第一章 地獄の花園
第6話 神様が宿る
石の剣王。
かつて、ルドガリア地帝国にて【ーーー】を崇拝していた名のある英雄。
太鼓の昔より存在するその彼は、高みを目指しひたすら研鑽を積む。
が、悲劇が訪れる。
傷の王に裏切られ、自分では治せない大量の呪いを体にかけられてしまったのだ。
彼は自らを石にしなければ生きられない、そんな状況に陥ってしまっていた。
ーーー
僕らが目指す場所。
それは完全未知なる地下世界。
いや、正確には地底と言うそうなのだが、そんなことはどうでもいい。
僕は今、未知の領域に心が躍っている。
緑の扉を掻い潜り、目にしたのは異様に不気味で血糊のように赤い抜け道。
ドゥートス曰く、この抜け道を《血液坑道》と呼ぶそうだ。
いかにもというか、そのまんまじゃんというか、とにかく僕はまったく未知なる世界に対して、僕の隣にいるドゥートスですらドン引きするほどの興奮具合を見せていた。
【君、とにかく変人みたいなタイプだよね。
普通、この赤い坑道を見て興奮なんてしないよ?】
うるさい。
心踊るのは未知の世界、僕の知らない完全初見の場所だからだ。
他に比較対象のない光景を目にして興奮することの何が悪い?
別に僕は人の血を見て興奮するとか、そんな異常者みたいなことをしたわけじゃあないというのに!
【はいはい、興奮を抑えてね。
今、
実質的に僕らは逃亡したんだ。
霊陽神もまた、悪魔の聖地を捨てて逃げた臆病者、なんてレッテルを貼られかねない状況だ】
あれ?
霊陽神の立場って、もしかして計画が成功しないとまずいのでは?
【当たり前だろ。
アメトスが僕らに協力するのは、君が《希望の星》だからだぞ? そうじゃなければここまでの高待遇なんてするものか。彼らだってそれなりのリスクを背負って戦いに赴いてるんだ。投げやりになったりするなよ?】
待て待て、流石に投げやりになんてしないよ。
僕は太陽軍から追われているんだ。
なんとしても太陽軍に勝たなくてはならない。
当然、最後までやるさ。
【それを口で言ったら、あとは完璧なんだけどなあ......】
うるさい。
いいだろ、別に。
目的を達成できればそれでいいじゃないか。
【世の中にはね、言霊というものがある。
たしかに言葉を発さないことは相手に情報を与えないという強みもある。
だが、人の本来の力は連携と協力だ。
言葉を話さなければいつか弊害が生じることになる。
そして成功もなければ失敗もない、中途半端な人生になるんだよ】
......おい、急に何を言い出すんだよ......。
びっくりした。急に豹変しすぎじゃないか?
【豹変じゃない、忠告だよ。
連携できない人間、協力できない人間はね、何も達成することなんてできやしないのさ】
「.......」
僕は無言になる。
いや、はじめから言葉など微塵も発してはいないのだが、僕はそれ以上に目の前の悪魔の言葉にぐうの音も出ないでいるのだ。
僕は、この正論と向き合わなければならない気がする。
ほんの些細なきっかけだが、師匠はこんなことを言っていた。
「いいかい、人が何気なく口にした一言には時折神様が宿ることがある。
一見何もない言葉に見えても、その言葉を聞いて自分が変わらないといけないとメッセージをもらったと感じたのなら、それは神様からの忠告なんだ。
だから決して無碍にしてはダメだよ?
無碍にした分、必ず自分も無碍にされるからね」
「無碍にされるって、誰に?」
「神様に」
こんなやり取りがあったのを思い出した気がする......。
あれ? そういえば、この人って......。
そんなこんなを考えているうちに僕たちは血液坑道の長い道のりをいつの間にか踏破していた。
そういえば今更なんだけど、この洞窟明かりがなくても一定の明るさがあるよな。
何も違和感なく馴染んでたけど、なんでだ、そういえば。
ま、細かいことは気にするな。
【さて、着いたよ。
ここがおそらく地下世界への入り口だ】
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