第21話 怪我人の治療、そして……蘇生



 帝国内にあるクロヨンの村へとやってきた私とアスベル、そして兵士達。


 魔物を退けたあと、私は怪我人の治療に当たることにした。


「皇后様! おまたせいたしました!」


 騎竜にのったサホ、そして兵士達が、ちょうど良いところに到着。

 私は兵士達に指示を出す。


「これより! 怪我人の治療にあたる! その前に……おまえらには、色分けを頼みたい!」


「「「色分け……?」」」


 私の手には3種の布が握られてる。


「怪我人達の腕に、ケガの具合に応じて、布を巻いてくれ。白は軽傷、赤は重傷」


 そして……。


「黒は、死人だ」

「「「ッ……!」」」


 兵士達の表情がこわばる。

 アスベルもだ。


 彼らの気持ちはわかる……が。


「落ち込んでいる時間はない! おまえら、手を動かせ!」

「「「はい!」」」


 アスベル、そして兵士達は協力し、怪我人を色分けしていく。


 幸い、クロヨンは小規模の村だったので、怪我人の仕分けにはさほど時間が掛からなかった。


 それでも、150人ちょっといたがな。


「色分け完了しました!」


 とサホが私に報告してくる。

 彼らが作業してる間、私は次の準備をしていた。


「よし! 次だ!」


 私は床に置いた、無数のポーション瓶を前に、言う。


「白色の、軽傷のやつらにはこの通常ポーションを飲ませろ!」


 緑色の液体の入った、ポーションを指さす。


「赤色の、重傷の奴らにはSSポーションだ。飲ませた方が効果があるが、飲めないようなら傷口にぶっかけろ!」


 私の指示を聞いて、兵士達がうなずく。 彼らは統率された動きで、ポーションを手に取り、怪我人の元へ向かう。


 この作業には私も加わる。


「アスベル。何ボサってしてるんだ!」

「…………」


 アスベルが辛そうに顔をゆがめている。

 わかる。わかるが……。


「アスベル! 私の言葉、もう忘れたのか!?」

「ッ……!」


 私はアスベルに、私が居れば心配ないと言った。

 そして、彼は信じるとうなずいた。


 それを忘れたとは言わせない。


「そうですね……わかりました!」


 アスベルは兵士にまじって、ポーションを飲ませていく。


「おお! 体が全然痛くないです!」


 傷が、ポーションによって一瞬で消えていく。


 軽傷者の傷はもちろん……。


「う、腕の骨がなおった! 完全に折れてたのに!」

「し、信じられない……ちぎれた足がくっついちゃったよぉ!?」


 骨折のような重傷も、欠損さえも、SSポーションは治していく。


「傷の治った村人連中は、兵士を手伝って、赤色布の連中にポーションを飲ませてやってくれ!」


「「「わかりました……!」」」


 当初、不信感を抱いていた村人達だが、私の指示を素直に聞き入れるようになってくれた。


「聖女様のポーションすげえ」

「あんな凄い傷を一瞬でなおしてしまうなんてな!」


 ポーションのすごさを、身をもって痛感したからか、私の力を認めてくれたようだ。

 よし……。


「報告します!」


 サホが、私の元へやってくる。


「軽傷者の治療、完了! 重傷者の治療も間もなく完了いたします!」

「報告ご苦労。白布と赤布の連中の治療を全員終えたら、メシを作ってやれ」


 私はアイテムボックスから、食材をどちゃっ、と取り出す。

 キンサイから、たくさん仕入れた食材だ。


「レシピはこれだ。調味料はこっち。そんなに難しくないから、手先の器用なやつに料理を作らせろ。とにかく、メシ食わせまくって、失った血液を取り戻させるんだ。いいな?」


「了解であります!」


 サホが敬礼のポーズを取る。

 そして、不安そうに聞いてくる。


「皇后様は、これからどうなさるのですか?」

「私は、黒布の連中の、相手をしてくる」

「黒布……」


 つまり、死者のことだ。

 魔物との戦闘で、死んでしまった村人達は、複数人いることがさっきわかったのだ。


「サホ。この場の指揮はおまえに任せる。村人を守れ。必要なポーションは置いておく」

「わかりました」


 現場をサホに任せ、私はこの村の村長、クロのもとへ行く。


「ありがとうございます、皇后様。あなた様のおかげで、村人は助かりました。なんとお礼を言ってよいやら……」


 クロはそういう者の、目元が赤くなっていた。

 泣いていたのだろう。


「礼を言うのはまだ早い」

「え……?」


「言っただろ、おまえ【ら】は私が治すって。おまえら、全員って意味だ」

「ど、どういうことでしょう……?」


 困惑するクロをよそに、私が言う。


「黒布んとこ連れてけ」

「は、はい……ですじゃ……こちらです。アスベル陛下が、先に行っております」


 ……ほどなくして。

 黒布連中が寝かされてる、村長の家へとやってきた。


「ひぐ……ぐす……」


 横たわり、微動だにしない、死人達。

 アスベルは彼らを見て、泣いていた。


「すまない……皆……俺が、弱いばかりに……すまない……」


 ……アスベル。

 死者を前に涙するアスベルは、本気で……己の無力さを悔いてるようだった。

 

