第80話 強化騎士計画 復刻版




 水の1の月、2の週の火の日。


「ふぁ~~~……。」


 昼食を食べ終わり、いよいよ本格的に眠くなってきた。

 レーヴタイン組の皆と食堂で話をしていたが、さっきからあくびが出てしょうがない。


(……午後の運動、起きていられる自信がないな……。)


 走りながらでも居眠りをしてしまいそうだ。

 ミカは椅子の背もたれに寄りかかると、身体を大きく伸ばし首を傾げてこきっと鳴らす。


「ミカ君、眠い?」


 隣に座るリムリーシェが、心配そうにミカの顔を覗き込む。


「……夜中に、何かしてた……?」


 チャールの視線が少しだけ粘っこくなり、何やらはぁはぁ言い始めた、

 お前は何を想像してるんだ、何を。


 ミカは大きく息を吐き出し、昨夜のことを思い出す。







 牢屋に入れられたヴィローネと会った後、ミカはレーヴタイン侯爵宛に助命嘆願の手紙を書いた。

 クレイリアはその手紙を持って、ヴィローネの助命を侯爵にお願いするのだ。

 今回のヴィローネの『偽の指示』による被害者はミカとクレイリアである。

 この両名の助命嘆願なら、侯爵も一考してくれる可能性がある。…………かもしれない。

 侯爵を説得するため、大勢の護衛と、ヴィローネを見張る警備の騎士を引き連れて、クレイリアは今朝早くにサーベンジールに向けて出発しているはずだ。


 ミカはクレイリアと今後の大雑把な予定などを確認してから、レーヴタイン侯爵家の別邸から帰って来た。

 第一街区の検問までは警備の騎士に同行してもらわないと、ミカだけでは門の外に出ることすらできない。

 いくら夜中とはいえ、王都のど真ん中で飛行を使う訳にはいかないからだ。


 こうして、深夜と言ってもいい時間に寮に着いたが、当然のことながら寮の入り口は閉じられている。

 ミカはこの門限破りを誤魔化す気まんまんなので、入り口から入る訳にいかずに少々難儀した。

 帰って来たところを寮母や使用人たちに見られればアウトだが、夜のうちに部屋にさえ戻れれば、誤魔化しようはあるだろう。


 ということで、ミカは"低重力ロウ・グラビティ"で自重を思いっきり減らして寮の壁をひょいひょい登った。

 自重を軽くし過ぎたため、途中に風で一回飛ばされたのは内緒だ。

 どうせならなるべく軽い方がいいだろうと思ったが、自重を軽くし過ぎるとちょっとの風でも飛ばされちゃうんだね。

 さすがに十メートルを超える高さでいきなり身体を支える物がなくなるのは、寿命が縮む思いがした。


 そうして苦労して五階の部屋に辿り着き、格子ガラスの窓を軽く叩く。

 すると、すぐに窓が開けられた。


「ミカ殿!? なにやっ――――むぐ!?」


 驚いて大声を上げるバザルの口を塞ぎ、何とか自室への帰還に成功。

 バザルも、ニネティアナほどではないにしろ、中々に鋭い【気配察知】の【技能スキル】を持っているようだ。

 こんな夜中だというのに、すぐに窓を叩く音に気づいて開けてくれるのだから、ルームメイトがバザルで本当に良かった。


(これで今後の門限破りの目途がついたなんて思ってないよ?)


