第9話「最終決戦」


 シールドドレス構築完了。腰部ホバー構築完了。

 リリカルマジカルアンチマテリアルライフル構成完了。

 構築されたライフルで烈龍を撃ちますが、赤い魔法陣によって防がれました。

「無駄よ、同じSランク。半端な攻撃じゃお互い届かない!」


 烈龍から無数の蛇腹剣――いや、もはや触手と形容すべきものが周囲の培養槽を次々と破壊し、中にいる魔法少女達を取り込んでいきます。

 烈龍の背骨を伝って、魔法少女の死体が連なっているその様はまさに死体の山……、いえ死体の龍といったところでしょうか。


「そして死体の分、私が有利。――始めましょうか」

 巨大化した蛇腹剣の一振りが、実験エリアを破壊しながら私達へと向かってきます。

 とっさに中尉をしゃがませて、回避。


「どうします、中尉」

「なんとかしてくれ……!」

「始末していいのですか?」


 あえて言わなかった言葉は。

 彼女はあなたの部下で、幼馴染で、恋人で、相棒だったのでしょう――。

 それを始末していいのですか、と。


「その質問なら十数年前にやってくれ!」


 立ち上がり、私の方を向き直る中尉。

 その表情は激痛でも感じているかのように歪んでいます。


操縦者ドライバーとして命じる! シアン・ウェルテクス曹長! リリカを止めてくれ……!」

「……わかりました」

「魔法少女は人を傷つける道具じゃない。光なんだ……!」

「まだそんな戯言を!」


 リリカさんのそんな台詞とともに、私は烈龍の腕に掴まれました。

 そのままエレベーターへと突っ込んでいき、展開されるシールドによって天井が破壊。

 エレベーターシャフトの中を上方向に引きずられている形です。


「あははははッ!! アンタもいつ裏切られるかわかんないんだよ!? うちに来なよ! 魔女宗マレフィキウムにさァ!!」

「一つ――勘違いしていると思います」

「なに……?」

「私、けっこう気に入ってるんですよ。中尉の戯言」


 右腕からライトブレードを撃ち出し、烈龍の右腕を破断。

 シールドでダメージはほぼなかったですが、けっこう苦しかったです。

 本来ならシールドが弾くのですが、お互いSランク。


 シールド同士が妙な干渉を起こして、完璧には防げないようです。 

 だが、それは向こうも同じこと。

 攻撃された時に落としたライフルを再び構築し、撃ち出します。


「いけぇ!!」

 しかしホバーがある分、向こうのほうが早いのでしょう。上空へと逃げられました。

 幸いにも魔法少女によって巨大化した尻尾を破壊することには成功しましたが――。

 落ちていく魔法少女達の死体。せめて安らかに眠ってください。


「私の同胞達が……!」

 嘆くようなリリカさんの悲鳴が聞こえます。頭に直接響く感じで嫌ですね……。

 ただの通信魔法じゃない。魂の叫び――そう形容すべきでしょうか。

 烈龍を追って、飛んでいると上からシャワーのように赤い魔力弾が撃ち放たれます。


 私のシールドがそれを弾きます。エレベーターシャフトを赤い閃光が照らしました。

 なかなか厄介ですね……。無傷ですが。

 連戦でそれなりにこちらも消耗していますし、さっさと決めますか。


 エレベーターシャフト内であるならば、どんなに射撃が下手でもエレベーターシャフトギリギリ限界の幅の魔力弾を避けることは出来ません。


「喰らいなさい――!!」


 ライフルの引き金を引き、放たれる魔力弾。

 ごん太ビームと仲間内で称されていたそれは、見事に烈龍にぶち当たりましたが――。

 相手もやり手。魔法陣を三重に展開して、それを防ぎました。


「アハハハハハッ!! 楽しい! 楽しいわね! シアン・ウェルテクス!」


 それだけではありません。ちょうどエレベーターシャフトは最上階へと到着し、そのままぶちぬいて屋上を超えて、空へと飛び上がったのです。

 私も追随して空へ。嫌ですね……、このまま空中戦になると、こちらが相当不利です。

 なにせ私は射撃がそれほどうまくありませんからね。ええ。


 ですが、烈龍は上空に登ると、そこで停止してしまいました。

「アナタには魔法少女の魂の悲鳴が聞こえないの?」

「聞こえませんが……」


「私にはわかる。今、多くの魔法少女達の魂がこの空の上を渦巻いている」

 言われて空を見上げますが、ただの夜空です。亡霊など何も飛んでいません。


「魔女の祭り――真の意味でのワルプルギスのようにね」

 両手を頭上に掲げる烈龍。その片方は私によって破壊されています。


「ずいぶんスピリチュアルな事を言うのですね」

「そう。私には使命があるの。全ての魔法少女を不自由から解法する。もちろんアナタもね」

「それはご丁寧にどうも」


 具体的に不自由とは何のことでしょうか。国から人権を取り上げられてることかな。

 まぁ、それはそうですが……。


「だから、この町ごとアナタを縛るものを破壊してあげるッ!!」

「それはちょっと感心しませんね」


 烈龍の両手に赤い球体が作られ始めました。あれは――仕掛けてきます。

 魔力弾を数発放ちますが、赤い魔法陣に防がれ、まるで通じません。

 コスト度外視で防御に徹しているのでしょう。あれが決まれば終わりだから。

 だったら……、私も本気で挑みます!


