第3話 智慧の螺旋洞窟


僕らが目指しているの詳細。

それは悪魔の森で高い地位の悪魔と結ぶ内密の同盟契約だ。

当然、契約となればリスクがないなんてことはない。

僕らが結ぶ同盟契約というのは、あくまで"太陽軍を殲滅するための契約を結ぼう"という、それだけの提案。

受け入れて貰えるかはわからない。

完全に賭けギャンブルだ。

せめて一人結べれば御の字。

うまくいって二人程度か。


そしてその契約を結ぶ悪魔というのが、遥か古より存在する霊陽神アメトス》だ。

霊陽神はいついかなる時も時代に即しない悪の勢力、過剰な戦力に対するこの世界の抑止力として機能してきた神聖な存在だそうだ。

言うなれば、悪魔界の本物の神様なのだとか。

悪魔とは名がつくものの、実際は本当に神秘的な存在なのだという。

当たり前だが、一筋縄でいく話ではない。

少しでも多くの可能性を見出すためには、やはり霊陽神アメトスの人となりを知らなければならないのかもしれない。


【僕たちはぶっつけ本番だよ。

なにせ、同盟契約というのは一蓮托生の契約だからね。

お互いの力を何十倍にも高める代わりに、お互い誰かが死ねばその時点でゲームオーバー。

一緒に仲良くあの世行き。

君がその契約を結ぶに値すると見られるかどうかは君のポテンシャルに委ねられているってことだね】


それを上機嫌で言うあたり、非常に頭が痛い。

コイツ、僕が四苦八苦してるのを楽しんでやがるな?


目的の場所までは目と鼻の先。

僕らは九人の最高権威を持つ悪魔霊陽神のもとへ、一歩一歩着々と歩を進めていた。




僕らが辿り着いた場所、それは《智慧の螺旋洞窟ラモーヌス》と呼ばれる悪魔の起源と言われている場所である。

遥か昔、悪魔はこの世に生まれた空白を埋める存在『時間』の出現によって連鎖的に創造され、狂いの象徴として存在してきた。

当然、悪さばかりをしていた悪魔は少しずつ淘汰されていくと、次第に悪魔は悪戯に費やすエネルギーを奪われていき、一度は完全にこの世から消滅したと言われている。


【ここは悪魔の本当の起源と呼ばれる神聖な場所だ。

悪魔、それは悪魔のみならず、全ての生きとし生けるものに宿る狂いの渦と言われている

そしてここにはそれらを象徴とする存在『狂いの二重螺旋メドゥラース』と呼ばれるものが数多く残されている】


悪魔の起源、ねえ......。

ぶっちゃけ、悪魔と言ってもここでは形なき悪魔のことを指す言葉なんだろう。

形なき悪魔......人は悪という存在をあたかも自分の見えるもの、形あるものに限定したがるという性質があるとかないとか。

それにちなんだ、【本当の悪魔は目に見えないところにあるもの】ということを象徴するのが、形なき悪魔だ。

形なき悪魔は僕らが今から会う存在である霊陽神にも通ずるものでありながら、時間から生まれた実体のない悪魔だ。

生き物を狂わせる力を持った存在【悪魔】。

一体その神とやらはどれほどのものなのか、実に興味深いものだ。

どれ、その狂いの二重螺旋とやら、一度触ってみようか。


【ねえ見て、これを。

この二重螺旋、触ると人間なら即死だけど知ってた?

生命の時間があべこべになって、この世から完全に消失するか、骨になるかに分かれるんだってさ。

メドゥラースは悪魔以外が触ればとんでもないことになるから、絶対触っちゃダメだよ?】


おい、即死だと?

うっかり触りかけたじゃないか!!!

おい先に言え!

そして僕の反応を楽しむなよ!!!


【変なの。

君って人のこと信用しないとか考えてる割に、好奇心の赴くままに手をつけるよね。

ほんと、変な天邪鬼だよね】


余計なお世話だ。

それよりアメトスはどこだ?

どこにも見当たらないが?

探せば、見つかるか?


なんてことをつらつら考えながら、僕はその巨大な洞窟を見渡す。

天井一帯、壁の隅々まで見たが、これは洞窟というより言うなれば巨大な空洞だ。

なぜ洞窟という名がつけられてるかはわからないが、たしかにこの雰囲気と迫力は悪魔の聖地と呼ばれるだけのものは揃っているようにも思う。

なにより......天井、地面、壁、この空洞の中央から最奥に至るまで、そこに散りばめられた鉱石が異常な美しさを醸し出している。

この綺麗さ、美しさはまさしく満点の星空、天の川と同類もしくは匹敵するレベルの次元にあると言えるだろう。

そんな絶景を僕は目の当たりにしながらも、懸命に目的の存在を探す。

あれ、おかしいな。

どうして例の悪魔はどこにも見当たらないのだ?

いや、たしかに古代の悪魔は現代悪魔と違いはっきりとした実体がないと聞く。

その実体のなさで洞窟のあちこちをすり抜けてるんじゃないか?

影の悪魔コイツみたいに。


【コイツ呼ばわりすんな。

というか、来たよ。

僕らの目的の人物らがさ】


来た? 

僕はドゥートスの方を振り返り、その悪魔が向けている輪郭のない顔の向きに視線を合わせ、逸らす。

するとそこには、僕が想像だにしなかったものがおよそ九つ、宙に浮き、そしてその空間にふわふわと佇んでいた。

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