雷鳴
岸亜里沙
雷鳴
ラブホテル「ペニーレイン」の103号室の扉を蹴破り、俺は中へと浸入する。部屋の中は薄暗いが、事前にホテルのホームページで確認したので、どういった間取りなのかは把握済みだ。
俺はショルダーバッグからミリタリーナイフを取り出し、足早にベッドまで近づく。そして
淡いルームライトに照らされた男と女は、唖然とした表情で俺を見上げている。
俺が躊躇なく振り下ろしたナイフは、男の心臓を突き破り、背骨まで達した感覚が腕へと伝わってくる。
女は男の血を浴びて絶叫し、全裸のまま逃げようと走り出すが、俺は逃がさない。
もう一本のナイフを取り出し、女の背中を突き刺すと、女はその場に崩れ落ちる。俺は馬乗りになり、ナイフで女をメッタ刺しにし、呟く。
「この
俺は車を走らせながら、これから行う
不倫をしていた妻への復讐。
相手の男も一緒に殺害し、
別に俺は捕まるのも怖くない。失うものは何も無いからな。
俺が妻の不倫を知ったのは、約二ヶ月前。
「友達に会う」と言い、妻が頻繁に外出するようになったので、俺はそこから妻のケータイにこっそりGPSを取り付け、足取りを追うようにした。そして俺の読み通り、妻は外出すると毎回同じ「ペニーレイン」というラブホテルを利用している事が判明した。俺に嘘をつき、毎回男と
その認めたくない事実を考えるだけで、沸々と怒りが込み上げ、殺意以上の強い憎悪の感情が湧いてくる。
「絶対に殺してやる。絶対に殺してやる。絶対に殺してやる」
狂気と化した思考を引き連れ、俺は車を飛ばす。
ラブホテルの駐車場に着き、もう一度妻のGPS情報を確認した。
「間違いない。確かに103号室だ」
俺は一つ大きく息を吐いて、ショルダーバッグを持って車を降りる。
そして部屋の前まで行くと立ち止まり、バッグの中からゆっくりとミリタリーナイフを取り出す。
「覚悟しろよ」
一気に扉を蹴破って中へと浸入した。予想通り室内は電球色のルームライトに照らされているだけで薄暗かったが、事前に確認していた通りの間取り、家具の配置だ。
俺は迷う事なくベッドの脇へと近づくと、全裸の妻がこちらを見上げ驚いた表情を見せる。
「あ、あなた?な、なんでここに?」
だが、俺は妻以上に驚いた表情をしていた事だろう。不倫相手の顔が妻の向こう、乱れたシーツの上に見えたからだ。
「さ、
俺は、右手にミリタリーナイフを持ったまま立ち尽くす。
「えっ?お、お兄ちゃん?」
聞きなれた声が返ってくる。
ベッドの上に居たのは、妻と不倫相手の男ではなく、俺の実の妹だった。二人とも全裸で、ベッドの上にはローションやバイブも転がっている。
「お、お前たち、どうして?」
俺は頭が混乱してきた。
「な、何をしてるんだ?」
妻と妹にそう聞くのが精一杯だった。
妹はシーツを手繰り寄せ、顔と体を隠しながら
妻は俺の方をじっと見据えている。右手に持ったままのミリタリーナイフにも気が付いているのだろうが、慌てる事なく話し出す。
「あ、あなた、ゴメンなさい。毎回友達と会うと言って、本当はあなたの
視線を妹に向けるが、妹はまだ
「どうして?」
俺は妻に訊ねる。
「ちゃんと言わなきゃって思っていたの。私、本当はあなたの
突然のカミングアウトに、俺は面食らう。
俺の妹が好きだった?
だから俺と結婚した?
「ちょ、ちょっと待て。じゃ、じゃあお前たちには、恋愛感情があるって言うのか?」
「ええ。でも最初、
赤裸々に話す妻の奥で、妹はまだ
俺は頭を振った。
マグマのように煮え
異性ではなく同性、しかも自分の実の妹との密会だったという事実が、俺の殺意を急速に冷ましたのかもしれない。
俺は妻と妹に一瞥もくれず、無言で部屋から出て行った。
雷鳴 岸亜里沙 @kishiarisa
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