「刮目しなさい。スカーレットレイン!!」


 魔法名をわざわざ口にする必要はないので、今のは趣味なのでしょう。

 しかし、口にしただけはあって、とんでもなさそうな威力です。

 赤い球体から放たれた無数のビームが、雨のように地上へと降り注がんとしているのですから。


 一発一発は私を到底殺しきれない一撃でしょう。

 ですが、下の街――オベイロンは違います。


 あれだけの魔力弾が直撃したらあとに残るのは廃墟のみです。

 私はスカーレットレインの範囲内に大きな魔法陣を展開しました。


 ガガガガガガガッ、と魔法陣が削られていくのを実感できます。


「あははは! 健気なものね! でもそこまでシールドを広げてどれだけ耐えられるのかしら? 見ものだわ!」

「シールド? これはシールドではありません。射出口です」

「…………なに?」


 魔法陣から離れ、さらに数段魔法陣を展開します。

 私に近づくにつれて小さくなっていく魔法陣です。


「私はSランク。都市一つ一撃で破壊する蒼天の魔女ですよ。その一撃、見せてあげましょう。そうですね、あえて名前をつけるならば……」

 少し迷いましたが、まぁいいでしょう。

 ツインテールレディ☆マジカルひなみんの変身呪文にしておきます。


「イルミネイト!」


 ライフルから撃ち放たれたビームは次第に大きくなっていき、やがてと自然体を覆い尽くすような超巨大な規模の太さになりました。

 まるで光る大木です。


「あ、ああ!! あああ……」

 当然、そんなものに巻き込まれて無事なわけがなく、烈龍――そしてリリカさんが崩壊していきます。可哀想ですが、これは一度撃てばもう最後まで止められません。


「パスカル……」

 リリカさんが消滅する瞬間、一つのイメージが飛んできました。



 ……………………。


 ……………。


 ………。



 草原で走る子どもたち。幼少のセグイン大佐に、中尉に、そして――リリカさん。


『リリカはさ。魔法少女に生まれちゃったこと後悔してないの?』

『全然! だって私、魔法少女って人々を傷つける道具じゃないと思うの』


『つまり……?』

『笑わないでね。魔法少女の本質って光だと思うの。人々を照らす光』


 これはリリカさんの記憶でしょうか。一体何の通りで――。

 いえ、リリカさんの憑依魔法が超極大の魔力を浴びて暴走しているのかしれません。


『だから私、頑張って魔法少女の力で皆を笑顔にしたいんだ』

『ああ、それはとっても素敵な夢だね』



 ………。


 ……………。


 ……………………。



 そんな子供時代の中尉の言葉が響きながら、イメージは消滅しました。


 さて……、流石に厳しいですね。あれだけの魔力を放てば、もう回復するまでシールドも使えません。

 飛翔魔法だって同じことです。すぐさま地上に降りましょう。


 そう思い、地上に向かっていると――、ちょうど軍事局から中尉が出てきました。

 とりあえず意識を失う前に中尉に保護してもらうとしますか。


「シアンくん、……リリカを倒したのかい」


 フラフラと地面に降り立った私の方を右肩を掴みながら、中尉が聞いてきました。


「ええ、恐らくもう跡形もありませんよ。残念でしたね」

「この空を見ればわかるよ」

「空……?」


 中尉が見上げている先を見ると……。

 空が魔力の粒子で青く光り輝いています。


「これが君の呼び名だよ、蒼天の魔女」

 空などずいぶん見上げたことがありませんでしたから、わからなかったです。

 それを眺めていると、中尉がぽろりと一筋涙を流しました。


「どうしました、中尉」

「………………初恋だったのさ」

「初恋は叶わないものですよ」

「かもしれないね」


 眼鏡をずらし、涙を拭う中尉。

 それから何か覚悟を決めた表情で宣言しました。


「シアンくん、やっぱり僕は魔法少女の光を信じるよ」

「では私も一言……」


 出会った頃から感じていた思いを、今こそ吐露します。

「私はアイドルより魔法少女のほうが向いていると思います」

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