第5話「ロボに乗る」
二日目。先日と同じ部屋で私は目を覚ましました。
あの後、カラオケに行って延々歌うことになりましたが……。
ツインテールレディ☆マジカルひなみんのオープニング曲とやらを、あの二人が何度もローテションしていました。
デュエットをするのはやめてもらえませんかねぇ……!
結局、私まで何度か歌わされる羽目になりました。
そういえばパーティで歌う曲、何にしましょうかね。中尉から候補のプレイリストを渡されたので、ユーフォンで試聴できます。
VIPのパーティで歌っても不自然じゃないしんみりできる曲……。後で考えるとしましょう。
まずは昨日と同じように身支度をして、朝食をいただくとしましょう。
そう考え、化粧台に向かい、歯を磨いていたときのことです。
…………私の背後に誰かいる?
股まで赤髪が伸びたような全裸の女です。
おっぱいもそこそこあるようで、背は――、私よりいくらか伸びたぐらいでしょうか。
当然そんなものを見て、じっとしている私ではありません。振り向きますが、誰もいませんでした。どういうことでしょう。魔法の気配はしなかったです。
いや、ほんの僅かに魔力の残り香があるように感じます。となると誰かが遠方で幻覚魔法でも使って、幻影を見せたのか。しかし何のためにそんな事を……。
しばらく考え込んでいると、セグイン大佐が辛気臭そうな顔で部屋に入ってきました。
中尉も一緒のようです。
「ああ! 大佐! 中尉! 今、謎の女の影が鏡に映ってたんです!」
「はぁ? 幽霊でも見たんか?」
「魔法少女に霊感ってあるものなのかい?」
「見る、という者もおる。ただし全てのものがそうではない」
「幽霊ですか。そんなもの見たことがなかったんですけど……」
「もしかすると、固有魔法に目覚めつつあるのかもしれんぞ?」
固有魔法。文字通り一部の魔法少女のみが有する固有の魔法です。
類似する固有魔法はありますが、原則的に固有魔法は個体それぞれで異なっています。
中には幽霊を視認し、操る――なんて固有魔法もあるのだとか。
正直、幽霊なんて信じていないのですが……。
「ところでシアン。実はおぬしに頼みがある」
「なんでしょう? ご命令とあらば、大抵のことは」
一線を越えたことはあまりやりたくありませんが……、という意味です。
「我が軍事局が開発している魔法兵装の試運転をやってもらいたい。うちの研究者が連盟最強の座をほしいままにしている蒼天の魔女が来たのであれば、是非に――とな」
「ふむ、危険なテストなのですか?」
「いや、腕は良い連中じゃ。第一、魔法少女のシールドを突破できるような事故を起こせるような兵装、作ろうとしても作れんわ」
「では私に確認を取るような話でもありますまい。中尉が問題なければ」
「僕はシアンくんがOKしたら、と言ったんだけどねぇ」
「なら何の問題もありません。さっそく向かいましょう」
――というわけでさっそく軍事局にある広場へとやってきました。
どうやら軍事局の敷地内のようで、いくつかの自動車や二足歩行兵器などが置かれています。
私が案内された倉庫では――。
「ああああああ貴方があの蒼天の魔女! 光栄です! 握手してください!」
「俺も!」「私も!」「どけ、俺が課長だぞ!」「バイタルデータ取らせてください!」
倉庫の中には白衣の老若男女が。
なにやら難しそうな機械をいじっていたのに、私を見た途端、わらわらと集まってきました。
なんなの、この人達……。
「毎日、毎日、魔法少女のために装備を作っとる連中じゃからなぁ……」
「しかし……、何故私の存在を?」
魔法少女の詳細などマスコミにはほとんど明かされてないはずですが。
「おいおい、彼らは仮にも軍の研究員だよ? キミのこれまでの戦歴や研究データ、その全てが彼らに流れていてもおかしくないのさ」
――と、中尉。なにやら自慢気です。
元は彼らと同じような研究畑の人だったのでしょうか。
魔法少女好きのようですから、仮にそうだとしてもおかしくありません。
「ふむ。ではなぜ大佐は辛気臭い顔をしてたんですか?」
「ほら、こういう連中に体の隅々まで調べられるって、年頃の乙女的には嫌じゃろ」
「別に構いませんよ。単なる医療行為の延長でしょう?」
「わしは嫌じゃったの!」
そう言って、地団駄を踏むセグイン大佐。
自分が嫌だったことを私にさせたくなかったのでしょうか。
