第4話 出発の準備
そんなわけで彼は夏休みの最初の一週間を冒険の準備に費やしました。
今まで貯めていたおこずかいを引っぱり出し、それでも足りないといけないので隣のパーシモンさんの畑の草刈りなんかを手伝って資金を貯めていきました。
幸いなことにパーシモンさんはブルジョワジーと呼ばれるお金持ちの人で、いつもは都のフランボワーズにいるのですが夏休みにのんびりしにこの村にやってくる奇特な人でしたから、きれいな別荘の維持のためにピーターを日雇いで使ってくれたのでした。
なんでもイチゴのへたをうまく取れる機械を発明することができたとかなんとかで羽振りのよいパーシモンさんは、それでも驕ることなくみんなに分け隔てない、優しく素晴らしい人で、朝から晩までピーターが懸命に働いたこともあって、冒険資金を倍くらいにまで増やしてくれました。
夜にはリュックの穴を自分で縫ってからその中に必要そうな物資を詰め込んでいき、準備はそろそろ万端になっていました。
さてこうなってくると問題になるのは両親をどうやって説得するかという点についてでしたが、お母さんはきちんと筋道を立てて説明すればわかってくれる聡い人でしたし、お父さんには前々から少し見分を深めた方がいいと言われていたので、たぶん簡単に通るだろうと彼は思っていました。
「ねえ、旅に出かけたいんだけどいい?」
夏休みが始まって2週間めの火曜日の夜ごはんのとき、彼はこう切り出しました。
「お金もこれだけ貯めたし、宿題はちゃんと予定表立てて今まで守ってるし、一か月で戻ってくるから」
両親がそんなに悪い顔をしなかったので彼はほっとしました。
「それで、旅程は立ててあるのか?どこへ行くつもりなんだ?」
とお父さんは尋ねました。
「まず朝の電車でRシティまでいって、そこでひとまず2週間ぐらい一人で生活してみたいんだ。パーシモンさんが言うにはいまRシティはとっても活気があって僕ぐらいでもできる簡単な日雇いの仕事もあるんだって。」
そこまで言うと二人の顔がちょっとだけ曇りましたが、ピーターは夢中でしゃべっていたのでぜんぜん気づきませんでした。
「それも悪くなさそうだがEシティとかに行ってみるのはどうだい?」
お父さんがそう言うとお母さんも同意したようにうなずきました。
「Eシティには行ったことあるし、そのあとフランボワーズ観光をしてから帰り道に通る予定なんだ。それでいいでしょ」
彼の旅程は完璧に決まっていました。
「いやそういうことではなくてだな、お前のためにはEシティの方がいいと思うぞって話なんだ」
とお父さんが話しても耳を貸しません。話し合いは長くなりそうでした。
その時、
「じゃあそこまで言うなら」
話を止めたのはお母さんでした。
そしてピーターをしっかり見つめて言いました。
「一回あなたの思うとおりにしてみるといいわ。現実の社会を見るのも大事な勉強の一つだと思う。それに夏休みの課題のレポートのいいトピックになるでしょうよ。その代わり一か月は自分でなんとかすること。いいわね」
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