第24話 キスしてレベルアップ



 クロヨンの村にて。

 体の調子が良いというアスベルを調べたところ、ステータスに『薬の聖女の加護』という見慣れぬ単語があった。


「んだよ……聖女の加護って……?」


 再度、鑑定を行う。


・薬の聖女の加護

→薬の聖女が与える力。

 強い生命力を与え、さらに長所をワンランク上げる。


 どうやら、私がアスベルに力をいつの兄か授けていたらしい。


「強い生命力に……長所をワンランクあげる……」


 まさか、と思って私は鑑定スキルの派生スキル、【適性診断】を実行。


~~~~~~

アスベル=フォン=マデューカス(加護あり)

管理A  教育B  警備SS

研究B  営業B  運搬B

医療D  事務D- 農林漁D

魔法D  芸術D  製造D

~~~~~~


「マジか……」

「どうかなさったのですか、聖母様?」


 ユーノが近づいて尋ねてきてた。


「……適性が、上がってやがる。しかも……SSだって」

「!? そんな……馬鹿な……!」


 ユーノも驚愕していた。

 正直、私も動揺を隠せないで居る。


 あ、ありえねえ……。


「どうしたんですか、セイコ? ユーノまで。そんな鳩が豆鉄砲くらったような顔をして?」


 きょとんとしてるアスベル。

 ……ことの重大さがわかってねーんだな、こいつ……。


「アスベル。信じられないようだが……おまえの適性が、上がっていた」

「おお……! すごい!」


「正直、前代未聞だ」

「? そうなのですか?」


 ……こいつ。


「ひょっとしてどう異常事態なのか、わかってねーな……?」

「はい!」


 べしっ!

 アスベルは頭を叩かれたっていうのに、笑っていた。


 ……ったく、調子狂うな。


「アスベルよ。適性っていうのはな、素質や性格、能力等がその物事に適していること言うんだ。その適性が上昇してる。これは異常なことなんだよ」


「は、はあ……」


 ちんぷんかんぷんといったツラだな……ったく……。


「身体能力とちがって、鍛えても、適性は、上がらないってことだよ」


 適性って言うのは、生まれ持ったものだからな。


「なるほど……! つまり……セイコが凄いってことですね!」

「いや、どうしてそうなるんだよ……」


「だってだって、普通は上がらない適性を、あなた様のお力で、上げることができるんですからっ! 凄いことですよ!」


 ああ……まあ……そういう見方もあるわけか。

 そうだよな、加護を得たから上がったわけだし。


 与えた私が凄い……か。


「でも、いつの間にセイコ様、俺に加護なんてお与えに……?」


 アスベルが急に体の調子が良くなったのは、今朝からだという。

 今朝……つまり、私がこいつにキスをしてからだ。


 キス……まさか……


「多分だが……おまえにキスをしたときだろうな」

「! なるほど……つまり、セイコはキスをするだけで、相手を強くできるのですね! うぉお! すごい! 神さまみたいですぅ!」


 神さまって……大げさなやつだな。

 やれやれ、はぁ~……。


 すると、ユーノがすすす、と近づいてきて、私の前で跪く。


「聖母様。お願いがございます」


 こいつがお願い事なんて、珍しい……。

 いや、ほんとに珍しいことだぞ。ど、どうしたんだろうか……。


「内容にも寄るが、言ってみろ」


 ユーノには世話になってるからな。

 私にできることなら、やってやりたい。


「どうか……私めにも加護をさずけてください」

「え?」


 加護を授けろ、だと……?