 バザルの口を塞いでいた手を離し、静かに窓を閉める。

 おそらく誰にも気づかれていないだろう。


「何をやっていたでござるかっ。 使用人の方々が心配されていたでござるよ!?」


 ミカの意図を察してバザルも声を落とす。


「あちゃー、やっぱりおばちゃんたちにはバレちゃったか。 ……誤魔化すのに苦労しそう。」

「誤魔化す気でござるか!?」


 寮では就寝の時間前におばちゃんたちが見回りをする。

 決められた時間に自室にいないとお説教の対象だ。

 まあ、湯場に行ったりトイレに籠ったりしてたら、たまたまおばちゃんたちとすれ違いになったと強弁してやろう。

 最初の一回くらいなら、これでも十分だ。……たぶん。


 バザルがジト目でミカを見る。


「ミカ殿はもしかして不良なのでござるか? こんな時間まで遊び回っているなんて、とんでもないことでござるよ?」

「別に遊んでた訳じゃないんだけど……。 まあ、説明できることでもないんで、それでもいいや。 じゃ、おやすみ。」


 ミカはさっさと運動着に着替え、ベッドに上がり横になる。

 ちなみに、寮では湯場に入れないと思い、クレイリアに頼んで湯場を貸してもらっている。

 牢屋の臭いが若干制服に沁みついていたが、身体を拭ければそれ以上の贅沢は言うまい。


 こうして無事に寮に戻り、いまいち納得しないおばちゃんも説き伏せて、ミカの門限破りは無かったことになった。







「それで今日は、クレイリア様はお休みしてるのね。」


 ツェシーリアがミカの話を聞いて呟く。

 ミカは簡単な事の経緯をレーヴタイン組に説明した。

 急にクレイリアを避け始めたのは侯爵家からの指示で、それはクレイリアには知らされていなかった。

 ただ、それがクレイリアにバレて、クレイリアはレーヴタイン侯爵を説得するために一度サーベンジールに戻った。

 ということにして。

 『偽の指示』うんぬんは皆には関係ないし、ややこしくなるのでカット。

 ミカがクレイリアを避けていたことと、クレイリアがその指示を知らなかったことさえ説明できれば、他はいいだろう。


「ということで、今日から元通りです。 クレイリアが戻って来ても、昨日までみたいなことにはならないよ。」


 ミカがそう言うと、皆がほっとしたような顔になる。


(そういえば、何か忘れている気がするんだけど、何だろう?)


 首を傾げて考えるが思い出せない。

 何となくもやもやした感じがするが、まあ忘れてしまったものはしょうがない。

 こういうのは、何かの拍子に思い出したりすることがよくある。

 とりあえず、一旦頭の脇に置いておくことにする。


「なんかもう、見てるだけでも辛くなっちゃうからさ。 ああいうのはやめて欲しいよね。」


 ミカがそんなことを考えていると、ツェシーリアがため息交じりに呟く。

 そんなツェシーリアの呟きに、皆がうんうんと頷いた。


「……放置プレイは、ちょっと……。」


 さすがのチャールでも、どうやらそういうのはあまり好みではないらしい。

 ていうか、何でもそっちに結び付けるのやめろよ、お前。

 なんか最近、以前にも増して悪化してないか、その病気?


「でも、これでまた前みたいに一緒にいられるんだよね?」


 リムリーシェがにこにこしながら聞いてくる。

 そんな無邪気なリムリーシェに「否」とは言えず、「そうだね。」と笑って返す。


(いきなり自立しろ、ってのも酷な話だしな。 いつまでも一緒って訳じゃないだろうけど、今は自然に任せるのがいいのかな?)


