第3章 魔法学院初等部の”解呪師”

第70話 いざ王都へ




 ミカは長期休暇をリッシュ村でゆっくりと過ごした。

 一年前と同じ様に教会に寄付を行い、ラディとキフロドには前回と同じ様に大袈裟なほどに感謝された。

 キフロドにねだられて、ブアットレ・ヒードの相手もさせられた。

 相変わらず不利になると「待った」とか言い出すが、気にしないことにする。

 それで勝って勝ち誇るのには、かなりの忍耐力を必要としたが。

 ニネティアナの家にも遊びに行って沢山の話をし、自分であちこち歩き回るようになったデュールの遊び相手もした。

 自宅ではアマーリアとロレッタに散々に甘やかされながらも、「さすがにもう勘弁。」と一緒に寝ることだけは何とか免れた。

 泣かれたけど。

 そして、今年も銀貨五十枚を何とか確保してアマーリアに渡す。

 また泣かれたけど。

 そうして、王都へ出発する前日にサーベンジールに戻るまで、ミカは穏やかにゆっくりと過ごしたのだった。


 ちなみに、一年前にミカの素性調査がサーベンジールから派遣された、一人の騎士によって行われたという話も聞いた。

 詳細は当然教えられなかったが、大きな事件の重要な証人なので、怪しいところがないか調べるだけ、という説明がされたらしい。

 ミカがリンペール男爵領出身の学院生だと分かり、すぐに早馬を乗り継いで調べにきたのだろう。

 そうでなければ、侯爵の娘の保護から侯爵の取り調べまでの間に調査し、その情報をサーベンジールまで持ち帰るのは不可能だ。







 地方の魔法学院を修了した子供たちは、四週間の長期休暇を自宅で過ごし、再びサーベンジールに集まることになる。

 王都の魔法学院が始まるのは水の1の月、1の週の月の日。

 これは元の世界でいう4月2日にあたる。


 サーベンジールから王都までは乗り合い馬車で八日もかかるので、余裕を見て二週間前にサーベンジールを出発する。

 それが土の3の月、4の週の陽の日。3月中旬頃だ。


 王都までの乗り合い馬車は学院生専用で、特別便が用意されている。

 そう言えば格好いいが、結局はただの荷馬車であることに変わりはない。

 それでも遠足の時と同じく、王都までは領主軍の騎士一隊が同行する。

 王都の学院まで無事に送り届けるのが、地方の魔法学院を運営する貴族の責任なのだろう。

 なので、周りからは「何事か?」と注目を浴びることになる。

 もっとも、乗ってる子供たちはそんなこと気にする余裕なんてないのだが。


「もう……、いつになったら着くのよぉ。」


 ツェシーリアが涙目でぼやく。

 すでにサーベンジールを出発して六日目。

 六日間もひたすら荷馬車に揺られ続けた。

 すでに皆のお尻はとっくに限界を超えている。


「宿場町に着くのは夕方だろ。 王都に着くのは明後日。 何回聞かれたって答えは変わらないって。」


 ミカが素っ気なく答える。

 ここ数時間で何度も行われてきたやり取りだ。

 皆お尻の下に運動着を重ねて敷いたりして、衝撃を緩和する対策は打っている。

 それでも、荷馬車の揺れはそんなことでは吸収しきれず、皆の尻を責め続けた。


「ちょっとミカ! あんたずるいわよ! 【身体強化】切りなさいよ!」

「嫌に決まってんだろ。」


 子供たちは全員、自分の尻を守るためだけに【身体強化】を発現していた。

 【身体強化】では耐久力も強化されるため、対荷馬車には有効な手段だ。


「ペースを誤ったのは自業自得だろ? 己の未熟を恨むがよいわっ。」


 ただし、現在ツェシーリアはその【身体強化】を使えない状態だった。

 遠足のように二時間に一回、魔力の回復薬を使える訳ではない。

 自前で用意しているなら別だが、そんな物を用意しているわけもなく、皆は魔力の回復なしに一日魔力をもたせなければならない。