 それってつまり……。


「だめだぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!」

「うわっ! お、おいアスベル! 急にでけえ声出すな!」


 アスベルは私をぎゅーっと、力強く抱きしめる。


「セイコのキスは、俺だけのものだ! セイコは俺の妻だからな!」


 ……加護が欲しいとはつまり、私とキスをしてくれってことだ。

 で、アスベルはそれが嫌……と。


「ハレンチ執事め! なにが加護を与えてくださいだ! セイコとキスしたいだけだろうが!?」

「ふぅ……何をおっしゃる。私はただ、聖母様のために、強くなりたい。それ以上の意味はないです」


「嘘つけ! どうせ世界一美しいセイコとキスをしたいだけのくせに! このエロ執事!」

「聖母様が世界一美しいことにたいしては、同意見ですが。エロ? ご冗談を。私は純粋に聖母様のために強くなりたいだけで……」


 ふぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~。


 あ゛ー……キレそうだ。

 なんだこのレベルの低い会話はよぉ……。


「今んところ、不確定要素がありすぎる。ほんとにキスをするだけで加護を与えられるか、わからん」

「でしたら……どうか、この私めに……ご褒美……もとい、加護を授けることで、検証してみるのはどうでしょうか?」


 まあユーノの言うとおりだ。

 検証は必要だろう。しかし……。


「…………………………」


 アスベルのやつが、捨てられた子犬のような目で、私を見てくる。

 こいつ……私が他の男とキスするのが、そんなに嫌なのかよ……。


 はあ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~…………。

 ったく、独占欲の塊だな、こいつはよぉ。


 仕方ない。こいつが嫌がるなら、今はやらないでやるか。


「加護の付与については、今はしない」

「セイコ! 愛してます……!」


 アスベルが私の腰を抱き寄せて、ぎゅーっと抱きしめてくる。

 やれやれ、この程度でなに感激してるんだか。


「聖母様。なんだか、嬉しそうですね」


 ユーノがちょっと、いや、かなり不機嫌そうにつぶやく。

 お願いを却下したからだろうか。


「悪かったって。仕組みがわかったら、加護を与えるからよ。キス以外で」

「……………………………………ありがとうございます」


 お礼を言ってるわりに、すごい不満そうだった。

 一方でアスベルはフフン、と得意げに鼻を鳴らす。


「わるかったな、ユーノ! セイコは俺のセイコなんだ! セイコとキスできるのは……俺だけ! ふっふーん!」

「…………………………反乱されろ、色ボケ皇帝」


「今何か言ったか貴様っ」

「キス程度で調子に乗るなよクソガキ、と言ったのです」


「口……悪!」


 私はアホ二名の頭を叩く。


「おまえら、じゃれてんじゃねえ。状況を理解せよ」

「「はい……申し訳ありません……」」



 素直に反省するアホ犬2名。

 ったく……。


「村に結界を張った。が、これで完全に安全になったわけじゃない。瘴気だまりを浄化しないといけねえ」


 ユーノが私が欲しいタイミングで、地図を広げる。

 アスベルと、黙ってずっと見ていたサホが、のぞき込む。


 ……今思ったんだが、サホは思ったよりも、有能じゃないだろうか。

 ユーノはたしかに能力的にすごいのだが、私のことになると取り乱すし。


 バカ皇帝と一緒にバカをやってしまう欠点がある。


 一方、サホは大人だ。

 さっきのアホ会話において、悪乗りしてくることもない……。


 ふむ。

 優秀な彼より優秀だという娘は、どれほどのものか。


 早く起用したいものだ。


「話を戻そう。クロヨンに隣接する奈落の森アビス・ウッドには、複数の魔力だまりがあるとされてる」


「複数……ですか?」


 アスベルが首をかしげる。


「ああ。通常、森に1つくらいしかない瘴気だまりだが、この奈落の森アビス・ウッドは広いうえ、出てくる魔物のランクも高い。瘴気だまりが複数あると見て、間違いないだろう」

「なるほど! さすがの名推理! セイコは美しいだけでなく頭もいいですね!」


 こいつ息を吐くように私を褒めるな……。

 他の女にもこうなのだろうか。だとしたら嫌だな……。嫌? 何言ってんだ私は……。


「こほん」


 考え事してるタイミングで、とユーノが咳払いをする。

 ほんと有能だなこいつ。


「ともあれ、だ。クロヨンの村に近い瘴気だまりくらいは浄化しておきたい」

「では、これから兵を率いて、森に入るのですか?」


「そういうことだ」


 兵士達の表情が暗くなる。

 まあ、わからんでもない。


「そう心配するな。たしかに奈落の森アビス・ウッドの魔物は、結構強い。が、今はアスベルもいるし……それに、【これ】がある」


 私はアイテムボックスから、赤いポーション……SSポーションを大量に出す。

「サホ。おまえちょっと、SS飲んでみろ?」

「は、はあ……。ですが、皇后陛下。おれは別にケガも病気も……」


「良いから、飲め」


 彼は素直にうなずくと、SSポーションをゴクリ。

 カッ……! とサホの体が、赤く輝きだした。


「お、おお! 皇后様! なんだか……力がわいてきます!」

「サホ。ちょっとグリポンを抱っこしてみろ」


「ぐ、鷲馬グリフォンをですか!?」


 グリポンは村のはずれで、ずっと大人しくしてる。


「グリポン。サホがおまえを抱っこする。暴れるなよ」

「ぐ、ぎゃ……?」


 鷲馬グリフォンも首をかしげていた。

 多分そんなの無理、といいたいのだろう。


 サホも同じ気持ちなのはわかる。

 ふっ、まあ見てろ。


 サホが……ひょいっ、と鷲馬グリフォンを持ち上げたのだ。


「「「ええええええ!?」」」

「あのデカい鷲馬グリフォンを、持ち上げた!?」


 兵士達、そしてアスベルが、驚愕する。


「ど、どうなってるんでしょう、皇后様。鷲馬グリフォンからは、まったく重さを感じないのですが……?」

「だろうよ。SSが効果を発揮してるからな」


「どういうことでしょう?」


 私はポーション瓶を手に持って、兵士達に説明する。


「このSSには、怪我人、病人を一瞬で回復させるだけの、強い生命力がこめられてる。じゃあ、健康なやつが飲めばどうなると思う?」

「! そうか! 強い生命力を吹き込まれた結果、超パワーが身につくってことですね!」


「正解だ」

「なんと……! 怪我人の治療以外にも、見方をパワーアップさせる力まであるなんて! すごい!」


「つっても、ポーションの効果が切れたら、向上した能力も元に戻るがな」


 あくまで、一時的なパワーアップだ。

 界●拳みたいな。


「みな、これを飲んで森に入るぞ。じゃんじゃん飲め」

「で、ですが……こんな稀少なポーション、そんなにたくさん飲んじゃもったいないのでは……?」


 サホの言うとおりではある。


「たしかにSSは材料費が高い。作るのに手間も掛かる。そうバシバシ使って言いもんじゃない」

「なら……」


「が、私らは商人キンサイと手を組んだ。素材が不足することはない」

「! なるほど……!」


 以前と今とでは状況が違うのだ。


「もう在庫を気にして使うのを制限しなくて良いんだよ」

「「「おおおおお! なるほどぉ!」」」


 さて……と。

 つーわけで、だ。


「いくぜ、奈落の森アビス・ウッド

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