第14話 森を浄化しにいく



 通信機、そして【あるもの】を作って、私は国内にある、瘴気を浄化しにいくことになった。


 馬に乗って、帝城を出発する。

 先頭に立つのは私を載せた馬。


 その後ろに、兵士たちが続く。

 ……で。


「なんでおまえが、私と同じ馬に乗るんだ、アスベルよ?」


 アスベル皇帝が私の後ろに、ご満悦の表情で載っている。

 そして、ぴったりと私に密着してるのだ。


「よいではありませんか♡」

 

 私は馬に乗れないから、まあこうして載っけてもらうのはいいんだが。

 それにしたって、アスベルのやつ、さっきから妙に私にボディタッチしてくるのだ。


「ああ……なんと、幸せな時間……。セイコ様を近くで感じる……。こんな幸せがずっと続けばいいのに……!」

「もう到着したぞ」


「ぐぬぬ……なんと近い……」


 まあ、最初は近場からって決めたからな。

 私たちは馬に下りる。


 やってきたのは、カーター(私たちのいた都市)からほど近い、【サスノア】の森。


 森の規模はそこそこだ。

 兵士達が馬から下りて、アスベルの前に整列する。


「ふうぅ~~~~~…………」


 並んでいる兵士達は、少ない。しかも年配の兵士が多い。


「も、申し訳ありません……セイコ様……。帝国の兵士は……」

「わかってるよ。ワガママーナのせいで、若い兵士はやめちまったんだろ?」


 ワガママーナ。

 前皇后だ。そいつのせいで、帝国はボロボロの状態にある。


 ワガママーナが若い男に片っ端から粉をかけまくった結果、兵士たちの間で取り合い、からの、暴力沙汰にまで発展。


 加えて、ワガママーナが出て行ったせいで、兵士達の士気は下がりまくり。

 結果、うちにはろくな兵士が残ってない……という次第だ。


 街の防衛に兵士を置いてきて、今、同行してる兵士の数は30。

【帝国】の、しかも皇帝に同伴する兵士の数がこれなのだ。


 人手不足は深刻と言える。

 これで大規模な魔物との戦闘になったら……いや、今は先のことより、目先のことに集中だ。


「皆、傾注! これよりセイコ様から、本日の作戦を伝える!」


 30人の兵士達が私に注目する。

 私は全員が話を聞く態勢になってるのを確認する。


「おまえらには、今からこのサスノアの森に入ってもらい、瘴気だまりを探してきて欲しい」


 瘴気だまり。

 瘴気を発生させる場所のことだ。


 森や洞窟といった、じめっとした場所に瘴気だまりは発生しやすい。


「今から30人を5人ずつの六小隊にわけ、森を探索してもらう。瘴気だまりを見つけ次第、私に通話をかけろ」


 小隊長には、私が通信機を手渡してある。

 すっ……とメメが手を上げる。


「なんだ、メメ」

「あのぅ……森に入るってことは、魔物との戦闘があるってことですよねぇ? 一小隊、5人編成じゃ……心許ないですよぉう」


 魔物。

 瘴気より発生する、悪しき獣のことだ。

 魔物は非常に強力であり、大人一人の命を簡単に奪ってしまうほど。

 しかもガスの濃度が濃ければそれだけ凶暴かつ強力となる。


 魔物に村を全滅させられた、という事態も日常茶飯事だ。


「メメの心配ももっともだ。が、今回は魔物討伐がメインじゃない。あくまでも瘴気だまりを見つけて、私が浄化するだけだ」

「戦闘はしなくて良い、ということですかぁ?」


「そういうことだ」


 とはいえ、全員の表情が暗い。

 戦わなくて言いといっても、魔物と遭遇すれば、いやでも戦闘が発生してしまうからな。


 私が彼らを鼓舞しようとすると……。


「みんな! 大っ丈夫!!」

 