 そうなれば、当然【身体強化】の出力を下げざるを得ない。

 苦痛に耐えかね、出力を上げ過ぎれば、あっという間に魔力が枯渇する。

 今のツェシーリアのように。


「もう、ミカ君。 そんな言い方しちゃだめ。 もうすぐ着くよ、ツェシーリア。 頑張ろう。」

「うう、リムリーシェ……。」


 ツェシーリアがリムリーシェに泣きつく。

 皆が責め苦に喘ぐ中、リムリーシェは比較的涼しい顔だ。

 それもそのはず、リムリーシェは魔力の回復などなくても【身体強化】を二倍くらいまで上げて、それでも一日もつらしい。

 数日間で多少のダメージの蓄積はあるが、他の皆とはダメージの受け方がまったく違う。


 ちなみに俺は当然限界リミットの五倍まで上げている。

 激しく動かないのであればもっと引き上げてもいいだろうが、まあ五倍でもほぼノーダメでいられる。

 湯場で癒しの魔法を使う必要すらない。

 強いて言えば、じっとしていることに苦痛を感じる。

 それだけだ。


 その時、チャールがぼそりと呟いた。


「……こういうプレイだと思えば……、これはこれで……。」


 お前は黙ってろ、チャール。

 何処まで行ってしまうのか、お兄さんは君の将来が心配だよ……。


 メサーライトもぐったりしていて、ポルナードにいたってはもう普通に泣いていた。

 ポルナードの魔力量じゃ、ロクに【身体強化】も使えないしな。

 素の状態では、ミカも三日でギブアップだ。

 それが六日も続いて、しかもまだ二日もある。

 泣きたくなる気持ちもよく分かる。


 ムールトは荷馬車の一番後ろで静かに座っていた。

 眉間に皺を寄せ、必死に耐えているのが分かるが、泣き言を言わないのはさすがだった。

 根性あるね、あいつ。


 そうして、長く苦しい荷馬車の旅を続け、八日目の夕方にはなんとか王都に着くことができた。







■■■■■■







 エックトレーム王国、王都イストア。

 人口は一千数百万人と言われるが、正確な人口は不明だ。

 厳密に言う王都とは街壁に囲まれた範囲だが、街壁の外にもがんがん街が作られているという。


 王都は、大まかに四つの区画に分けられる。

 まず王都の中心にある王城。

 高い城壁に囲まれ、貴族や御用商人でもなければまず入ることのできない場所。


 次に第一街区と呼ばれる貴族の邸宅や官所が集まった場所。

 王城を取り囲むようにこの第一街区があり、第一街壁という高い壁に囲まれている。

 この第一街区には許可がないと入れないらしい。

 まあ、平民のミカには縁のない場所だろう。

 ただ、官所に勤める人の多くは平民なので、将来役所勤めをするようになれば、入ることになる可能性はある。


 冒険者がだめだったら、公務員になるのもいいかもね。

 安定してるし。

 軍人になるよりは余程ましだろう。


 そして、第二街区。

 第一街区を取り囲むよう第二街区があり、第二街壁に囲まれている。

 この第二街壁に囲まれた範囲までが、厳密に言う王都。

 平民が暮らす場所であり、冒険者ギルドなんかもこの第二街区にある。

 第二街壁にも検問のようなものはあるらしいが、サーベンジールほど厳しくないという。


 その第二街区の外にあるのが、通称第三街区。

 王都にどんどん人が集まって、勝手に街が作られている状態なのだとか。

 とは言っても、サーベンジールの街壁の外に作られていたバラック街のような無法地帯というわけではなく、一応は家屋を建てたりするのにそれなりに許可を必要とする。

 勝手に街が作られていると言いながら、許可を必要とすると言ったり、矛盾をしているように感じるが、要は「公式には認めないけど、この辺りなら建ててもいいよ」などのコントロールをしているという状態だ。

