第20話 村人を助けに行く



 鷲馬グリフォンが仲間になった。


 それから数日後。

 私たちは帝城の庭にいた。


 私、アスベル、そしてサホたち兵士30人。


「サホ! 準備はできたか!」

「もちろんです、皇后様」


 武装してる兵士達。

 一方、アスベルも緊張の面持ちだ。


「かぁたま! とぉたま!」


 メメに抱っこされながら、アンチがこちらにやってくる。

 今は構ってやれる暇は正直ない。


 しかし、このまま何も言わずに出て行って、さみしい思いはさせたくない。


「どこいくのぉ?」

「東にある、【クロヨン】の村ってところに行ってくる」


「なんでぇ?」

「クロヨンの村が、魔物に襲われて、大変らいしんだ」


 今朝方、帝城にフクロウ便が来た。

 ここ帝都カーターから東に行った、クロヨンの村にて、怪我人がでたというもの。


 クロヨンの森は、魔物蔓延る奈落の森アビス・ウッドに近い位置にある。

 奈落の森アビス・ウッドから、餌を求めてやってきた魔物に、クロヨンの村人は襲われたということだ。


「かぁたまっ。とぉたま! きをつけてっ!」


 ……本当に聡い息子だ。

 すぐに、緊急事態だと察し、私らをいかせようとしてる。


 あまり構ってやれなくて、さみしいだろうに。

 アンチはワガママを、決して言わないのだ。


 私はアンチを抱き上げ、ぎゅーっと強く、強く、抱きしめる。

 そして、メメにアンチを任せる。


「帰ったら、鷲馬グリフォン乗っけてやるからな」

「うん! いってらっちゃい!」


 私は急ぎ、アスベルとともに鷲馬グリフォンに乗る。


 鷲馬グリフォンは扱いが難しく、私では操縦できない。

 一方、アスベルの運搬の適性はA。


 運搬は、動物や道具を使って、者や人を運ぶ適性のこと。

 天才的な運搬の適性を持つアスベルならば、この鷲馬グリフォンに乗れるのだ。


「セイコ様! お乗りください!」


 アスベルが鷲馬グリフォンにまたがる。

 私は、彼の前に座る。


「サホ! 残りの連中をつれて、騎竜でクロヨンの村に迎え! 私とアスベルは先に行ってるぞ!」

「了解です、皇后様! お気をつけて!」


 騎竜は、そこまで運搬適性が高くなくても乗れる。

 だが、鷲馬グリフォンと比べて速度が出ないのだ。


 サホに指揮を任せ、兵士達を連れてあとからきてもらう。


「ユーノ! メメ! 城のことは任せたぞ!」

「「御意!」」

 

 最後に、アンチを見やる。

 アンチはしっかりとうなずいた。


 わがままもいわない、優しく、強い我が子……。

 私はおまえが、大好きだぜ。早く帰ってくるからな!


「いくぞ、アスベル!」

「はい! グリポン、発進!」


 グリポン(※アンチ命名)がいななくと、私たちを大空へと運ぶ。


 ビュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン!


 風が強い。なんて速さだ。

 凄い高い位置で、鷲馬グリフォンが空を駆け抜けている。


「…………」


 私の後ろにいるアスベル。

 私の腰をぎゅっと握っていた。


 普段ならここで、おふざけの一つも入れる彼だろうが。

 しかし、今のアスベルは、何も言ってこない。


 ……クロヨンの村の連中を、心配してるんだろう。

 ほんと……こいつは、バカだが民を思いの良いやつだ。


 ……私は、アスベルのこういうところが、嫌いじゃない。

 心配するアスベルの気持ちを、和らげてやりたいと思って、私は言う。


「心配すんな、アスベル。私が居るんだからよ」


 私は振り返り、彼の顔を見て……ニッ、と笑う。


「セイコ様……」

「おまえは私の側で、誰よりも長く、私が何を成してきた見てきただろ?」


「……そうですね」


 彼の顔に……少し、笑顔が戻る。


「そうでした。俺には、偉大なる薬の聖女様がいるんだ」

「おう。だから、そんな顔すんな」


「はいっ!」


 きゅっ、とアスベルが私の腰を強く抱きしめる。


「……ありがとう様、セイコ様。大好きです……!」


 ……普段は色ボケとののしって、チョップの一つでも喰らわすところだ。

 でも……今は勘弁してやった。


 ややあって。


「見えてきました! あれがクロヨンの村です!」


 遠く東に、広大な森が広がっている。

 あれが……魔物うろつく、魔境、【奈落の森アビス・ウッド】。


 そしてクロヨンの村は、森の直ぐ近くにある村だ。

 