 ここに居るのは皆、法律で強制されて親元から離された子供たちばかりだ。

 心の拠り所を失えばきっと潰れてしまう。

 それならば、今はまだこのままでもいいだろう。

 今は、まだ……。







■■■■■■







 午後の運動の時間になり、ミカたちはグラウンドに集合する。

 レーヴタイン領の学院では必ず午後に運動があって寮で着替えていたが、ここでは運動の時間は曜日ごとの時間割で決まっている。

 運動の時間は毎日ではなく、週の中に数日は運動のない日があった。

 その分、魔力を扱う訓練や【神の奇跡】を発現させる訓練が増えている。

 ちなみに着替えは校舎の中にある更衣室のような所で行う。

 運動のある日は運動着を持って来て、そこで着替えることになる。


 午後に毎日運動があるのは十歳で入学してきた組の子供だ。

 今もグラウンドで延々と歩かされている。

 あと数か月はこうしてひたすら歩いたり、早歩きになったり、ジョギングになったりを繰り返す。

 歩くことに慣れろ、というのはレーヴタイン領だけの教育計画カリキュラムではなく、魔法士としての必須事項のようだ。


 ミカたちが整列して待っていると、担任のコリーナと体育会系せんせいが箱を抱えて持って来た。

 この体育会系せんせい、名前をケフコフと言い、見るからに体育教師という感じだ。

 どうにもケフコフを見ていると、学生時代の部活を思い出す。

 随分しごかれたなあ、と懐かしい気持ちが蘇ってくる。


「今日からしばらくはこれらを使った訓練になる。 毎年怪我をする者がいるし、過去には命を落とした者もいる。 真剣に取り組むように。」


 そう言ってケフコフが箱から出したのは鎚矛メイスだ。

 コリーナは両手に短剣ショートソード小剣スモールソードを持って、子供たちに見せる。

 ミカの前腕よりも長い柄を持つ鎚矛メイスを、ケフコフとコリーナが子供たちに配り始めた。


 魔法士は鎚矛メイス短剣ショートソード小剣スモールソードのうちのどれか一つを、必ず扱えるようにならないといけない。

 魔力が無くなりました、であっさり敵の兵士に殺されないようにするためだとか。

 さすがに騎士や兵士のような本職に勝てる訳ないが、生き残る可能性を少しでも高めるために、何とか隙を作って逃げ出せるくらいにはなれ、ということらしい。

 付け焼刃、生兵法という言葉が頭に浮かぶが、少しでも生き残らせようとする方針には、ミカも異議はない。

 まあ、国としてはせっかく長い時間と手間とお金をかけて育てた魔法士に、あっさり死なれては困る、ということなのだろうが。


(今まで棒を使ってやらされた”型”は、これか。)


 と何となく納得する。


 今日はこれら三つの武器を実際に触ってみて、自分の好みの武器を選ぶのだ。

 ミカは渡された鎚矛メイスを持って、少し離れる。

 他の子供たちも少し距離を空けるようにして思い思いに振り始める。

 ミカは念のため、周囲に三メートルほどの魔力範囲を展開する。

 近くに人がいることに気づかず振っていて、怪我などさせたら大変だ。

 いくらケフコフたちが【癒し】を使ってくれるといっても、できれば事故は避けたい。


 ミカが”型”を思い出しながら鎚矛を振っていると、魔力範囲に反応があった。

 鎚矛を振るのをやめて振り返ると、そこにはムールトがいた。


「どうしたの?」


 ムールトは鎚矛の打撃部分を、手のひらにぽんぽんと叩きながらやって来る。

 なんだか、そのまま振りかぶりそうな気配だ。


「お前、武器は何使う気だ?」


 そんなことを聞いてくる。

 俺の使う武器?


