第8話「真相」


「よくやった、シアンくん。……腕は大丈夫かい?」

「これぐらいなら継戦可能な範囲です」


 人質の中から、有刺鉄線をかき分けて中尉が出てきました。

 今まで隠れてたんですね……。まぁいいでしょう。


「どうします? VIP達は」

「僕以外にも軍人はいる。構築魔法で彼らに装備を作ってやってくれ」

「わかりました。戦える人達は前に出てください」


 ぞろぞろと出てきた人達にガスマスク達と同じ装備に加え、拳銃を構築しました。

 どれも非殺傷の物です。非魔法少女ならばこれでも十分ですし、魔法少女にあえばどのみち何を渡しても、彼らでは対処出来ないでしょう。


「では彼らを階段まで送りがてら、エレベーターで地下に向かおう」

「彼らはエレベーターに載せないんですか?」

「…………重量オーバーになる」


 中尉にも構築した拳銃を渡し、廊下へと飛び出す私達。

 しかし最上階にはもう敵は居ないようで、らくらくとエレベーターまで向かうことが出来ました。


「よし、君達は階段で安全に避難してくれ。僕達はこの事件の黒幕を捕らえに行く。それから爆弾解体班を用意しておいてくれ」

「わかりました! 皆さん、ついてきてください」


 大人たちがVIP達を連れて、階段を降りていきます。

 まぁ……、万が一エレベーターが止まっても、私と中尉だけならなんとでもなりますが、大量のVIPを抱えてとなるとそうもいきませんからね……。


 エレベーターに乗ると、中尉が操作パネルの下部をおもむろに開きました。

 そこには色々な機械が。中尉はその機械を覗き込んだり、指を当てたり、ツインテールレディ☆マジカルひなみんの変身呪文を唱えたりしています。

 するとエレベーターが動き出しました。


「…………今のなんですか?」

「生体認証さ」


 キマったな――というような顔をする中尉。いいえ何もキマってません。

 おまえ一生、ツインテールレディ☆マジカルひなみんと付き合っていく気か。

 しばらくエレベーターが降下すると、やがて扉が開きました。


 そこは研究施設。様々な機械が置いてあり、さらに地下に吹き抜けのエリアがあるようです。

 そのエリアにはセグイン大佐と――、いくつもの培養槽がありました。

 いくつもの培養槽には何人もの魔法少女が裸で浮かんでいます。


「……っ! 中尉、あれは?」

「言っただろ? 魔力を抽出するための魔法少女の死体だって。大丈夫、皆死んでるよ」

「なにが大丈夫なのよ、クズ」


 おっと、セグイン大佐がこちらに歩いてきました。


「連盟の体制には呆れていたけれど、さすがにこれは失望したわ。それを良しとしているパスカル。アンタにもね」

「セグインじゃないな。その口ぶり。まさか……」

「御名答。私、リリカよ。リリカ・プレガーレ」

「どういうことだ……!?」


 思わず地下エリアに向かって、フェンスから身を乗り出す中尉。

 洗脳されたはずのセグイン大佐は不敵な笑みを浮かべています。

「固有魔法。一部の魔法少女にはその個体しか有しない特殊な魔法を持つ」

「それがどうしたんだ」


「私の固有魔法は憑依魔法――。つまり魂を色んなものに憑依させることが出来るのよ」

 なるほど……。今、セグイン大佐に取り憑いているというわけですか。

「飛行機でドクロマスクを操っていた魔法少女はあなただったというわけですね」

「そういうこと。気絶したエーラに憑依して、救助したりもしたわ」


「しかしそれなら疑問があります。何故私のことを知らなかったんですか?」

 強力な憑依能力があるのなら、情報だって抜き放題のはずです。

「単なるタイミング――。アナタに接触できたのは飛行機内が初めてだったし、アナタが独房から出たことだって一部の上官以外知らなかった。たった数日よ? 私だって常にパスカルの周りをうろついてるわけじゃない」


 確かに、私の戦術的価値を考えると、独房から出てきたなどという情報は本来なるべく隠蔽しておきたいものですからね。出てきて数日前後ならば知らなくてもおかしくないでしょう。

