第9話 駄目メイドの隠れた才能を発掘する



 カレーを息子たちに振る舞ったあと。


 私は、アスベルの部屋に来ていた。


「かぁたま! この、し、しふぉ……しふぉんけーき、おいしーです!」


 私の隣で、アンチがシフォンケーキを食べて、笑顔になっている。

 息子の笑顔は、見てるだけで癒やされるな……。


「ほんと、びっくりですよぅ! こんなふわっふわなケーキ、生まれて初めてたべましたですぅう!」


 メイドのメメも、シフォンケーキに驚いているようだ。

 まあそうだな。

 

 この世界には、こんなふわっふわなケーキないもんな。

 カレーを作ったあと、私はリバンに、このシフォンケーキのレシピと、そしてベーキングパウダーを与えた。


 そしたら、リバンのやつ、一発で私の想定してる料理を作ったのだ。


「セイコ様……どうか、教えてください」


 シフォンケーキを食べ終わったアスベルが、私に尋ねてくる。


「貴女様は、メメやリバンの名前を、聞いてないのに言い当てた。また、リバンにここまでの、料理の才があることを、見抜いた。どうやったのですか……?」


 ふむ、説明がまだだったか。

 私はソファに座り、足を組み、説明する。


「鑑定スキルを使ったんだ」

「鑑定スキル……しかし、あれは者や物の情報を読み解くだけでは? 名前がわかるのはともかくとして、才能を見抜く力はなかったような」


 その通り。

 鑑定スキルは、たとえば使うとこうなる。


・シフォンケーキ

→異世界のケーキ。ゲーキングパウダーが使われてる。


 ↑このように、食べ物を鑑定すれば、これがどんな食べ物か、説明が出てくる。

 人間に使えば、そいつの名前や年齢、性別がわかる。


~~~~~~

メメ

■種族:獣人

■性別:女

■年齢:17

~~~~~~


 このように、メメが実は獣人であることもわかる。

 一見するとこのアホ侍女、人間に見えるが。たぶん獣耳を隠してるんだろう。


「スキルは、技術だ。技術は磨いていけば、ドンドン上達していくだろう?」

「それは……そうですね。絵とか、物作りとか」


「そう。スキルも一緒だ。使っていけば、進化し、新しい力を覚える。これを、派生スキルっていうんだ」


「派生スキル……では、才能を見抜いたのは、鑑定スキルを進化させ、覚えた派生スキルのおかげだと?」


「そう。この派生スキル……【職業診断】でね」

「しょくぎょう……しんだん?」


 職業診断を使う。

 すると、私の視界に、こんなのが映る。


~~~~~~

アスベル=フォン=マデューカス

管理A  教育B  警備S

研究B  営業B  運搬B

医療D  事務D- 農林漁D

魔法D  芸術D  製造D

~~~~~~



「私の目には、そいつにどんな適性があるのかが表示され、D~Sでランク付けされるんだ」


 たとえば、警備。

 これは敵と戦い人を守る適正。


 魔法は、文字通り魔法を使う適正。

 などなど、何かをする、作る、使う適正をランクづけしたものが、私の視界にうつるのだ。


 ちなみにランクは、最低がDで、最高はS。


「!? 適性の……ランク……ですって!?」


 アスベルが驚愕する。

 一方、アホメイドことメメが、首をかしげる。


「ランクがわかるから……なんだっていうんですかぁ?」

「ふぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」


 怒るな。

 全員が、自分と同じ知能レベルってわけじゃないのだ。


 それに息子の前で、声を荒らげるのはよくない。

 ほら、スマイル……。


「きゃははぁ♡ かぁたまの変顔、いつみても、おもしろぉい~♡」


 息子よ。変顔じゃ無くて笑顔のつもりだったんだけどな。

 まあ息子が笑ってるから、OK。


 私はアンチのほっぺについてる、シフォンケーキのかけらを取ってやり、言う。


「メメよ。あんた自分にメイドの才能がないなって、思ったことあるだろ?」

「! あ、ありますぅ~……めちゃくちゃありますぅ~……メメは、掃除も洗濯も、全然駄目駄目でぇ~……」


 それは仕方ない。

 なぜなら、メメの適性は……。


~~~~~~

メメ

管理D  教育D  警備S+

研究D- 営業D  運搬B

医療D- 事務D  農林漁C

魔法D- 芸術D-  製造D

~~~~~~


 とまあ、見てわかるとおり、手先がとても不器用なのだ。


「自分に隠された得意分野があるってわかったら、嬉しくないか?」

「! 嬉しいです! で、でも……あたしに得意分野なんて……ないですよぉ……何やっても駄目駄目でぇ~……」


 ぐすん、とメメが涙ぐむ。

 アンチはそれを見て、自分の持っていたシフォンケーキを、メメに差し出す。


「メメ……元気らしてぇ……これ、おいしいよ。おいしいもの、たべて……げんきいっぱいになってぇ~……」

「う~~~~~~! アンチ様ぁあああ! なんてお優しいいいい!」


 ぱくぱく、とメメがシフォンケーキを食べる。

 遠慮しろよ……ったく。


 私が自分の分を、アンチに渡す。

 アンチはふにゃあ……と笑って「ありがとぉ~♡ かぁたま好き~♡」とお礼を言う。


 息子はやはり可愛い。


「まあ、話を戻すとだ。メメ。おまえにも適性がある」

「ど、どんなですかぁ?」


 言って見せるより、やって見せたほうがいいな。

 私はフォークを手に取って、立ち上がり、離れる。


 そして……。


「せや……!」


 ぶんっ!


