第6話 電車の旅
駅を離れた列車は徐々にスピードを上げていきました。
ピーターの住んでいる村はちっとも大きくはないので、発車してから一分もたたないうちに視界から消え去ってしまいました。
途中のPセンターの駅までは彼も乗ったことがありましたので、見たことのある景色が続いていましたが、そこから先はEシティ行きとRシティ行きの電車は方向が変わるため、電車がPセンター駅を出るときに彼は本当に未知の世界に踏み込んでいくような気分がしました。
実際はまだ辺り一面にラズベリーの畑が広がっていて、緑とあかむらさきの美しい情景が続いていたのであまり変わり映えはしませんでしたが、初めてという感覚だけが彼を高揚させていました。
「そこの少年よ、」
彼の向かいに座っていた妙齢の女性がピーターに声を掛けました。
「旅行は初めてなのかい。やたら楽しそうだけれども」
「そうなんです。一人で旅をしてみたかったんです」
プルメリアと名乗ったその女性はそうなんだ、とほほ笑んだ後にどこへ行くのかと尋ねました。
「この電車はRシティまでだけど乗り換えればフランボワーズにも行けるもんね」
「いいえ、とりあえずRシティで降りてみて1-2週間とどまってみるつもりです」
そうピーターが自信満々に告げると、プルメリアさんは小さな名刺ほどの紙をカバンから取り出して彼に手渡しました。
「わたしはRシティで妹のペチュニアと一緒に小さな雑貨屋を経営しているの。良かったら訪ねてきてちょうだい。お昼ぐらいはごちそうするわ」
そう言って彼が受け取ったカードには、きれいな金色の文字で、CHARM & GRACE KNICKNACKS という店名と、Rシティの北側のエリアの住所が書いてありました。
「すごくかっこいい…」
彼はそのお洒落さのとりこになってしまいました。
「そのあたりはPエリアの人が多く住んでいるあたりだし、うちのお店ではPエリアのアンティークなんかも扱ってるから、ホームシックになりそうだったら来るといいわ」
プルメリアさんは優雅にそう言った後、ピーターにお茶を注いでくれました。
「ありがとうございます。でも見知らぬ人にこんなにしてもらっていいんでしょうか」
「いいのよ。この優しさがP人の誇りなんだから。あなたも将来誰かにしてあげればいいだけだからね」
2人はお茶を飲みながらしばし景色を眺めていました。
そしてある長いトンネルを抜けたときに、外を指さしてピーターに声を掛けました。
「ほら、あの背の低い緑の中に赤いものが光っているのが見えるかしら。あれが生っているイチゴよ」
「ということは、もしかして…」
「Rエリアに入ったってことね。ほら、あそこに街が見えてきたでしょ」
トンネルを抜けてから30分ぐらい走った電車は、だんだんと街の中に溶け込んでいって、そして中心にある大きな駅に滑り込みました。
用事があるらしいプルメリアさんと別れたピーターは、一人大きなステンドグラスの輝くプラットホームにそっと、でもしっかりと降り立ったのでした。
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