「んー……、まだ試してないから何とも言えないけど、たぶん短剣ショートソードかな?」

「短剣? 何でだ?」


 ムールトが鎚矛で肩を叩く。


「人を殺すのに力がいらないから。」


 首でも脇下でも内腿でも、刃を当てて、軽く押すか引くかしてやればいい。

 大動脈を切りさえすれば、あとは放っておいても勝手に死ぬ。

 それらを簡単に説明すると、ムールトがげんなりした顔をする。

 が、「ふむ。」と何やら考え始めた。


「じゃあ、俺もそっちにするか。」


 何だよ、俺とお揃いがいいのかよ。

 などとは言わず、普通にアドバイスすることにする。


「ムールトは鎚矛こっちの方が合ってると思うよ。」

「あ? 何でだよ?」


 ムールトはよく分からないという顔をする。


「使いたい武器にこだわりがあるなら別だけど、ムールトの体格を活かすなら短剣よりも鎚矛の方がいいんじゃないかな。」


 大変遺憾ながら、ミカとムールトでは頭一つ分の身長差があり、またがっしりとした体格もしている。

 そのムールトが思い切り振り下ろした場合、短剣と鎚矛ではどちらの方が威力があるか。

 試すまでもないだろう。


「重くて扱いにくいっていうなら短剣を選ぶのもありだと思うけど、別に重さは気にならないだろ?」

「ん-、まあ、そうだな。」


 ムールトは鎚矛を軽々と振ってみせる。

 ミカでも振れることは振れるが、おそらく持久力スタミナで負けるだろう。

 先に、振ることに疲れてしまう。


「普通のソードでもいいなら、そっちも選択肢に入れるべきだろうけど、学院では剣は選べないみたいだし。 鎚矛が合ってるんじゃないか?」

「……そうか。」


 そんな話をしていると、魔力範囲にぞろぞろと誰かが入って来る。

 見ると、なぜかレーヴタイン組が集合していた。


「ミカ君、私はどれにした方がいい?」

「あたしは? 鎚矛これじゃだめなのか?」


 口々に「僕は?」「私は?」と聞いてくる。

 皆どれを選べばいいのか悩んでいるようだ。


「自分の好きなの選べばいいんじゃない?」

「何だよ、ちゃんと考えてくれよ! ムールトばっかりズルいじゃない!」


 ツェシーリアが文句を言ってくる。

 ズルいって……。


「はぁー……、じゃあメサーライトは鎚矛か短剣、他の皆は短剣か小剣ね。 ああ、ツェシーリアは先のことを考えれば鎚矛もありかな。」

「それじゃあ、結局あたしは三択のままじゃないか!」


 俺に文句を言われても困る。


「今の体格と膂力を考えて単純に取捨選択してるだけだし。 ツェシーリアは女の子の中でも大きい方だから、これからもっと伸びれば鎚矛もいいかもってだけ。 僕に文句言わないで、自分の身長に文句言いなよ。」


 足でも首でも切り落とせば、鎚矛は選択肢から外せるよ、と笑顔でアドバイスを送る。


 その後、本気で鎚矛を振り回して追いかけて来たツェシーリアから全力で逃げ回った。

 ツェシーリアは、当然ながらケフコフからめっちゃ怒られました。

 そして、なぜか俺もコリーナから注意を受けた。


 ……解せぬ。







■■■■■■







 寮に戻って来たら、すでにバザルが部屋にいた。

 これから湯場に行くのだろう。

 着替えなどを準備していた。


「おかえりでござるよ、ミカ殿。」

「ただいま。 これから湯場?」

「そうでござる。 一緒に行くでござるか?」


 ということで、一緒に湯場に行くことになった。


「そういえば、まだミカ殿には言ってなかったでござるな。」

「ん?」


 階段を下りながら、バザルが話しかけてくる。


「拙者、決めたでござるよ。」

「ああ、やっぱり焼いた方がいいだろ。」


 朝食の時、バザルとそんな話をしていたのだ。

 焼いたポレンタと蒸したポレンタ、どっちがいいかと。

 ミカは断然焼いたポレンタ派なのだが、バザルはどちらも甲乙つけがたいと言っていた。


「…………何の話でござるか?」

「ん? 朝のポレンタの話――――。」

「そんな話はしてないでござるよ!?」


 どうやら、ミカの勘違いだったらしい。


「じゃあ、何を決めたって言うんだ! 言ってみろよ!」


 大袈裟な身振り手振りで、ちょっと逆ギレしてみる。


「拙者の剣術の話でござるよ!」

「…………剣術?」


 はて?


「忘れたでござるか!? ミカ殿が言ったのでござるよ! 家にこだわらず、強さを求める道があると!」

「あ……、ああー……。」


 その話か。


「もう一週間も前の話じゃないか! まだ考えてたのかよ!?」

「当たり前でござる! 一生のことでござるよ!?」


 こいつ、真面目過ぎだろう。

 そこまで悩むようなことではない。

 やっぱりだめだ、と思えばいつでも放り出すことができるのだ。

 続けるにしても「とりあえずやることもないし、続けてみるかー」くらいの気持ちでもいいはずなのに。


「で、結局どうすんの? 続ける? やめる?」


 ミカは結論を聞かせろと促す。


「勿論、続けるでござる。」


 そう言うバザルの顔はすっきりとして、迷いのない目をしていた。

 湯場に着き、脱衣所に入る。


「そういえば、バザルってどのくらいの強さなの?」

「どのくらいと言われても、中々困るでござるな。 まあ、目録でござるが。」


 うむ、分からん。


「ちょっと手ぇ握ってみ。」


 ミカが左手を差し出す。

 ミカは太眉の某殺し屋のように、利き手を他人に預けたりはしない。

 ――――なんてことは勿論なく、何となくそんなことが頭に浮かんだので左手を出しただけである。


 バザルがその手を握る。

 バザルの手は子供とは思えない、ゴツゴツした手をしていた。

 ミカがちょっと力を入れて握るが、バザルは平然としている。


「僕もそれなりにある方なんだけど、バザルも結構ありそうだね。」

「毎日剣を振っていたでござるからな。 嫌でもそれなりにはなるでござるよ。」

「じゃあ、ちょっとバザルの方から力入れてみてよ。」

「いいでござるか?」


 ゴリッ!