「ひょえええええええええ!? フォークぅうう!?」


 メメめがけてフォークをぶん投げたのだ。

 彼女の額にフォークが突き刺さる……。


 その前に。


 パシッ!


「ひゃあああああ! って、あれ……?」

「!? こ、これは……!」


 アスベルも、そしてメメ自身も驚いている。

 私の投げたフォークを、メメが、指で摘まんで止めていたのだ。


「え、え?」

「メメ。そのフォークで……そうだな」


 そのときである。


 ブ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ン!


「ひっ! は、はちさんだぁ……!」


 蜂が突如として、窓から部屋の中に入ってきたのだ。

 アンチがビビって、メメにしがみつく。

 蜂がアンチのほうへとやってくる。


「アンチ!」


 アスベルが剣を引き抜こうとする。


「動くな、アスベル。見てろ!」


 蜂がアンチに襲いかかる。

 メメは……。


 とっさに、持っていたフォークを、蜂めがけて投げる。


 びぃいいいいいいん!


「ひぃい! って……あれ? は、蜂は……?」


 私は壁を見やる。

 壁にはフォークが突き刺さっていた。


 ……そして、フォークの先端には、蜂がぶっささっている。

 

「信じられない……俺の目で追えないほどのスピードで、メメがフォークを投げ、そして……蜂を撃退した!」


 アスベルの警備適性はS。

 適性のランクは、

S:超天才

A:天才

B:優秀

C:平凡

D:並以下


 こんな感じだ。

 アスベルでも、十分に凄い。


 が、メメの警備のランクはS+。


「メメにはアスベル以上の武芸の才能があるのだ」


「ふぇええ! そ、そんな……まさか……!」


 するとそれを聞いたアスベルが、すっ……と部屋の隅へと向かう。

 棚にしまってあった木剣を二つ、もって、こっちにやってきた。


「メメ、構えろ」


 アスベルが木剣を放り投げる。

 メメが木剣を受け取り、目を丸くする。


「あ、あの……何を……?」

「模擬試合だ」

「ふぇえええええ!? む、むむりぃ!」


 まあ、昨日まで自分に武芸の才能があるって、知らなかったやつだ。

 突然模擬戦とか言われても、困惑するのは当然だろう。が。


「やれ」

「でもぉお……」

「いいからやれ。おまえなら勝てる。おまえの防衛のランクはS+。超天才レベルなんだ。私を信じな」


 メメは、最初は困惑していた。

 でも……私の言葉を聞いて、うつむく。


「……そんな風に、まっすぐ、メメの目を見て言ってくれた人……初めてですぅ」


 いつもぼろくそに、周りから言われたんだろうな。

 メメの目が……前を向く。


 木剣を手に取って、アスベルの前に立つ。

 ……初めて剣を持つにしては、構えが様になっていた。


 ごくり……とアスベルが息をのむ。


「せやぁあ……!」


 アスベルの攻撃。 

 高速の斬撃を放つ。


 だが……。

 ガキィイイイイイイイイイイイン!


 ……アスベルの剣が、半ばでポッキリ折れていた。


「しゅ、しゅごーい! メメ……しゅごいよぉ! 剣……はやくて、みえなかったよぉ!」


 アンチがソファの上でぴょんぴょん跳ねる。

 アスベルの一撃を上回る速度で、メメが相手の剣をたたっ切ったのだ。


「……アスベル様に勝っちゃった。信じられません。あたしに、こんな……才能があっただなんてぇ……」


 アスベルがつよいことをこの子は知ってた。

 で、そんなつよい彼に勝てた。

 

 メメは、驚き……そして、実感してるのだろう。


「これでわかったろ? たしかにおまえはアホで、どんくさい。けど……比類無き、武術の才能があるんだ。その才能で、この国の未来を守ってやんな」


 具体的には、アンチの護衛にしてやろうって考えてるところだ。

 するとメメが私の前に来て、跪いた。


「ありがとうござます……皇后様」


 こいつ……今まで私を客人って呼んでたのに、皇后って呼んできたな。


「貴女様の言葉で、あたし……自信がつきました。ずっと、周りからだめ人間って言われてきたあたしに、こんな……こんな……」


 ぽろぽろ涙を流すメメのそばに……。


 とととと、とアンチが近づいてくる。


「メメぇ……泣かないでぇ……」


 アンチはハンカチを、メメに渡す。

 ほんと、優しい息子だ……。


「メメ。あんたが私に感謝してるっていうなら、命令だ。これからあんたは皇族護衛メイドとして働け。いいな?」


「御意に」


 こうして、良い感じの護衛件メイドが手に入ったのだった。


「……凄い。さすがは、聖女様だ。人の才能を見抜くお力があるだなんて……!」


 んで、アスベルからは、なんかキラキラした目を向けられた。


「はぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~。お坊ちゃんよぉ」

「はいっ!」


 なんで坊ちゃん呼びで喜んでんだこいつ……?


「おまえ、ことの重大さがわかってないのか? おまえ、自分に事務の適性が、ないってことに」


 こいつの事務の才能はD-。

 下の下だ。


 こんなやつに、書類仕事なんて無理。

 アスベルの適性を見れば、デスクワークよりも、前線に立って剣を振るってるほうが向いてるのだ。


 でも、事務をやらざるを得ない。

 なぜなら人が足りないから。


「向いてないことを頑張るのが、無駄だとは言わない。けど、効率が悪い。また過労で倒れちまうぞ」

「し、しかし……では、どういたしましょう?」


「簡単だ。事務のできるやつを連れてくれば良い」

「つ、連れてくる……? どこから……?」


 にやり、と私が笑う。


「古巣から、少々、優秀な人材をヘッドハンティングさせてもらうんだよ」

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