大佐も元魔法少女のようですし、こういった実験がトラウマになっていてもおかしくありません。
「わしのシアンちゃんが薄汚い研究者共に隅々まで調べられるー!!」
「私が調べられるのが嫌だったんですか!?」
なんて人でしょう、まったく……。
「しかし……、私はどれをテストすればいいんですか?」
「ああ、もうすぐ上がってくるよ」
中尉がそう言うと、地下からリフトに乗って機械がせり上がってきました。
その姿はまるでうずくまった白いドラゴンのようです。
全長としては私の二倍ぐらいでしょうか。
「烈龍。稼働テスト中の魔法兵装さ」
「こんなもんつけてどうするんです?」
「ははは……、君には不要かもしれないけれど、これがあれば活躍の幅が一気に伸びる魔法少女だっているだろう? それに戦力の拡大は死傷率を下げることにもつながる。決して無駄な研究じゃないさ」
「ではなぜ、私のデータが欲しいのでしょう」
「何事もハイエンドのデータというのは参考になるからね。最大値を知っていれば、色々と参考にできることもあるってことさ」
「なるほど……、では装備してみますか」
「ではそこの物陰でこれを着てきてくれ。女性の研究員が装着を手伝ってくれる」
と言われてハンガーラックに掛けられたパイロットスーツとともに、簡素な試着室へと案内されました。カーテンで仕切ってあるだけのタイプです。
この手のは軍で活動した時、散々使っているので気にしません。
むしろ仕切ってあるだけマシなぐらいです。
パイロットスーツは、ぶかぶかなビッグサイズのようですが、なんとか肩まで被ると、一瞬でそれがゴムのように縮みました。
首まで全身黒タイツで、それに長い背骨が引っ付いてるようなデザインですね。
背骨は地面まで伸びており、刃のついた尻尾のような形状になっています。
そのまま、メカニックな龍の頭部を模したバイザーを被せられました。
視界の色が青く染まり、電子的な表記が広がります。そのままロボットアームによって手足に龍の四肢のようなマニピュレーターを装着されました。
通常の二倍以上は手足が増大しています。更には体を覆うような装甲とホバーを肩に装着し、諸々を合わせて完成のようです。
「…………重っ」
常に全体に飛翔魔法をかけていないと、どこか痛めてしまいそうですね……。
「おおっ!」
「これは……!」
「素晴らしいですね!」
「シアンさん! 一旦飛んでみてくれませんか!?」
研究員達のテンションがめちゃくちゃ上がっています。
ちょっと既に言いたいことがある感じですが、まぁいいでしょう。
「中尉、飛んでみてもよろしいでしょうか?」
「ああ、既に許可はとってある。軍事局の周りを少しばかり回遊してみてくれ」
「では……」
倉庫の扉が開けられたので、そこに向かって派手に飛び上がります。
やはり体がいつもより重い印象を受けます。
その分、肩部から外部に向かって羽のように伸びるホバーが、通常よりも数倍強力に感じます。
多少小回りはできなくなっても、速さはいつもより上かもしれません。
倉庫を飛び出ると、そこは青空。オベイロン軍事局はそれなりの高さのビルとなっていることが、ココから見るとよくわかります。
屋上では、高そうな服を着た方々が歓談しながらこっちを見ていました。
ふむ……、どうやらVIPの方に向けたテスト飛行だったようです。
それならもう少しサービスしてやりますか。
ホバーの出力を上昇させ、スピードをあげます。ある程度変則的な軌道を描きながら軍事局の周辺を回遊……。まぁ、この程度は一年のブランクがあっても簡単です。
しばらく飛んでいると――。
『シアンくん、もう十分だ。戻ってきてくれ』
中尉から通信連絡がありました。
「しかし中尉、装備されている火器を使用しておりませんが」
『ははは、こんな町中でぶっぱなせるわけないだろ?』
それもそうか……。言われたとおり、倉庫へと戻っていきます。
ロボットアームが複数ついたガレージによって、装備が外されると、ようやく烈龍を脱ぐことが出来ました。
脱いだ烈龍はそのまま地下へと収納されていきます。
「で、どうだった? 烈龍の使い心地は」
「はい、極めて個人的かつ、装備を使用していない限定的なテストでの感想でかまわないでしょうか?」
「もちろんさ」
「最悪でした」
できれば二度と着たくはありませんね。
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