「いぎっ!?」


 バザルはまったく力を入れた風でもないのに、ミカの手は潰れそうだった。

 ミカが手を放すと、バザルもすぐに放してくれたが、あのままやられていたら本当に潰されていたかもしれない。


「なんちゅー握力や……。」


 ミカは手をぷらぷら振り、涙目である。


「しっかりと握れなくては剣がブレるでござる。 だけど、りきみ過ぎても反って鈍るでござるからな。 しっかり握って、でも剣を鈍らせない。 このくらいは剣術家を目指すなら普通でござるよ。」


 剣術家、恐るべし。







 湯場を出て、夕食を摂ってから部屋に戻る。


「バザルは目標が無くなったって言ってたよな。 今は何か違う目標を見つけたの?」


 椅子に座り、革の手甲の手入れをしながらバザルに声をかける。


「まだ見つかっていないでござる。 ……とりあえず、これまで修行していたことを繰り返すしかないでござるな。 目標は、そのうち見つかると思って気長に待つでござるよ。」

「そっか。」


 ミカは手甲を机の上に置くと、バザルの横に立つ。


「どうしたでござるか?」

「目標とは違うかもしれないけど。 まあ、ちょっとした道標にはなるかな。」


 そう言ってミカはバザルに耳を塞がせる。

 まあ、聞かれたからと言って大きな問題がある訳ではないが、念のためだ。

 そうして”制限解除リミッターオフ”と”吸収アブソーブ”、【身体強化】を発現する。

 バザルは、ミカが突然強い陽炎に包まれ、目を見開いて驚く。

 ミカは脱衣所でやったように手を差し出す。


「思いっきり握ってみて。」


 バザルは怪訝そうな顔をしながら、それでも少しずつ力を入れていく。

 だが、先程はすぐに手を放したミカが、今度は平然としている。

 明らかに力を籠めているのが分かるようになっても、ミカは平然としていた。


「そのまま、僕の方が少しずつ力を入れるよ?」


 そう言って力を籠めていくと、バザルの方がギブアップする。


「何をやったでござるか、ミカ殿。 それに、さっきの陽炎は一体……。」


 驚くバザルに、ミカは微笑みながら口に指をあてる。


「僕からは詳しいことは言えない。 一応、禁じられてるんだ。 でも、バザルもこんな力を手に入れることになるよ。 そのための学院だからね。」


 ミカの言葉に、バザルはますます驚いた顔になる。


「バザルが目標を見つけるヒントになればと思って見せた。 でも、今見たこと、聞いたことは口外しないでもらえると助かる。」


 そうミカが言うと、バザルは神妙な顔をして頷く。

 このクソ真面目なバザルなら、言わないと約束してくれればきっと守ってくれるだろう。


「そのうち授業でも習うと思うけど、もし騎士がこんな力を手に入れたらどうなると思う?」

「どうって、それは……。」


 バザルはミカの言葉を真剣に考え込む。

 一応、口外を禁止されている授業の内容なので、ミカから詳しく教えることはできない。

 だが、これをきっかけに自分の目指すべき姿を見つけてもらえれば、と思う。


 バザルなら、もしかしたら現代の強化騎士になれるかもしれない。

 いや、下手したら剣術家としての土台の上に、強化騎士をも超える存在になれる可能性だってある。


 十年も戦場に君臨したという強化騎士たち。

 バザルという剣術家がその力を手に入れた時、どんなことが起こるのか。

 早くてもまだ数年は先のことにはなるだろうが、今から楽しみだ、と一人ほくそ笑むミカなのだった。




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