第8話 四月二日の告白



 デートは普通だった。


 普通であったというと不適切かもしれない。僕とサユの関係からすると、普段通りであったのだ。


 いつものように話しながら電車で移動して、映画館に着くとポップコーンや飲み物を買うのか相談する。そして、ハーフアンドハーフのポップコーンに好きな飲み物を注文する。


 見る映画もサユが好きそうなミステリーホラーな作品で、不気味な構造をした家に行方不明者が出てしまう話だ。


 映画が終われば、駅周辺をぶらついて見つけたカフェっぽいお店に入り、軽食を摂りながら映画や学校の話をする。


 思っているよりも普通だ。


 僕にとって何も支障がない。とても居心地が良いし、僕が吐いた嘘も忘れてしまえばいいのではないかと思ってしまう。


 僕自身も楽しいと思っている。


 今のように昼食を食べていれば、昔にサユと公園でお弁当箱を持ち合わせて食べたことを思い出す。子供ながらに親のいない場所で友達とご飯を食べるのはワクワクした。今も変わらないほどに楽しく思える。


 このままでもいいのかもしれない。


 このまま付き合ってしまってもいいかもしれない。


 一瞬、頭によぎった楽観的な考えに昨日のことを思い出して考えを止めた。


 サユは昨日の嘘で涙を流した。


 僕の気持ちは幼い頃から変わらない。あの頃からずっと変わらない。


 誰かを思い、涙を流す感情を僕は知らない。


 だから、サユは僕とは違う気持ちでいたのではないだろうか。今の僕とは違う気持ちで、僕とは違う好きという気持ちを持っているのではないか。


 僕の気持ちはあの頃から変わらない。

 彼女の気持ちはあの頃から変わってしまった。


 胸をちくりと何かが刺したような気がした。嘘で騙している関係を続けようとした自分に苛立ちもした。


 僕は嘘を吐き続けることをやめることにする。

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