第4話「大佐とお買い物」
「きゃあああああああああ!!」
女性同士のデリケートな買い物というものはどうしてもあるもので、そういう時は中尉には外れてもらい、適当に時間を潰してもらうことになりました。
その間、中尉の護衛がいなくなってしまうわけですが、そもそもの話をすれば中尉はプライベートにまで護衛をつけるほどの地位ではありません。家柄は良いですが。
私はと言うと、服屋にてセグイン大佐の着せかえ人形となっていました。もちろん中尉だけではなかなか厳しい下着事情までフォローしてくれるのは助かるのですが。
私が着替えるたびにいちいち黄色い歓声を上げなくても……。
「よし、シアンちゃん! 次はこれ着てみよっか!!」
――と言って、持ってこられたのはメイド服でした。
流石に給仕になった覚えはございません。というよりも――。
「大佐、なんかちょっとキャラ変わってません?」
「そ、そんなことないぞ? ほらほら早く!」
「まったく……」
かれこれ一時間近く付き合っているわけですが、飽きる気配がありません。
やや疲労感を感じますね。精神的な疲労です。
しかし中尉がいない間に聞いておきたいことがいくつかあります。
いい加減聞いてみましょう。
「セグイン大佐は中尉のこと好きなんですか?」
「ぶっほぉ!?」
「なにを吹き出してるんですか……」
ターンしてみてくれだのなんだの、私のメイド姿を存分に楽しんでいたセグイン大佐が唐突に唾を吹き出しました。汚いですね。しかしこの反応は……。
「やっぱり好きなんですね」
「いや、そのぉ……。でもあいつもうひとりの幼馴染のほうが好きだったんじゃ」
「ああ。リリカ・プレガーレさんですか。どのような人だったんですか?」
「明朗快活。言いたいことはハッキリ言う。見た目以外はおぬしと似ても似つかないタイプじゃったな」
「見た目以外ってなんですか……」
「見た目はよく似てるんじゃよ、ほんとに」
やはりリリカさんの面影を感じて、中尉は私を選んだのでしょうか。
その事を話すセグイン大佐の顔はどこか寂しげに見えます。
「リリカさんはいったいどうなったのですか?」
「そうじゃな……。奴は死んでしまった」
セグイン大佐が顔を伏せました。
「死因は……聞いてもいい感じなんでしょうか?」
「いや……、あまり聞かんほうがいい。もうこの話はやめよう」
ふむ、話を打ち切られましたか。しかしもう少し聞いておきたいことがあります。
中尉の魔法少女へのこだわりについてです。
セグイン大佐は話を打ち切りたいみたいですが、中尉の思想に関しては私の今後に関わることですからね。
聞いておかないと。リリカさんの死因でなければ問題ないでしょう。
「ところでなぜ中尉はあれほど魔法少女に熱心なのでしょうか?」
「うむ……。それもリリカのせいじゃ」
「といいますと?」
「『魔法少女の本質は光』とか言ってたことじゃろ?」
「ああ……、言ってましたね」
「あれはリリカの口癖なのじゃ。いわば遺言――、呪いじゃよ」
ますますリリカさんとやらに中尉が縛られている疑惑が出てきました。
しっかりと中尉に本心を聞いておいたほうがいいのでしょうか。
正直、本気でリリカさんの代替物にされるのは勘弁してほしいところです。
「ふむ。辛気臭そうな顔しよって」
「してません」
「それこそ今を生きるおぬしが見返してやればいいだけのこと」
「……はぁ?」
「ふふふ、みなまで言わんで良い」
何やら勘違いされているようですね。
別に私は中尉に対して、特別思うようなことはない――と思います。
そりゃあ、確かに命の恩人で保護者ではありますが、それだけです。
「その最善策はもちろん着飾ることじゃな!」
セグイン大佐が新しい服を、文字通り山積みにして持ってきました。
うぐぐぐぐ。しばらくは大佐の思うがままの着せかえ人形ですね、これは……。
それから一、二時間してようやく着せ替え人形から解放されました。
今度はいわゆるケータイショップで、携帯選びです。
様々な携帯電話がスタイリッシュに並んでいる店内は近未来感を感じさせます。
こういうことは自分が専門だと言わんばかりに、中尉がウキウキとした顔をしていました。
ここで延々時間を潰してたんですね……。
「君達が服を選んでいる間、僕も携帯を選んでたんだ!」
「ずいぶんウキウキですね」
「こういうのにはちょっと詳しくてね……」
そう言って出されたのはカード型の携帯。中尉も使っていたものですね。
「これは『カードフォン』の最新シリーズ! 今一番スペックが高いものなんだ! カード型と言うとちょっと古い印象を感じるけど、その分安定した運用ができるから、初心者でも安心して使えると思うよ!」
「はぁ……」
「まだ二つほどあるんだ! 待ってね!」
ずいぶん早口でそう唱えると、中尉はそのまま二つ目の端末を掲げてきました。
眼鏡型の携帯のようです。というか眼鏡です。眼鏡以外の何物でもありません。
「これは『インテリングス』! 眼鏡に画面を表示するタイプのシリーズだ! 操作が全部ゼスチャーと音声になっていて、慣れていないと使いにくいって欠点はあるけど……。わざわざ手に持ってる必要もないし、画面の没入感は凄いよ! で、最後のは……」
「では中尉が使ってるのと同じもので」
「待った! もし戦闘の際に両手がふさがってたら使えないよね!?」
「通信魔法があります」
「遠距離に連絡することだってあるだろ!?」
「なにが言いたいんですか?」
まぁいいでしょう。最後のを確認してからでも遅くはありません。
最後に見せられたのは耳当てを片方だけ外したような円盤状の物体。
中尉が真ん中のボタンを押すと、割れて横長に伸びました。
伸びた箇所が画面になるようです。
「これは『ユーフォン』! 中にペーパー式の画面が入っているから、伸び縮み出来るんだ! 耳につければ音声操作で、フリーハンドで操作できるって代物さ!」
中尉が再び円盤に戻すと、今度は右耳に装着してみせました。
「『カードフォン』と『インテリングス』のいいとこどりだろう? まぁその分やや操作が煩雑だし、インテリングスの没入感もないんだけどね」
うう……。どうでもいい……。
しかし私はこういったことに対して門外漢。
さっきからだんまりのセグイン大佐を見てみると、ずっとストラップコーナーで品定めをしていました。携帯端末本体には興味なさそうですね。
大佐の意見は聞かなくていいようです。ココは素直に……。
「中尉のオススメを買ってください」
「となると、まだ僕が持ってないユーフォンかな」
「他二つは持ってるんですか? 何のために二つも……」
「一応便利なんだよ!? カードフォンは操作しやすいし、インテリングスは手が離せない時やこそこそ話したい時なんかにも使えるんだ!」
両手をわたわたと振って、言い訳をする中尉。この人は本当に、もう……!
結局、ユーフォンを買ってもらうことにしました。
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