第4話 素質ある者
は?
僕は驚きのあまり絶句する。
いや、元から声を出さない体質ではあるんだけども、それでもその異様な光景には思わず息が止まりそうになった。
【太陽軍、彼らに用があるようだな】
アメトスらしき人物がこちらに向かって語りかける。
僕はその言葉にしきりにイエスというジェスチャーと首の縦振りで応じるが、ドゥートスはそれでは不十分だと僕の肩を叩くと、すぐさま言葉でそれらに応じてくれた。
【ええ、僕らはあなた方の力を借りるためにここへ来ました】
【無謀だな。たしかに我々なら其方らの力になり得るかもしれない。
しかし、限度を知れ。
其方らでは話にならぬ】
【それは、彼が力不足だからですか?】
僕かよ!
お前は違うのかよ!
僕は心のうちで激しいツッコミを入れていた。
実に不愉快な話である。
【それは彼だけに言えることではない。
彼の契約者たる存在、君にも言えることだ、ドゥートス】
ドゥートス?
たしかにこいつは生意気な奴だけど、契約を交わすのはあくまでも僕だろ?
何か不都合でもあるのか?
【契約の話をしたいのだろう?
それも、同盟契約の話を。
残念だが、同盟契約とはそう易々と交わせるようなものではないのだ。
其方らの希望に沿うことはできないが、せめて増援として我々の戦力に加担することくらいならば、許容は可能だ。
それ以上の要求は不可能だと思ってくれ】
なるほど、それならば彼らに加担するのは手としてはアリだ。
人となりを知らないとはいえ、アメトスの庇護下に入るメリットは大きい。
了解だ。
そう言いかけたその時だった。
影の悪魔ドゥートスは僕とはまったく違うことを頭の中で思い描いていた。
【いや、あなた方には彼の力は必要ですよ。
ここで契約をしなければあなた方は後悔する】
......何言ってんだ、こいつは?
いや、突然何言っちゃってくれてんの、おい。
【ほう、理由を聞いても?】
【彼はあなた方の求める素質ある者なのです。
そして僕はそんな彼をスター・タリズマンに託され契約を交わした悪魔なのです】
スター・タリズマン?
誰だそいつは?
なんだか懐かしいような、そうでもないような......。
もしかして、記憶を失う前の僕が出会っている相手か?
だとすれば今記憶を失っているのは痛いな。
何も手がかりが掴めない。もどかしい気分だ。
【なるほど、たしかにそれは一考の価値があるかもしれないな。
スター・タリズマンの残した灯火、はてさてそれが本当か否か、我々の納得できるものを示せるのか?】
【それは、わかりません......
僕たちは彼の遺品を回収することはおろか、逃げることで精一杯だったので】
【ふむ、判断材料がないのか。
では其方らはどうやって我々を納得させる気でいたのだ?】
【これです】
パチン。
ドゥートスの指先らしき先端から白銀の火花のようなものが
バチンと浮かび上がる。
するとその火花に連動するかのように僕の肉体は内側から白銀色の輝きを放ち始める。
あれ? これ、なに?
僕は戸惑いを隠せず、全身が異常に輝くこの姿に混乱を隠せずにいた。
【その輝きは、まさか.......!】
【ええ、ノノレマ神の片鱗です。
僕は生前、その御方からのお告げを耳にし、彼を導く下準備を行ってきました。
全てはこの時のために】
ノノレマ神? それって、今僕の体を絶賛輝かせているやつの名前か?
なんだそれは。
今すぐその輝きを止めてくれ。
などという思いも言葉にしなかったがために聞こえるはずもなく、僕の意志はなんの意味もなくスルーされる。
【其方、何者だ.......?
あの御方からの告げを聞ける者など、そうはいない......!】
【信じては、もらえませんか?】
【いいや、信じないわけにはいくまい。
しかしまさか、こんなところであのお方の片鱗を目の当たりにするとは......!
これはたしかに無碍にはできぬな】
目の前のアメトスと呼ばれる存在らはまるで腹を括ったかのように声色を変え、頷いたように見えた。
【了承した。
これより我らアメトスと、そこの男ルマの同盟契約を締結しようではないか!】
同盟契約!? ほんとに締結できんのか、そんなものが!
というか、やっぱり悪魔となると僕の名前はわかるものなのか。
しまったな。こういうことなら、あらかじめ名乗っておけばよかった。
僕の名はルマ。
今更と思うかもしれないが、一応記憶を失う前の"愛称"だけは鮮明に覚えていた。
本当の名前は僕も知らない。
ルマにちなんだ名前なのかもわからない。
お先真っ暗だ......。
同盟契約を結ぶ矢先、僕はドゥートスの方を振り向くが、僕の昂る心とは相対するように、ドゥートスの心は冷めたように冷静だった。
【急ぎましょう!
奴らが攻撃を仕掛ける前に、急いで力をつけるんです。
奴らには僕でも知らない未知の兵器があります。
もし力をつけたとしても、今はぶつからず、逃げることに徹するつもりです!】
【了承。
すぐに準備を開始しよう。
円陣を描き、契約の儀を執り行う】
契約の儀......その言葉と状況だけが刻々と過ぎていき、僕だけがその場に取り残されているような感覚に陥る。
が、そんなこととはつゆ知らず、霊陽神は躊躇なく僕を描いた円陣の中心に押しやり、立たせる。
「ちょっ!」
【始めるぞ。モタモタする時間はない。
選ばれし希望の星ルマよ。
其方に新たな力を授ける】
新たな、力......。
普通はそう聞くと心が躍るものだが、この時の僕は今までとは一層異なる反応を見せていた。
らしくない緊張感に呑まれ、じわじわと自分の中心が得体の知れない乖離した異次元の自分を作ろうと試みる。
意味がわからなくなってくる。
この空間、この空洞、この洞窟には、明らかに惑星の環境とは異なる何かが流れているのは明らかだった。
そして、儀式は始まる......。
儀式が開始した瞬間、僕を中心とした円陣がまるで魔法陣のように宙に浮かび、そして空洞内に青い閃光、すなわち電流の柱を生み出していた。
雷?
そう思えるエネルギーの分岐した柱が徐々に一点に収束していくのが見て取れる。
これは、電気の渦潮とも言えるものだ。
僕の足元には渦潮のように渦巻く青い稲光が膨大な青い光を生み、そして僕の全身に九つのエネルギーが流れてくるのを僕の脳と肌がピリピリと感じ取っていた。
まるで人間をやめてしまったかのような感覚......自分をやめて、神様の次元にきたかのように心地良さを実感すると、僕は音一つない静かな空間の中で雲の上を歩いていることに気づいた。
これは......完全に幻だった。
僕を惑わす幻。幻惑。
僕をどこかへ誘おうとするその景色は、次第に色を変え、僕の意識そのものに呼びかけ、僕を現実世界へと押し戻した。
凄い不思議な感覚だった。
別世界での擬似体験とも呼べるその体験を経て、気づけば僕の体は九つのエネルギーをその身にまとっていた。
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