「それに……、私以外の魔法少女の操縦者ドライバーになるなんて思ってなかった。パスカル……、パスカル・テルミドール!! 私を殺したくせに!」

「そうなんですか、中尉」


 中尉の方を向くと、沈痛な面持ちをしていました。

 どうやら身に覚えがあるようです。

「第一大戦末期だ。魔法少女の人権は今よりも軽視されており、魔法少女を色々な意味で虐待するような操縦者ドライバーも少なくなかった。それに激怒したリリカは……、多くの上官を始末した。Sランクだった彼女を殺せるのは僕しかいなかった。信用されていた僕がね」「……一体どうやって殺したんですか?」


「毒殺よ!」

 セグイン大佐が憤怒の表情を見せています。

 いや……、あれはセグイン大佐ではなく中にいるリリカさんの感情なのでしょう。

 そして毒殺とは、私も中尉に拾われていなければそうなっていたはずの死因です。

「でも死んだはずの私には意識があった。その時、憑依魔法に目覚めたのよ。すぐにでも復讐してやりたかったけど、私の死体は首都イグニスの研究所に保管された。体は動かないし、なんとかして

脱出する必要があった。そこで私は逆に考えたのよ」

 セグイン大佐がくつくつと笑います。


 その表情にはどこか危うげなものが見え隠れしていました。

「私の仕業とわからない限りここなら肉体を安全に保管しつつ、暗躍出来るってね!! そうして生み出したのが魔女宗マレフィキウムよ!! 連盟を崩壊させるために!!」

 中尉を見ると、非常にショックを受けた顔をしていました。

「大変だったわ。怒りを有する魔法少女、あるいは元魔法少女にしか取り憑けないんだから」

「リリカ! キミが魔女宗マレフィキウムを作ったのか!? 魔法少女は光だと言っていたキミが……!!」

「光は光でも――破滅の光よ。それを今から証明してやるわ」


 そう言うと、セグイン大佐がその場に倒れ伏しました。

 その上に赤いもやが広がっていきます。

 あれは……魔法を行使した時に出る魔力の粒子です。

 薄いので、魔法少女以外のものにはわからないかもしれません。


「シアン・ウェルテクス! 私がアンタに取り憑けば正真正銘最強の魔法少女が生まれるのよ! それで連盟を蹂躙してやるわ!」

 赤い靄が私に襲いかかってきました。――が、特に何も効果はないようです。

 乗っ取られた感じもいたしません。


「……!? アナタ、この光景を見ても何も感じないの……!?」

「え、別に死体を再利用しているだけでしょう……?」


 そりゃあ、生きてる魔法少女にこんな扱いをしているのであれば、多少の怒りを覚えるかもしれませんが……。

 すでに死んだ人間を世間に役立てるなんて、魔法少女でなくてもやっていることです。なんでそれで怒るんだろう。


「この……っ、人でなし!」

「人に取り憑こうとする亡霊に言われたくありませんね」


 さて、どうすればこの亡霊を消しされるんでしょうかね。

 そう考えていると、中尉が私の肩を叩きました。苦悩の表情です。


「シアンくん、彼女の遺体を完全に消し去るんだ。そうすれば残滓である憑依魔法も消える」

「中尉……」

「パスカル……! アナタという人は……!」

「僕はね、もう選んだんだよ。リリカ」

「いいわ、アナタごと消し去ってあげる! この街をね!」


 リリカさんがそう叫ぶと、左側から蛇腹剣らしきものが飛んできました。

 とっさに私の周りに魔法陣が展開され、それを防ぎます。自動化したシールドですね。

 左側を向くと、見覚えのある兵器がこちらへと飛んできていました。


 魔法兵装、烈龍――!

 烈龍は床を破壊し、リリカさんのいる地下エリアまで落ちていきました。


 烈竜の尻尾……、否、先程飛んできた蛇腹剣が培養槽を破壊して、リリカさんを外へと引きずり出しました。そのままリリカさんを内部へと収納していきます。

 それを黙ってみている私ではありません。

 今のうちに変身、もとい武装することにしました。


「構築魔法、展開!!」

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