第3話 若き皇帝からの依頼

「で、どうしてこうなった……」


 私は現在、馬車に乗って、とある場所へと向かっていた。

 私の目の前には、銀髪のキレイな顔をした、お兄ちゃんが座っている。


「どうなされました、【薬の聖女】殿?」


 私のことを薬の聖女とかいう兄ちゃんの正体は、【アスベル=フォン=マデューカス】。


 私の居たゲータ・ニィガ王国の隣、マデューカス帝国にて、若くして皇帝の座に上り詰めた男。


 背は180センチ。

 細身、そしてイケメン皇帝。年齢は24だったかな。


 先代皇帝、つまりこの人の父親は早くして死んでしまい、現在アスベル様が帝位をついだ。


 で、頑張って今皇帝として働いてるらしい。


「ああ、いや、なんでもないですわ、アスベル皇帝陛下」

「聖女様、この若輩の身に敬語など不要でございます。どうか、アスベルとお呼びください」


 はいそうですかー、なーんて言えるかっての。

 相手は皇帝だもの。


「ところで、アスベルさ……」

「アスベルと、どうか」


 ずいっ、と顔を近づけるイケメン。

 ほんと顔整ってるな。


 アスベルと呼べと、無言の圧をかけてくる。

 これは従わないとヤバいな。


「あ、はい。えと……アスベル……さんは、私にどのようなご用で?」


 ここまでの経緯を説明しておこう。

 国外追放の憂き目にあった私は、さてこれからどうしようかと、自分ちにて荷物をまとめながら考えていた。


 そしたら、この皇帝陛下が私の家に来て、【着いてきて欲しい!】って急に言ってきた。


 断ろうとしたんだけど、何やら深刻な顔をしてたもので、私は着いていくことに了承した次第だ。


「我が息子の病を、治していただきたいのです」

「息子……」


「はい。私の息子、【アンチ】を、どうか薬の聖女様のお力で、治療していただきたいのです」


 話は、こうだ。

 アスベル様は数年前に結婚し、子供をひとりもうけた。


 しかし前妻はアンチ様を産んだあと、浮気して国外に逃げたらしい。

 で、残されたアンチ様は乳母に育ててもらっていた。


 が、アンチ様は生まれつきからだが弱かったらしい。

 国内の医者が治そうとしたけども、全員さじを投げた。


 医者がだめなら、もう聖女に頼るしかない。

 けれど聖女は現在、ゲータ・ニィガ王国にいる。


「バカデンス王子に、聖女を派遣していただきたいと頼んだのですが、断られてしまい……」

「なるほど、で、私にお鉢が回ってきたわけね」


「はい。薬の聖女様の、お噂はかねがねうかがっております。特に、ヒドラ事件でのあなた様のご活躍は、ここ帝国にも届いております」


 ヒドラ事件。

 去年、ヒドラって言う、毒のドラゴンが国内に出現したことがあった。


 そんとき、毒で瀕死状態の騎士達を、私の作った薬で治療した、という出来事があった。

 それがこのイケメン皇帝の耳に届いていたのだろう。


「薬の聖女様。どうか、我が息子を助けてください……大事な、ひとり息子なのです……どうか……」


 ここで申し出を断ることは、可能だ。

 でもね、できない。


 だって、小さな子が病気で苦しんでるんだろ?

 ほっとけるかって。


「頭を上げておくれよ、アスベル」

「それじゃあ!」

「ああ。この薬の聖女さんにお任せあれ」

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