 それなりに道路などもしっかりと計画された上で敷かれているようで、迷路のようになっている訳ではないらしい。

 この第三街区には、街壁のような物はないそうだ。


 王都の姿は目玉焼きを想像すると分かりやすい。

 まず目玉にあたる黄身が王城。

 白身が第一街区。

 目玉焼きを乗せてるお皿が第二街区。

 お皿の外が第三街区。

 そして、それぞれの境界には城壁や街壁がある。

 そんな感じだ。


 第一街区と第二街区は円形に近い形をしているが、やや楕円形なのだという。

 そしてもっとも長い部分、長軸が第一街区は二キロメートル。

 第二街区は八キロメートルもある。


 第三街区に至っては綺麗な円形はしていない。

 いろんな所が出っ張ったり、へこんだりしている。

 それでも、一番長い部分を測れば、おそらく二十キロメートルを超えると言われている。


 エックトレーム王国は建国以来一度も遷都していないらしく、どんどん膨らんでいって、現在の王都の形になったのだという。

 大昔は、第一街壁の中の第一街区に貴族も平民も暮らし、第二街壁は存在しなかったようだ。






■■■■■■







 王都の魔法学院に着いたのは夕方というより、もうほとんど夜と言っていい時間だった。

 学院の敷地内には馬車は入れないということで、正門前のロータリーのような所で全員が降ろされた。

 送ってくれた御者や、同行してくれた騎士たちに礼を言い、ミカたちは正門をくぐる。

 すぐに十字路になり、男子寮が左、女子寮が右だという。


「じゃあ、ここからは別々だな。」


 ミカが振り返り、後ろからついて来た女の子三人組に声をかける。

 三人は疲労と不安でテンションが駄々下がりである。


「ようやく馬車から解放されるんだぞ? 良かったじゃん。」


 ミカは努めて明るく言うが、三人の反応は芳しくない。

 何だかんだ言っても、共に苦労を分かち合ってきた仲だ。

 見知らぬ土地では一緒にいればそれだけで心強く、別れるとなると途端に心細くなってしまうようだ。

 それは男の子たちも同じなのか、皆一様に表情が暗い。

 こんな日も暮れた中、ずっと外に居ても良いことなどないだろうに。


(そんな、今生の別れじゃないんだから……。)


 ミカは小さく溜息をつく。


「じゃあ、僕は先に行くよ。」

「ミカ君……。」


 手を振って男子寮に向かって歩き出すと、心細そうなリムリーシェの声が耳に届いた。

 立ち止まって振り返ると、捨てられた子犬のような目のリムリーシェと目が合う。


「……どうせまだ、大してやることなんかないだろ? 明日、朝食の後またここに集合な。 少し学院の中を見て回ろう。 女子寮そっちの様子も教えてくれよ。」


 ミカがそう言うと、ほんの少しだがリムリーシェの表情に気力が戻ってきた。

 他の子供たちも、明日また会う約束がなされたことで、心細さが軽減したようだ。

 口々に「また明日。」と声をかけあって、それぞれ寮に向かって歩き出す。


 男子寮に着いたが、外観は暗くてよく分からなかった。


(明日、また明るい時に見よう。)


 ミカはさっさと玄関に入る。

 玄関は明るく、よく清掃されているようだった。

 目の前の廊下の右側からガヤガヤと騒がしい人の声が聞こえる。

 時間的にたぶん夕食の時間なので、おそらく声の元は食堂ではないかと思う。


「すいませーん。」


 とりあえず、ミカは誰か呼んでみることにする。

 自分の部屋がどこかも分からないので、まずは寮を管理する人に話を通さなければならない。

 ミカが声をかけるとすぐに、左側の部屋の扉が開いた。


 部屋から出て来たのは、四十代前半くらいの女性。

 大変きつそうな目つきをして、口の端からスルメのような物が飛び出している。

 手にはジョッキのような物を持ち、心なしか頬が赤くなっているような気がしなくもない。


「ああ、何だぁ? お前たち、今着いたのか?」


 スルメをくっちゃくっちゃしながら、女性が怠そうに聞いてくる。


「こんな時間に申し訳ありません。 レーヴタイン侯爵領の魔法学院から来ました。」


 別に俺たちのせいじゃないけどね、と思いつつとりあえず答える。


「レーヴタイン領か……。 ちょっと待ってろ…………て、お前。」


 女性がミカを見る。


「お前はこっちじゃないぞ。 女子寮は反対の――――。」

「男子寮で間違いありません!!!」


 ミカが強く言うと、女性は怪訝そうに眉を寄せるが、とりあえず部屋にリストを取りに行く。

 メサーライトとポルナードが、ミカの後ろで声を殺して笑っていた。


(……お前ら、後で憶えてろよ。)


