第8話 息子に美味いメシ食わせる


 私は継母として、そして皇后として、活動することを本格的に決意。


 まずは人材を集めて……と思った矢先。

 くぅ~……。


「ん? 何だこの可愛い音は?」

「あぅ……」


 私に抱っこされてるアンチが、顔を赤くする。


「どうした、アンチ?」

「なんでもないよぉ……」


 くぅう~……とまたアンチから、可愛い音がした。

 なるほど。こいつ腹減ってるのか。


「腹減ってんなら、そう言え」

「あぅ……でも……かぁたま……とぉたま……お仕事……」


 ……はぁ。

 まったく、この子は。頭の良い子だよ。

 大人の仕事を、邪魔しちゃいけないって、三歳で理解してるんだから。

 私はぎゅっ、とアンチを抱きしめる。


「アンチ。これからは母様に遠慮すんな。したいことがあるなら、言うんだぞ?」

「うー……でもぉ……めーわく……わぷっ」


 私はアンチの、ぎゅーっと抱きしめる。

 この子は前の母に酷いことされていたらしい。


 そのせいで、この子は体も心も、傷付いている。

 ……だから、私はうんとこの子のを甘やかす。まずはな。


 それだけだと、ワガママなやつになってしまうから、きちんと教育してやらないと。


「アンチ。おまえはまだガキだ。ガキは一人じゃなんもできねえんだ。だから……この母様や、周りの大人を頼れ」

「うー……」


 アンチはきゅっ、と私に抱きつく。

 私に甘えることはできても、他の連中は……まだ難しいか。


 でも、この子は頭が良い。

 きっとわかってくれるはずだ。大人=恐いやつじゃないって。


 自分を傷つけるやつは、あの前の母、ワガママーナだけだってよ。


「っと、メシだったな。アスベル、まずは腹ごしらえだ。三人でメシにすんぞ」

「すまない、セイコ様」


「ん? どうしたよ」


 アスベル、そして部屋の隅にいるアホメイド(アンチをさっき任せた女)が、暗い顔をする。


「アンチは、手作りの食事を、口にしない。というか、食べられないんだ」

「! な、んだよそりゃ……?」


 どういうことだ! と思わず叫びそうになった。

 でもアンチが近くで聞いてる。


 自分が怒られてるって思って、怖がってしまうかも知れない。

 だから、私は叫ぶの我慢する。


「ワガママーナが……アンチの食事に毒を入れたことがあるのです。そのことがトラウマになってしまって……手料理を食べれなくなってるん……」


「ふぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」


 ワガママーナ……。

 なんつーことしやがる……。


 こんな小さな子に、毒をもるだぁ……?

 ちっ!


 いつか絶対に見つけだして、毒殺してやる。

 うちの可愛い義理の息子に、毒をもりやがったんだ。


 報復されてもやむなしだよなぁ?

