第5話 希望の星
凄い、雷のように全身がビリビリと火花をあげている。
まるで自分が雷そのものになったみたいだ。
全身からエネルギーが溢れ出してくる。
すごい高揚感だ!
全能を思わせるこの体の熱気、燃えるような爽快感!
これだ、これが僕が目指していたもの。
そうだ。
僕はいずれ、独力でこれに辿り着きたいと思っていたんだ。
今だからこそわかる。
この状態、この力こそ僕の終着地の一つだ......!
記憶を失う前の僕が目指したであろう姿、誰にも負けない勇士の姿だ。
僕の胸元にはそんな勇気の象徴であるかのような十字架、その紋様が浮かび上がる。
先ほど目にした青い稲光に匹敵するような輝きだ。
が、次第にその輝きは収束し始める。
僕の内側を駆け巡る熱気は引き潮のように次第に冷たく変化していく。
どうやら、この燃えるような高揚感は一時的な作用だったようだ。
冷静になった今、昂る体の感覚をすでに自分が忘れていることに気がつく。
沈黙の男は冷静になった頭と冴える体を抱え、静かに息を吐く。
その知性に満ちた独自の呼吸と仕草を見てからなのか、アメトスは思いもよらず慌ただしくなっているようにも思える。
いや、違う。
これは僕に向けられた反応とは別のものだ。
流石に傲慢が過ぎた。
これは......遠方の何かを警戒している?
なんだ、何かの命令がきているようだ。
耳を澄ませ? 意識を遠方に集中させろ?
目を瞑ってやるのか?
なんなんだ、もしや、例のアイツらのことか?
僕は内なる神の声に従って目を瞑り、耳に全神経を集中させ、意識を研ぎ澄ませる。
これは......太陽軍!?
見覚えのある奴らが、僕らを襲ったあの脅威の敵が、洞窟の入り口から侵入を試みている!?
これは、非常にまずい状況になっている......!
【太陽軍......!
まさかここまでの暴挙に出るとは.......!
神聖な智慧の螺旋空洞にまで、もしや手を出す気ではあるまいな?】
【そのまさかだ。
この軍勢、ハナから我々に喧嘩を吹っかける気満々のようだ。
見ろ。洞窟内に妙な振動が届いている。
これはおそらく、そこの彼を探知するための超音波だ】
【厄介なことになった。
我々が匿ったことにされれば、表立って敵対勢力を増やすことに繋がりかねない。
太陽軍、奴らから占領された国々を奪い返さねばならない】
なるほど、それが今後の目的になるわけか。
太陽軍は現在、世界の役半分の領土を占領したと言っても過言ではないと、ドゥートスが言っていたな。
その領土と国家を奪い返し、太陽軍の戦力を地道に削ぐわけだな!
よし、あいわかったぜ!
それこそが今後の方針の主軸、作戦のキモになるわけだな!
そして僕の予想は正しく、彼らはすぐに作戦決行に必要な情報と今後の方針を急遽話し始めた。
【時間がない。手短に今後の方針を伝える。
我々アメトスとルマ、そしてドゥートスは、これより太陽軍の占領する他国の奪還に乗り込む!
太陽軍は未知の兵器を所有する世界屈指の軍隊だ。
ゆえに、何の策もなしに迂闊に飛び込むのは愚策と言える。
そこで、我々霊陽神は九つの国々に分かれ、現地の調査と偵察を行う!
そして《希望の星》ルマよ、君が現地に辿り着いた時、我々霊陽神が担当する国ごとに君らをサポートする。
着実に太陽軍を追い詰めるためにね】
僕はこくりと頷く。
そうだ、これは戦争なんだ。
油断すれば命が危ない。
簡単に足元を掬われる世界なんだ。
僕だって油断している暇などないんだ。
落ち着け、この戦いを制する鍵は自分なんだ!
冷静に、着実に事を運べ。
【現地でサポート?
つまり、その作戦の主軸にあるのはルマということになるのですか?】
【その通りだ。
我々が潜伏し、奪還の主軸は君たち二人がメインで行う。
我々は表立って領土を奪うことはできないからな。
君が《希望の星》ならば不可能ではないだろう】
え? 待って、それって僕らの負担が重くね?
ちょっ、まっ!
聞いてないんですけど!!!
【我々と契約した以上、後悔はさせない。
さあ、敵が間近に迫っている。
我々はこの聖地を一時的に離脱し、《希望の星》の援護に努める。では、向かうぞ!】
彼らがそう口にした途端、アメトスらは光となって螺旋洞窟の天井を通り抜けていった。
いやいや、え?
嘘だろ?
僕ら、今からとんでもないことするんじゃ?
【とにかく話は後だ、ルマ。
僕らは一刻も早くこの洞窟から抜け出す必要がある。
敵軍が来る前に出口を見つけるんだ】
そんな無茶な!
ここは洞窟内だぞ!?
もし逃げられたとしても、どこまで進めばいいんだよ!
地上に出ても間違いなく捕まるだけなんだぞ!?
【心配要らない、抜け道の情報なら今通達が来ている。
この空洞の地下に巨大な地下世界への入り口があるんだって。行こう!】
え、出口あるの?
じゃあ、遠慮なく向かっちゃおう。
今太陽軍と戦っても勝ち目ないだろうし。
こうして僕らは嬉々として秘密の地下世界への入り口へと向かった。
いや、嬉々としては間違いだったか......。
その扉の先には一体どのような世界が繰り広げられているのか、楽しみだ。
僕の冒険はここから幕を開ける。
予想だにしない冒険が待ち受けている。
そんなワクワク感に包まれながら、僕は抜け道のあるという地下の扉の前に辿り着き、そしてその舞台へ通ずるそれをこじ開けた。
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