 民を思い、涙を流す。

 私は彼の背中に、王としての資質を見た。


 仕事ができなくても、バカでも、いいんだ。

 この優しさ、民を思うデカい気持ちこそ……王の器だと私は思う。


「アスベル。泣くな」

「セイコ様……」


 私はハンカチを取り出し、彼の目元を拭う。


「おまえに、悲しい涙は似合わない」

「うう……」


 ぎゅ、とアスベルが私に抱きついてくる。

 彼の頭を軽くなでてやる。


「準備は、できてるな?」

「は、はい……言われたものは、用意しました」


 よし。

 私はアスベル、そしてクロを見て言う。

「これからすることは、他言無用だ。いいな?」

「「は、はい……」」


 私はアスベルと一緒に移動。

 彼が用意してくれたものの前に立つ。


「木の桶に……薬草。そして……SSポーション。セイコ様、今から何をなさるのですか?」

 

 私は袖をまくり上げながら言う。


「今から、死者をよみがえらせる」

「「なっ……!? 死者の蘇生ですって!?」」 


 アスベルたちが驚くのも無理はない。


「な、何をおっしゃっておるのじゃ……! 治癒魔法でさえ、死者を復活させることはできないんですぞよ!?」


 クロの言ってることは、ただしい。

 この世界には治癒魔法が存在するが、そこまでだいそれたことはできない。


 どんな重傷もたちどころになおすSSポーションでも、死んでしまった人間には、効果を発揮しない。


 クロが私に疑いのまなざしを向ける。けど……


「セイコ様」


 アスベルだけは、私を、曇り無き目で、真っ直ぐ見ていた。

 そこには、私への全幅の信頼が感じられた。


「おねがいします。俺の大事な民を、どうか……復活させてください」

「陛下……」


 クロはまだ私を信じ切れてなかったようだが。

 しかし、アスベルが私を信じる姿を見て、心変わりしたのだろう。


「ここにいる12人を、どうか……お願いします」


 私はうなずき、用意したものの前に立つ。

 桶に数種の薬草、そしてSSポーションを入れて混ぜる。


「これから作るのは、蘇生薬だ。これは文字通り死者をよみがえらせる。ただし、いくつも条件がある」


1.死後数時間以内であること

2.薬はその場で調整する必要がある

3.肉体の無い人間を蘇生はできない


「こいつらは死後まだ1日も経ってない。だから……蘇生は可能だ」

「で、ですが……その薬、どうやって作るのですじゃ……?」


 クロが心配そうに聞いてくる。


「この混ぜた液体に、聖女わたしの全魔力をぶち込む」

「!? 全魔力……それじゃあ……」


 アスベルが気づいたようだな。


「そうだ。これを作ったあと、私はしばらく気を失う。薬を飲ませるのは、アスベル、おまえに任せる」


 アスベルが、しっかりとうなずく。


「わかりました」

「よし……いくぞ!」


 私は桶の前に立ち、両手をかざす。

 

「ハァアア……!!!!!!!!」


 カッ……!

 ピカァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!


「桶の中の液体が、金色に輝いますじゃぁ!」


 体から力が抜けて、がくん……と渡井はその場に崩れ落ちる。

 アスベルがふわり、と抱き留めてくれた。


「はあ……はあ……あ、すべ……る。飲ませて……やれ……」


 アスベルはうなずくと、私を床に優しく寝かせる。

 彼はいそいで、コップを使っておけから蘇生薬をすくう。


 近くに居た村人の口に、薬を飲ませた。


 コオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


「村人たちの体も黄金に輝いておる!」


 アスベルは次々に村人に薬を飲ませる。

 そして……。


「う、うう……あれ?」「ここは……?」「どういて……おれ、死んだはずじゃ……」


 死んで動けなかった村人達が、一斉に起き上がる。


「なんと! なんということじゃぁああ! 皆が生き返りおったわぁ……!」


 クロが大泣きしながら、村人達に近づく。


「よかったのぅ! よかったのぉう!」


 村長の喜びっぷりに、みんな困惑してる。

 ふっ……よか……


「セイコ様!」


 アスベルが私のことを抱き留める。

 もう完全に起きてるだけの、力が残されていなかった。


「セイコ様! 大丈夫ですかっ? しっかり!」

「ちょっと……疲れただけだ……」


「セイコ……」


 私は、彼を見やる。

 涙を流していた。でも、さっきみたいに、悲しいからでて涙じゃ無い。


「私……おまえのその笑顔……好きだ……」


 嬉しくて流す涙は、本当にきれいで、私の口からは思わず本音がこぼれた。


「ありがとうございます、セイコ…………この国に来てくれて、ありがとう……」


 満足感で胸をいっぱいになったあと……私は気を失ったのだった。

 

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