第5話 独り立ち
ピーターはその条件をのみました。
そしてあくる朝の出発が決まりました。
もちろんその夜彼は眠れるわけもなくて、彼はいろいろなことを想像しては目を輝かせていました。
大きな街、騒がしいほどの人ごみ、Rエリアだからイチゴも採れるはずだからきっとおいしいジャムにありつけるはず、エトセトラエトセトラ。
人が多いってことは同年代の人もいるはずだから友だちとかあわよくばロマンティックな出会いがあるかも…
明日からの元気を養うためには寝慣れたベッドでぐっすり寝ておくのがいいのですが、今の状態の彼にそんなことはできるはずもなく、やっと彼の想像の中に羊が出てきたとき夜はもういいところまで更けてきていました。
そして次の朝、すこし睡眠の足りないピーターはいつも以上に重たいまなこをこすりながらラズベリーを摘んで、お茶を飲んで、支度を整えました。
「じゃあね。いってきます。」
「いってらっしゃい。気を付けてね。街には危ないこともあるからね。いい人ばかりだといいんだけれど」
そう声をかけたお母さんへの注意は薄く、というのも隣のコテージのベランダにパーシモンさんが出てきて日光浴をしているのが目に入ったからなのでした。
「パーシモンさんにも挨拶しなきゃいけないからもう行くね」
彼はそういうや否や手を振りながら駆け出して隣の邸宅に入りました。
「パーシモンさんおはようございます。今日がその出発の日です」
2人は冒険の話をしたことがあったのでそれだけで十分だとピーターは思っていましたが、パーシモンさんはちょっと下を向いてから一言尋ねました。
「やっぱりRシティに行くんだね」
「そうです。一番近い大きな街ですし、それに、」
彼はいったん口をつぐんでから決心したように声を上げました。
「自分で生きてみたいんです」
「そうか、そこまでいうなら行くがいい。ただし嫌なやつに遭った時のためにお守りとしてこれをあげておこうじゃないか」
パーシモンさんはそういってポケットから小さい紙の束を出して、「うーん、これくらいでいいか?」などと独り言を言いながら数字を書いてピーターに渡してくれました。
「これは?」
ピーターはなんだかよくわかっていませんでした。
「とりあえず持っておきなさい。そしてどうしようもないことがあったらこれを出しなさい。お金の代わりになっておそらくどうにかはなってくれるはずだから」
「ありがとうございます!そろそろ電車がくるので行かなきゃいけないんです!」
ピーターはお礼を言ってまた道へ駆け出しました。
駅に着いたのは電車の出る15分前でしたが、切符を買ったりホームや座席の位置を確認したりしていると時間はあまりありません。
なんとか自分の席を見つけることができた彼はほっとして、でも同時にドキドキが止まらなくなりました。
そしてきっかり15分後、普段1日に10本しか電車の来ない田舎の駅から、人生でまだ3回しか電車に乗ったことのない少年を乗せて、電車は少年の夢とともにがたん・ごとんとゆっくり動き出していくのでした。
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