第4話 皇子の治療

 さて、やってきたのは、ゲータ・ニィガ王国の隣、マデューカス帝国。

 この国は比較的新しい国だ。


 貴族制度をとっていない、完全実力主義な国なんだと。

 私は帝都カーターにある、帝城へとやってきた。


 で、だ。

 私は皇帝の息子の部屋へと訪れた。


「この子が、アンチ様……かい?」


 ベッドの上には小さな子が寝かされていた。

 父親似の銀髪。体は、ぽっきりおれてしまいそうなほど、細い。


 額には脂汗が浮かび、はぁはぁ……と荒い呼吸を繰り返してる。


「ちゃんと食べてるのかい? この子」

「……面目ないです、聖女様。この子は、母に捨てられて以降、心を閉ざしてしまい……私も含めて、誰にも心を開いてくれないのです」


 ……なんだいそりゃ。

 浮気で出て行ったクソ女に、捨てられたって思ってるのかい、この子。


 可哀想に……。

 あんたが気にすることじゃ、全くないのに……。


 うん。

 ほっとけないね。


「アンチ様。大丈夫、私が助けてやっから」


 私はステータスを開き、アイテムボックスを展開。


「それは……召喚者に与えられし、三種の神器が一つ、アイテムボックス!」


 この国に召喚されたものは、天より特別な才能を与えられる。

 その一つが、アイテムボックスだ。


 そう……転生者特典ってやつ。

 で……。


 これは、あのブリコにはないものだ。

 つまり、まあ、そういうことなのだ。


 が、今はどうでも良い。


「私の作ったポーションを取り出して……っと」


 翡翠色の液体が入ってる、ポーション瓶。

 私が持つと、ぱぁ……! と輝き出す。


「ポーションが光り出した! 聖女様……これは一体……?」

「私の能力さ」


「能力?」

「ああ。私は【薬の聖女】。能力は、私が作った薬の効果を、超向上させる」


 つまり私が作り、飲ませると、通常のポーション以上の薬効を示すことができる。


 それは、アンチ様の口に、瓶を持っていく。


「ほれ、飲むんだ」

「………………やぁ」


 ……アンチ様は嫌がっている。

 薬が嫌なのか、生きるのが嫌だからか。


 それはわからない。

 でも……!


「飲みなさい!」


 びくっ、とアンチ様がびっくりして目を丸くする。


「元気になって、父ちゃんを安心させるんだよ!」


 この子がどうして薬を拒んだのか、それは私にはわからない。

 でも、この子の父親の気持ちはわかる。

 わざわざ隣国まで出向いて、お尋ね者である私にすがってきた。

 それくらい、この子を大事に思ってるってことだ。


 そんなに強く、生きて欲しいと望まれてるんだ。


「あんたは生きなきゃだめなんだ! 飲め!」

「…………」


 アンチ様は小さくうなずいて、瓶に口をつける。

 ぱぁ……! と彼の体が光り出す。


「アンチ!」

「大丈夫、薬が効いた証拠だよ」


 光が収まると……。


「…………からら、いたく……ない」

「アンチ!」


 アスベル様はアンチ様を抱き上げて、ぎゅっと抱きしめる。


「治ったのだな! 良かった……」

「おとー……さま……ごめん、なしゃい……」


 その謝罪の意味については、わからない。

 でも……その子の目からは、さっきまであった、生きることへの諦めはなかった。


「いいんだ。アンチ。おまえが元気になったのなら……」

「うん……とーたま、ごめんねぇ……」


 ぎゅっ、とアスベル様が息子を強く抱きしめる。

 うん、一件落着だね。


「ありが、とぉ~……かーたま」


 うんうん……うん?

 今、なんつった?


 かーたま?

 かあ……。


 母?


「申し訳ない、聖女殿。この子の母は、あなた様と同様、黒い髪をしていたのです」


 へー……じゃあそいつも、日本人だったかもしれないわけか。


「かあたまぁ……」


 いや、私母親じゃないんだが……。

 するとアスベル皇帝陛下が、私の前で跪く。


「薬の聖女様。お願いがございます。どうか……この子の母親になってほしいのです」

「…………………………は? 母親……って、ええ!? 皇帝の奥さんってことかい!?」


「はい。できれば……」

「いやいやいや。こんなオバさん、いやでしょ!?」


「そんなことはありません。あなたは美しい」

「う、美しいぃ!?」


 そんなこと誰からも言われたことなかったよ!


「聖女様。どうか……」

「かーたまぁ……」


 ……結局、私はこの子の継母となり、皇帝陛下の妻となって、この国をよりよい方向へ導いていくことになるのだが……。


 それはまた、少し先の話。

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