第23話 結界で村を守る



 早朝。

 私は【とある作業】をして、村へと戻ってきた。


「ふん! ふん! お帰りなさい、セイコ!」


 アスベルが村の入口に立ち、素振りしていた。

 剣を抜いて振ってるので、普通に危ないしヤバい。


「何してんだおまえ……?」

「間もなく朝になります。魔物が……腹を空かせてやってるかと。だから、こうして気合いを入れて待ち構えておりました!」


 クロヨンの村の近くには、奈落の森アビス・ウッドという、魔物の生息する危ない場所があるのだ。


 そろそろ、森の魔物どもが朝ご飯を食べに、こっちに来る頃合いだろう。


「それで素振りか。ご苦労なこったな」

「ありがとうございます! それに……なにやら今日は、体のキレがよくってですね! 体を動かしておきたいのです!」


「ん? 体のキレが良い……?」

「はい!」


 ……まあ少し気になったが、まあ……キスの影響だろうな。


「ふふふ……セイコとキスを……ふふふ……♡」

「……きしょいぞおまえ」

「きしょくてすみません!!!!!」


 満面の笑みのアスベル。

 一方、私の隣に立っていたユーノが、険しい顔をした。


「なんだ? ユーノ」

「……なんでもございません。それより、もうそろそろ魔物が来るかと思います」


 ふむ、時間的にそろそろだろう。

 が、まあ大丈夫だな。


「皇后様!」

「おう、サホ。どうした?」


 アスベルの副官、サホが兵士達を集めて、ぞろぞろと集まってきたのだ。


「間もなく夜が明けます。森の魔物が襲ってくるかと思いまして。兵をあつめ、準備を整えておきました」

「ああ、そうか。ご苦労。が……まあ別に大丈夫だ」


「? どういうことでしょう?」

「既に準備は完了してる……ってことさ」


 兵士達はわかってない様子で、首をかしげる。

 まあ、問題ないのだ。


 魔物との勝負は、既に決してる。


「聖母様。敵が来ます。雷狼ライガーの群れです」


 森のほうから、紫電を纏った狼が、群れで現れる。


「ら、雷狼ライガーだ!」「Aランクの化け物だぞ!?」「そんな……奈落の森アビス・ウッドの魔物ってあそこまで強いのか……」


 怯える兵士達。

 アスベルは……。


「大丈夫だ! みな!」


 不安がる兵士達に、ニッ……! と笑いかける。


「聖女様が、問題ないといったのだ! だから……問題ないのだ!」


 アスベルが声を張り上げた。

 なんつー……アホ丸出しの理論。

 だがそこには、私への全幅の信頼が感じられる。


 私はその信頼が、実に、心地よかった。

「陛下が言うなら……」「そうだよね、聖女様は今まで凄いことしてきたわけだし……」「で、でも相手は雷狼ライガーだぞ?」


 Aランク魔物、雷狼ライガー

 常に体に電気を纏っているため、物理攻撃が効かない。


 また、雷撃も飛ばしてくる。しかも群れで行動するので……近づかれると厄介な相手だ。

 が、まあ……。


「近づかれなければ、どうということもない」


 ビタッ……!