 ムールトは無表情でそっぽを向いているが、頬が微妙にぴくぴくしている。


「待たせたな。 じゃあまずポルナード。」


 戻ってきた女性に名前を呼ばれたポルナードが前に出て、部屋を教えてもらう。

 そうして順番に部屋を教えてもらい、最後にミカの番になった。


「お前、名前は?」

「ん? ミカですけど?」


 何で俺だけ名前聞くんだ?


「やっぱりお前、こっちじゃないぞ。 女子寮の方に部屋があるからそっち行け。」

「はあ? 嘘だろ!?」

「勿論、嘘だ。 お前は五階の奥。 五一五号室だ。」


 女性は無表情でそう言って、ジョッキを呷る。


(こ、こいつ……。)


 茫然とするミカの後ろで、我慢しきれずにメサーライトたち噴き出す。

 まさか、この女性が寮母じゃないだろうな。

 どう見ても酒を飲んでるようにしか見えないんだけど、いいのかこれ?

 寮母と言っても酒くらい飲むかもしれないが、子供の前で堂々と飲むのはどうなんだ?


「基本的な規則は地方の学院の寮と然程変わらん。 分からんことは適当な奴に聞け。 飯は食いたければ今日から食って構わん。 以上だ。」


 ミカたちの返事も聞かず、女性は部屋に戻ってしまった。

 どうすればいいのか頭が働かず、思わず立ち尽くす。


「えーと……、とりあえず部屋に荷物置いてくる?」


 メサーライトが提案する。

 湯場のことなども確認したいが、時間が時間だ。

 まずは荷物を置いて、食堂に行くのがいいだろう。

 荷物を置いたらまた玄関に戻って来ることにして、それぞれの部屋に行くことにした。


 ミカは五階まで階段を上がる。


(エレベーターが欲しい……。)