「……どうしてあんなアブねえ場所に村なんて建てるんだ……くそっ」

「!? せ、聖女様! あれを!」


 眼下のクロヨンの村は、粗末な柵で囲われている。

 村の入口には……。


大灰狼グレート・ハウンド!」


 体高が人間の背くらいある、大きな魔物……。大灰狼グレート・ハウンドが、村を襲っている。


 村人達は必死になって、大灰狼グレート・ハウンドから村を守ろうとしていた。


「皆……! 今行く……」

「バカ! 手綱を放すな! 二人とも死ぬぞ!」


「しかし!」

「私がやる! おまえはグリポンを空中で滞空させろ! いいな!?」


 私がそう言うと、彼はぎりっと歯がみする。

 今すぐにでも降り立ち、大灰狼グレート・ハウンドどもを皆殺しにしたいのだろう。


 だが、こっちの方が人数が少ないのだ。 突っ込んでいったら確実に死ぬ。


「私を頼れ! アスベル!」

「っ! わかりました! お願いします、セイコ様!」

 

 私は立ち上がる。

 足場が安定しない中、アイテムボックスから、目当てのものを取り出す。


 手のひらに収まるくらいの、小さなボールだ。


「アスベル! 下の連中に向かって命令!」


 私が彼に喋らせる内容を指示する。

 彼はうなずいて、叫ぶ。



「傾っ注ぅうううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!!!!!」


 アスベルの声が響き渡る。

 村の連中は上を向く。


「あ、アスベル殿下だ!」「皇帝陛下!?」「助けに来てくださったのだ!」


 さすが、アスベル。

 民達から好かれてる。


 彼らにとって見ず知らずのわたしが言うより、アスベルに言わせる方が良い。


「全員、口と鼻を塞いで、伏せろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」


 村人達は困惑しながらも、ぱっ……と言うとおりにする。

 魔物に襲われてるのに、だ。なんて覚悟。そして……なんて、信頼感だ。


 アスベル、おまえほんとに民に信頼されてるんだな。


「いっけぇええええええええええええええええ!」


 私は手に持っているボールを、地上めがけてぶん投げる。

 ボールは地面にぶつかると。


 ボシュゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!


 薄緑色の煙が、勢いよく吹き出す。

 

「ぎゃん!」「きゃひぃいん!」「ぎゃぁああああああああああ!」


 大灰狼グレート・ハウンドどもが、文字通り尻尾を巻いて、村から離れていく。


大灰狼グレート・ハウンドが逃げていく! セイコ様……あれは……?」

「煙幕だ」


「煙幕……?」

「ああ。ただし、魔物が嫌がる匂いのする、私お手製の煙幕だよ」

 

 魔物は人間より鋭い五感を持つ。

 それゆえ、刺激臭に弱いのだ。


 さlきのは、魔物の粘膜に強い刺激を与える煙が出るように、私が創薬で作った、特製煙幕玉である。


 あらかた魔物が逃げていった。

 アスベルはグリポンを操り、地上へと降り立つ。


「皆! 無事か!」

「「「皇帝陛下ぁ……!」」」


 アスベルは傷だらけの村人達に駆け寄る。


 彼らは涙を流していた。


「ありがとうございます!」「もう……死ぬかと思いました……」


 アスベルは皆を見回し、一瞬……ほんの一瞬だけ悔しそうに歯がみする。

 だが、直ぐにニッ……! と明るい笑顔を浮かべる。


 それは、見てる村の連中を、安心させるための……笑みだと、私には感じた。

 

「皆! 安心しろ! 聖女様が来てくれたぞ!」


 村人の視線が私に集まる。


「聖女様……?」「それってあの、ワガママ女じゃ……?」


 そうか、ワガママーナの悪評は伝わってる訳か。

 これは誤解を解くのに時間が……。


「大丈夫だ! この女性ひとは、今までの聖女とは違う! セイコ様は、世界最高の聖女さまだ! 彼女が凄いのは、俺が保証する! さっきの煙玉だって、セイコ様のお手製なんだ!」


 村人連中が驚いてる。

 少し……私への警戒が薄れたように感じた。


 すると、傷だらけの村人のなかから、よぼよぼのじーさんが出てくる。


「皇帝陛下……聖女様」

「誰だおまえは?」


 アスベルが直ぐ答える。


「クロヨンの村長、クロです」

「そうか。クロ村長。この村の治療、私に任せてくれないか?」


 じっ、とクロ村長が私を見て、うなずく。


「お願いいたしますじゃ。どうか、我らを……お救いくださいまし……聖女様……」


 恐らく、私への疑念はまだ完全に晴れていないのだろう。

 ワガママーナのくそのせいでな。


 だが、私は媚びない。

 信じてもらうには、行動するのみ。


「ああ、任せろ。おまえらは、私が治す」

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