 今はいろいろ忙しいから、後回しになるけどよ。


 絶対許さねえ……。


「かぁたま……?」


 私はぎゅーーっとアンチを抱きしめる。


「ふぁあ……♡」

「アンチ。大丈夫だ。母様がうまいめし作ってやる」


「うめ……し?」

「美味いメシだ! おらアホ侍女、厨房に案内しろ」


 部屋の隅にいたアホ侍女に言う。


「え、ええ!? お客人様ぁ……どこいくんですかぁ?」

「今厨房っつっただろ。【メメ】」


「ほえ!? な、なんであたしの名前知ってるんですかぁ?」


 侍女は自分の名前を名乗っていなかった。

 が、私にはわかるのだ。


 正確に言えば……見えるのだ。


「あとで説明してやっから。ほら、案内、ハリー!」

「はひぃいん!」


 私、アンチ、メメ、そしてアスベルの四人は厨房へと移動。

 厨房は狭い……。が、思ったよりキレイに片付いていた。


「アスベルの部屋より綺麗に片付いてるじゃねえか」

「面目ないです……セイコ様……」


 私はアスベルに、アンチを渡す。


「かぁたまぁ~……」


 泣きそうな目で私を見てくる。

 なんて目ぇしてやがる。


 可愛い。

 庇護欲をそそられる。


 将来は女たらしにならないか心配だ。


「母様がメシ作ってる間、父様が抱っこしててくれる。おまえはそこで、母様の料理を作る姿を見てな」

「! うんっ! 見て……ましゅっ! とぉたまとぉ~♡」


 ぎゅーっ、とアンチがアスベルに抱きつく。

 ……それでいいんだ。


 今は、目一杯甘えておくだよ。


「さて、メメ。ここの責任者連れてこい」 

「はひぃん……」


 メメが厨房の隅にいたコックを、連れて戻ってくる。


 背の高い男だ。

 厳つい顔つきをしてる。


「おまえがここの責任者だな」

「…………」


 男は、答えない。むすっとした表情のまま、私を見下ろしてる。

 私は目に手を置いて、【それ】を読み取る。


「『極東人か。すまなかったな』」

「!」

「『龍馬・リバンか。よろしく。私はセイコ』」

「『……貴女も、極東語をしゃべれるのですか?』」


 リバンが私に話しかけてくる。


「『日常会話くらいはな』」


「「!?」」


 アスベル、そしてメメが驚いてる。


「なんだよ?」

「りょ、料理長と喋ってる人……は、初めて見たのですぅ……」


「はぁ? この城には、極東語しゃべれるやついないのかよ?」

「はいいぃ……って、極東語? なんですそれ?」

「ふぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」


 ……あー、だめだ。

 イライラしてきた。


「あのな、メメ。おまえ……長年このリバンと一緒に暮らしてて、こいつが極東人だって気づかなかったのかよ?」

「はいぃい……初めて知りましたぁ……」


 あ゛ー……キレそう。

 いや、アンチの前ではスマイルスマイル。


 にこぉ~……。


「かぁたまの変顔……ちゅき~♡」

「そ、そうか……」


 変顔じゃなくて、笑ったつもりだったんだけどな……。

 まあいい。


「『リバン、あんたは採用試験のときに、自分が極東人だって言わなかったのか?』」

「『すみません、マダム。大陸語を、しゃべれないもので』」


 大陸語っていうのは、ゲータ・ニィガやマデューカスのある、この大陸で喋られてる共通言語だ。


「『大陸語をしゃべれなくて、よく採用してもらえたな』」

「『人手が足りないのだと、解釈しておりました』」


 ……なるほどな。


「『リバン。厨房借りてもいいか? この子に料理を作ってあげたいんだ』」

「『もちろんです、マダム』」


 料理長のお許しがでたので、私は厨房に立つ。


「あ、だ、だめですよぅ! 料理長……知らない人が厨房に立つの、すっごい怒るんですからぁ!」


 メメが注意してくる。

 悪いやつじゃないんだよな、アホだけど。


「リバンとは話して、使って言いって許可もらったから。なぁ?」

「…………」こくん。


「うぇえええええええええええええ!?」


 やかましいぞ。ったく。


「り、料理長が……厨房に無関係の人を立たせるなんて! ぜ、前代未聞ですぅ!」

「しかも……誰にも心を開かなかった、あの無口なリバン料理長と、心を通わせるなんて、さすがです、セイコ様!」


 で、だ。

 私は厨房に立ち、自分の能力を使い、料理を作った。


「なんてイイ匂い……!」

「かぁたま……いいにおい! これぇ……なぁにぃ?」


