは絶対に阻止しなくちゃいけない】
希望希望って、そんなこと言うがよ、僕のどこが希望なんだよ、そういやよ。
それ、
僕がそこまで評価されるいわれもないし、理由もわからねえ。
【今はこの地底世界からの脱出に集中しよう。
あまり、人の意見には左右されるべきではないよ。
そうなると自分の信念がぐちゃぐちゃになる。
自分を見失うなよ、ルマ】
ぽかーん。
へ、へえ.....。
なんか、かっこいいこと言えるんだな、お前って。
なんか、なんか負けた気分だ。
【負けてないから。
いいから、早く行くよ。
時間は待ってはくれないんだ。
追っ手が来る可能性も踏まえた上で、早く地上に脱出する手筈を整えるんだ】
そうだな。
受け身のままじゃあいつまでも前には進めない。
前進するんだ、自分の意志を貫いて。
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