 だんっ! とアスベルが足踏みをして、声を張り上げる。

 彼はニッ……! と、まるで太陽のように明るい笑みを浮かべる。


「今日、俺たちには聖女様がついている! 傷付いても、たちどころに治してくれる!」

「「「おお……!」」」


「敵を見つけたらまず報告! そして自分の命を最優先にする立ち回りをするんだ! いいなっ?」

「「「了解……!」」」


 小隊長たちの顔から、恐怖の色が消えていた。

 ほぅ……。


「やるじゃないか、アスベル」


 皆の士気が下がっているのを素早く察知し、声をかけ、すかさずモチベーションを上げた。


「? 何がですか? セイコ様」


 ……しかもこいつ、それを無意識にやってやがる。

 これが王の器か。

 顔だけ良いぼっちゃんでは決してないのだ。


「ちょっとだけ見直したよ。やるじゃないか」

「う、うおぉおおおお! セイコ様に褒められたっ! うぉおお!」


 ……私はアスベルに、見えるはずのないけものみみと尻尾を見た。

 ユーノが前に、アスベルを駄犬と評したが……言い得て妙かもしれないな。


 さて。


「森に入る前に、あんたら。これの飲んでおきな」


 私はアイテムボックスから、瓶を取り出す。


「聖女様、これは?」

「ま、栄養剤みたいなもんだ。これさえのめば、元気溌剌、みたいな」


 ビタミンやカフェイン等の入った、栄養ドリンクを、私は兵士達に配る。

 彼らは首をかしげる。


 まあ、この世界に栄養ドリンクなんてないからな。 

 そりゃ、疑う……。


「セイコ様、いただきます! ごくごくごく! うむ! うまぁい!」


 アスベルは率先して、栄養ドリンクを飲んで見せた。

 皆が飲むのを躊躇するなか、迷わず飲みやがった。


 アスベルが安全であることを皆に伝えると、兵士達は飲み出した。

 私はアスベルのこと、ちょっと見直した。


 危ないことは誰より優先してやるって姿勢は、好感が持てる。


「うめえ!」「なんだこの美味い薬!」

「こんなに美味い薬は始めてだ!」


 正確に言えば薬じゃないんだが……まあいい。


「よし、ではおまえら、散会!」

「「「ハッ……!」」」


 アスベルが兵士達を率いて、森の中に入っていく。

 入口には天幕を張り、私とメメが残っていた。


「あのぅ……皇后様……だいじょうぶでしょうかぁ?」

「大丈夫って、何がだよ」


「だって……森には魔物がたっくさんいるんですよぅ。ただでさえ、前皇后が出て行って、兵士達の年齢が上がってしまって、数も減ってるのに……」


 まあ、メメの心配もわかる。

 兵士の質が低下し、数も少ない状態で森に入るのは危険だ。


 へたしたら、30人全滅するってことも、ありえる。

 そうなると国防力が低下する……と。


「心配するな」

「いや心配するなって……」


 まあ、そう言われても、無理な話だ。

 私がここに来てまだそんなに日が経っていないのだ。


 だからといって、私を信じろとは言わない。

 行動で、示すだけだ。こいつに着いていったら大丈夫だってな。


『こちらA班。聖女様、応答願います』


 通信機に、小隊から連絡が入った(A~Fに班分けしてある)。


「どうだ?」

『こちらに瘴気だまりはありませんでした』

「よし、次のポイントに移動しろ」


 私は地図を広げながら、指示を飛ばす。

 地図上には×印をつける。


『こちらB班。ありません』

『C班見付かりませんでした』


 このように、地図上に×印がドンドンと増えていく。

 一方で……。


「あ、あれぇ? おかしいですぅ」


 メメもようやく、違和感に気づいたようだ。


「せ、聖女様……」

「なんだ?」

「あの……魔物発見の連絡、一度も入ってきませんねぇ」


 こいつも、さすがに気づくか。

 ほどなくして、アスベルたち6つの小隊が戻ってきた。


「ご苦労。おまえたちのおかげで、瘴気だまりの場所に検討がついた」


 地図上には無数の×印。

 そして……一カ所、〇。


 彼らが手分けして探索してくれたおかげで、物の数時間で、森の中に発生した瘴気だまりを発見できたのだ。


 スッ……とアスベルが皆を代表して、手を上げる。


「どうした?」

「恐れながらご報告します。……セイコ様。魔物に一度も、出しませんでした」


 ふむ……。


「やっぱりぃ! あわわ、どぉなってるんですかぁ!? 瘴気だまりがあるのに、魔物がいないなんて、異常事態ですよぅ!」


 周りの連中も、メメと同意見のようだ。

 皆が困惑している。

 種明かししておくか。


「おまえら、栄養ドリンクを飲んだな? あれには私の……聖女の魔力が入ってる。聖女の魔力には、魔を退ける力があるんだよ」


 おお……! と兵士達が歓声を上げる。

「ふええ! そ、それって……聖女様が近くに居れば、それだけで魔物が近寄ってこないってことですかぁ!?」


「ふっ……メメ。それだけじゃない! セイコ様の作った薬を飲めば、たとえセイコ様が近くに居なくても、魔物を避けることができるのだ!」


「ふぇえええええ! す、すごぉおおおおおおい!」


 兵士達が、メメも含めて、私にキラキラした目を向けてきた。


「ああ……セイコ様は本当に素晴らしいお方です!」


 ふむ、行動で示すことができたようだな。

 よし。


「さて……仕上げに行くかいね」



 瘴気だまりを、消滅させるって仕事がまだ残ってるのだ。

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