 皇帝親子が、私に近づいてきて尋ねてくる。

 鍋には飴色の液体が入ってる。


「これは……カレーだ」

「「カレー?」」


 どうやら食ったことないみたいだな。

 まあ、地球の料理だから。


 私はお皿に少し、カレーを注ぐ。

 そして、スプーンで小さくすくう。


「ほら、あーん」

「「あーん♡」」


 ……アンチと一緒に、アスベルもまた口を開けてきた。

 私はアスベルの頭をペンッ、と叩く。


「おまえじゃねえ。アンチのだ」

「そうですか……」しゅん。


 皇帝が肩を落とす。

 それを見て「ひぇえええ! またしても、皇帝陛下の頭を叩いてるぅう! お客人様、恐れを知らないですぅうう」と、

 メイドのメメが怯えていた。


「アンチ、ほら、あーんだ、あーん」

「あーん……♡ はふ……はふはふ……」


 アンチが食べないかもと、懸念していたが、ちゃんと食べれたようだ。

 良かった。そして、ありがとな。母様を信じてくれてよ。


 これから、いっぱいうまいもん食わせてやるからな。


「うっ!」

「ど、どうしたアンチ!?」

「うまぁああああああああああああああああああああああい!」


 青い顔をしてたアスベルが、一転して、目を丸くする。

 アンチが、大きな声を出したからだろう。


「かぁたまぁ……! これ、とぉっても、おいしい!」


 ……ああ、アンチの笑顔。

 なんというか、キラキラしてる。可愛い……おお、なんか……もの凄い可愛いぞ。


 私はアンチにもう一口、カレーを食べさせる。


「カレー美味しいか?」

「かりぇ~……うまうま!」


 ぱくぱくぱく! とアンチがカレーを凄い勢いで食べていく。


「し、信じられない……俺は夢を見てるかのようだ……」


 アスベルが呆然とつぶやく。


「ワガママーナのせいで、手料理が食べれなかったアンチが……ご飯を……こんなにたくさん食べてる……セイコ様! ありがとうございます!」

 

 アスベルが泣きながら何度も頭を下げた。

 まあ、ちょっとお馬鹿なとこあるけど、こいつちゃんと親してるんだな。

 

 メメ同様に、アホだけど善人なんだ。

 私はこういうやつ、嫌いじゃない。


「『マダム……一口食べてもいいでしょうか?』」


 料理長リバンが私に尋ねてきた。


「『ああ。もちろん食って良いぞ』」


 こくん、とうなずいて、リバンがカレーをすする。


「『! こんなスパイスのきいた、コクのある料理、初めてたべました! マダム! 香辛料なんてないのに、一体どうやって作ったのですか!?』」


 この厨房には驚くべきことに、コショウのひとかけらも無かったのだ。


「『創薬の能力を使い、スパイスを作ったんだ』」


 創薬。薬の聖女たる私が持つ能力だ。

 魔力をあらゆる化学物質に変化させられる。


 あらゆるとは、文字通り、全部。

 スパイスも化学だ。よって、私の魔力で、カレールーを再現してみせってわけだ。


「『マダム……感服いたしました』」


 すっ……とリバンがコック帽子を脱ぐ。


「ひょええ! 料理長が、帽子を脱いだぁ!? そんで、頭下げた!? あの無愛想な料理長がぁ!?」


 うるさいぞメメ……。


「『マダム、どうか、貴女様の弟子にしてください』」

「『いいぞ。料理くらいいくらでも教えてやる。だが、おまえにはまず、大陸語を覚えてもらうからな』」


 こいつは使える料理人だ。

 私の【目】が、そう言ってる。


 でもこいつ一人が使えても意味が無い。

 周りとコミュニケーションをとらないと、たくさんの美味しい料理を作れないからな。


「『もちろんです。マダム。これからは、料理だけで無く、語学の勉強もします』」

「『それでいい。頑張れよ』」

「『はい!』」


 よし、見たところ、リバンの能力はかなり高い。

 こいつが周りと連携し出せば、美味い料理をアンチや城の連中に、たらふく食わせられる。


 腹が満たされれば、やる気も出る。

 地道な作業だが、こうやって少しずつ、いろんなことを改善していこう。


「かぁたま! ごはんって、おいしーねぇ〜」


 フニャっと笑うアンチ。

 飯に対する抵抗が薄れたようだ。よしよし。


「ああ、これから母様と、この料理長のリバンが、よっともっと! うまいもん食わしてやるからな。だから私が作ったもん以外もちゃんと食うんだぞ?」

「くー!」


 

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