 これもトレーニングと思えばそこまで苦痛ではないが、疲れている時はちょっと大変だろう。

 具体的に言えば、今のような時だ。

 今さっき、ぐったりするほど精神的に疲れた。


 五階に着くと左右に通路が伸びている。

 ただし、左右で通路の長さが違う。

 ミカは一番奥と言われたので、長い方の右側の通路の突き当りを目指した。

 まあ、外れたら反対側に行けばいいだけだ。

 部屋は通路に向かい合って並び、一番奥は五一五号室で、向かいが五一六号室だった。


 ミカは部屋のドアをノックするが返事がない。

 夕食の時間なので、食堂に行っているのかもしれない。

 ドアを開けて部屋に入ると、部屋の中は真っ暗だった。

 僅かに入って来る月明かりで部屋の中の配置が分かるが、レーヴタイン侯爵領の寮と基本的には同じような感じだった。

 違いがあるとすれば少し広くなり、机やベッド、タンスなどのサイズが大きいくらいか。

 六年間過ごすなら、成長とともに身体も大きくなっていく。

 幼年部のサイズでは、王都の寮では困ることになるだろう。


 ルームメイトもいないようなので、ミカは使っていない方の机に荷物を置こうとして、動きが止まる。

 どちらも使っている形跡がない。

 机の上には何も置かれておらず、周りにも何もない。


「ルームメイトはまだ入っていないのか?」


 その可能性が高い気がした。

 ミカはこれまでと同じように、部屋の左側の机に荷物を置き、一階まで戻る。


「ミカ遅いよ。」

「なら、部屋を交換しようか? 二階のメサーライト君。」


 メサーライトが文句を言うが、じと目で反論する。

 五階のミカからすれば、二階のメサーライトに遅いなどと言われたくない。


 ミカたちが食堂に向かうと、ぱらぱらと食堂から人が出て来た。

 年齢はばらばら。

 十代半ばに見える人も入れば、まだ十歳になったばかりのような、ミカたちと同じ歳くらいの子供もいる。

 どうやらこの寮には、学院の初等部から高等部までが共同で生活しているらしい。


 食堂の中に入ると、その広さにびっくりする。

 ぱっと見ただけでも学院生と思われる子供たちが百人以上いる。

 その子供たちが、全員座れるくらいのテーブル数があった。


 まずどこに行くのがいいのか入口付近で確認していると、視界に入った子供の一人が指で奥の方を指した。

 そちらに視線を向けるとカウンターがあり、食事を受け取っている子供の姿が見える。


「あそこで受け取るみたいだな。」


 ミカが言うと、メサーライトとポルナードが頷く。

 ミカを先頭にカウンター前に行くと、給仕のおばちゃんが話しかけてくる。


「あら、見ない子だね。 今日来たの?」

「今さっき着きました。 まったく分からないで困ってるんです。」

「ん? パラレイラは?」


 そうおばちゃんは呟くが、すぐに苦笑する。


「この時間じゃあ、だめか。 ……皆一緒の学院だったの?」


 おばちゃんがポルナードやムールトを見ながら尋ねてくる。


「はい。 寮の規則はほとんど変わらないとは聞いたんですが……。」

「そうね。 細かいことはおばちゃんには分からないけど、あんまり変わらないってのはおばちゃんも聞いたことあるよ。」


 そう言って、おばちゃんが横にあるトレイを指さす。


「それ持って、こっちのカウンターに並ぶの。 そしたらどんどんおかずを乗せてくから。 向こうにあるパンを食べられるだけ持っていって、好きな席に座るといいよ。 場所は特に決まってないからね。」


 親切なおばちゃんが居て助かった。

 食事を受け取るやり方は、前と違いはないようだ。

 ミカはトレイを一つ取ると、カウンターの前に進む。

 メサーライト、ポルナード、ムールトも続く。

 おばちゃんがよそってくれたのは豆と野菜と燻製肉のトマト煮込みみたいのだった。

 だが、初見だと思ってちょっと加減し過ぎな量だ。

 ミカは手だけでおかわりを要求する。

 ついレーヴタインの寮での癖が出てしまったが、おばちゃんには通じたようだ。


「あら、そんなに食べられるの?」


 おばちゃんが30%ほど増量する。

 ミカは更におかわりを要求する。


「ちょっとちょっと、いくら何でも欲張り過ぎよ。 そんなに食べられないでしょ。」

「え?」


 ミカは驚き、それは横に並んだメサーライトたちも一緒だ。

 ミカたちが驚いていると、おばちゃんがはっとした表情になり、恐るおそる尋ねる。


「君たち…………、もしかしてレーヴタイン領の学院から来た?」


 ミカたちが頷くと、おばちゃんは驚いた顔をするが、すぐに納得した。


「あらー……、あそこの子たちはいっぱい食べるからねえ。 こんなに可愛い子がそんなに食べるの?って、おばちゃんびっくりしちゃった。」


 どうやらレーヴタインの寮の食事量は全国区で有名なようだ。

 というか、あの食事量は魔法学院の標準じゃなかったんだな。


 おばちゃんは納得したように、ミカのおかずを最初の倍量まで盛ってくれた。

 ミカが先に進むと、メサーライトにも同量をよそう。

 そうして、各々が普段とおなじぐらいの食事量を確保して、席につく。


「あの量って、サーベンジールうちだけだったんだな。」


 ミカがこそっと伝えると、皆が苦笑する。


「最初、おかしいって思ったもん。 すぐに慣らされちゃったけどさ。」


 メサーライトの意見に、皆が静かに頷く。


「まあ、それはいいとして。 とりあえず無事に着いたし。 食べるか。」


 どんなに疲れていても、食べさえすれば動けるようになる。

 気力が湧いてくる。

 すっかり身についてしまったレーヴタイン流に倣い、王都での初めての食事に皆でがっつくのだった。




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