「な、なんだ!?」「雷狼ライガーのやつらが、村のだいぶ手前で立ち止まったぞ?!」「どうなってんだ!?」


 雷狼ライガーどもが突撃をやめて、その場から動かなくなる。


「セイコ。雷狼ライガーたちは、なにか怯えてるように感じます。アレは一体……?」

「私の張った【二重の結界】に、びびってんだよ」


「結界……?」


 聖女の力のひとつ、結界。

 バリアを作り、相手の侵入を防ぐ術だ。

「1つ目の結界は、【魔物避け】の結界。魔物にとって好ましくない光と匂いを発する結界だ。やつらはそれにびびって、入ってこれないで居るんだよ」


 魔物は人間より鋭敏な五感を持つ。

 魔物除け結界は、魔物の五感を刺激し、相手をびびらせ、追い払う。


「魔物を防ぐのでは無く、追い払う結界! 聞いたことありませんよ!」

「ああ。私が独自に開発したものだからな」


「それは凄いです! セイコ! さすが……あいたぁ……!」


 私……ではなく、隣で聞いていたユーノが、アスベルの後頭部を強く叩いた。


「な、何をするのだユーノ……?」

「いえ。ただ……不愉快だっただけです。聖母様を、セイコ、セイコ……と連呼するので」


「? なんだおまえ、焼き餅を焼いてるのか? 俺がセイコと仲が良いから……あいたぁ!」


 ユーノが眼鏡をかけ直す。


「焼き餅なんて焼いてるのか?」


 私が尋ねると……ユーノは「いえ別に」とそっぽを向く。

 ふむ。どうやら嫉妬らしい。こちらの国に来てから、特にユーノは感情を表に出すようになってる気がするな。


 良い傾向だと思う。私とで会った頃は、あまりに感情が無く、ロボットかと思ったもんだ。


「すごいです、聖女様。雷狼ライガーどもが怯えて離れていきます。この調子なら……」


 とサホが甘いことを言う。


「このまま終わるわけがない。下っ端がヘマしたんだ。上が出張ってくるだろう」

「上……」


「そら、来たぞ」


 ずしーん……ずしーん……ずしーん……。


 5メートルの巨体を持つ、巨大な狼が出現した。

 二足歩行し、筋骨隆々の体を持つ、異形なる亜人。


「わ、虎人ワータイガー!?」


 サホがその場で、体をこわばらせる。

 兵士達のなかには、尻餅をついてしまうやつもいた。


 まあ、5メートルの巨体を持ち、あんな筋肉ムキムキの虎が現れたのだ。

 びびってもしかたない。


「Sランクモンスターだと……!?」

「そんな……森の奥に生息する、危険な魔物が……どうして……?」

「に、げ……逃げなきゃ……」


 兵士達が完全に怯えきっている。

 まあ、あんな化け物が入ってきたら、ヤバいだろう。


「入ってこれたら……な?」

「アオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!」


 虎人ワータイガーは雄叫びを上げると、魔物除け結界をまたいで、中に入ってきた。


「聖女様の結界が効いてない!?」

「そんな!?」

「もう終わりだぁ……!」


 ふぅ……やれやれ。

 あれに怯えてるようじゃ、まだまだだな。


 兵士達をもっと鍛えないと。


「アォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!」


 虎人ワータイガーが村の入口まで来て、大きく口を開ける。


「雷撃を放つつもりのようですね」


 と、ユーノ。

 虎人ワータイガーのには、エネルギーが集まっていく。


 ばちばちばち……! と電流が一点に凝縮していく。

 そして、虎人ワータイガーが口から電撃を放出した。


 ズガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!


 直撃を受けたら、まず間違いなくこの場に居る全員は死亡してしまうだろう。

 兵士達は恐怖のあまり気を失ったり、動けなくなったりしてる。


 ユーノは私を抱いて、かばう動き。

 しかしアスベルは剣を構えたまま、しっかり前を見据えていた。


 轟音が……消える。

 そして……。


「あ、あれぇ!?」「い、生きてる!?」「お、おれたち……生きてるぞぉ!?」「雷撃を受けたはずなのに! 痛くもないし、しびれてもねえ!」「どうなってんだぁ!?」


 兵士連中が驚いている。

 まあそうだろう。攻撃を受けても平然としてるんだからな。


「みんな、安心しろ! 聖女様の、二つの目の結界が我らを守ってくれたぞ!」


 アスベルはちゃんと私を信じ、そして私の言葉を聞いていたようだ。

 そう……。


「結界は、二重に張ってるってな」

「あ、アオォオオオオオオオオオオオオオン!」


 焦った虎人ワータイガーが直接、私らを殴り殺そうとする。

 だが……。


 ガキィインン!


「無駄だ、猫野郎。私の準備した、【物理障壁】は、おまえ程度のパワーじゃ破れない」


 私は聖女だが、結界が苦手だ。

 構築に結構時間と、集中力が必要とされる。


 でも、裏を返すと、ちゃんと準備して構築した結界は、魔物の攻撃をちゃんと防ぐのだ。


「あ、アオォオ!」


 虎人ワータイガーが意味も無く連打を繰り返す。

 バカな猫だ。


 むやみに手を痛めるだけだというのにな。


「す、すごいい!」「Sランクの攻撃を受けても結界にひび1つ入ってないなんて!」「さすが聖女様の結界!」


 兵士達が私に尊敬のまなざしを向ける。

 さて……。


「あとはアレを狩るだけだ。結界の内側から攻撃すれば無傷で敵を……って、アスベル?」


 アスベルが、剣を持って、虎人ワータイガーの前へと向かう。


「お、おい……どうした? アスベル?」

「セイコ、見ててください。これが……愛の力です!」

「は、はぁ……?」


 アスベルのやつ、何言ってるんだろう……?

 彼は剣を持ったまま、結界を素通りする。


「陛下! 危ないです! お戻りください!」

「アオォオオオオオオオオオオオオオオオオオン!」


 サホが呼びもどそうとするも時に既に遅し。

 虎人ワータイガーの拳がアスベルに襲いかかる……!


 あ、アスベル!

 ズバンッ……!


「………………は?」


 信じられないものを、見た。

 アスベルが、剣を振るった。そして、その一撃が……。


「わ、虎人ワータイガー……が……た、縦に……真っ二つになった……ですって……?」


 サホが唖然としながら、目の前の光景を見ていた。

 ……これは、私も予想外だ。


 アスベルのやつ、Sランクを一瞬で倒しやがったのだ……!


「どうなってんだよ……おまえ……?」

「セイコのおかげですよ!」


「わ、私か……? 私がどうしたっていうんだよ……?」

「セイコにキスをしてもらってから、体の調子がとてもいいんです! あの魔物も、全然恐くなかった。一撃で倒せる、という確信を抱くほどに!」


 私がキスしてから、体の調子が良い……だと……?


 ……いや。

 まさか……な。


 まさかと思うが、念のため……調べておくか。


「【鑑定】」


 召喚者に与えられるボーナス、鑑定スキル。

 それを、アスベルに使ってみたところ……。


~~~~~~

アスベル=フォン=マデューカス

【状態】

薬の聖女の加護(SS)

~~~~~~


 ……はい?

 加護……だと……?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る