第37話 浴衣と祭りと浮かれ日和7
五つの財布。それは俺たち以外に五人の被害者がいる事を指していた。そしてそれがここにあるという事は俺たちがそれを返さないといけないという事だ。そんな状況なのに大塚といえば、かなり楽観的だ。
「わーい。財布が増えたぞー」
違う、そうじゃない。
「これは大塚さんのじゃありませんよ。」
「え、違うのか!?何故だ?」
なんでだよ。
「いや、でもこの二つは普通に私のだが」
「そもそも、なんで二個も財布持ってるんだ?しかも長財布。絶対邪魔になるだろ。」
「ほら、あれだ。小銭とお札を分ける用に持っているんだ」
お金を分ける前に自分の財布を見極める能力を培おうか。
「それにしてもどうしましょうか。そもそも探す当てがないですよ」
シロネさんが心配そうにそういう。あぁ、どことなくこの後の展開が読めるな。ここで橋田はこう言うのだ。
「ふっふっふっ、我の力を忘れたのか?」
ほら、正解だろ?そこにはまたもや自信満々に佇んでいる橋田がいた。この下り何回するんだよ。
「何か当てがあるのか?」
「ふっふっふっ、今度は相手のポケットにテレポートさせて見せましょう」
そう言って橋田は財布を手に取り、目を閉じて念じる。
「愚かなる魔道具よ。母なる大地に帰り、古来よりの闇にへと葬り去れ。『テレポート!!』」
橋田が聴く側がむしろダメージを受けそうなほどに痛々しい魔法を唱えたのち、手に持っていた財布達は忽然と姿を消した。
「おぉ、すっごいな」
「本当に戻ったのか?」
「ええ。私の魔法。テレポートによりキチンと持ち主の場所にへと戻りましたよ。」
「すごいですね。どうやったんですか?」
「ふふふ、簡単ですよ。この魔法にはモノから発信されるサーチ能力も併用しているので、まず一発で持ち主の場所が特定できます。そうなれば簡単です。あとはポケットの中にテレポートさせるだけなのですから。
「いいなー。私もこう言う能力が欲しいな。」
絶対やめとけ。バカに能力なんて渡したら、この世界が滅びかねないぞ。
「まぁ、無事に厄介事も片付けた事ですし、引き続き祭りを堪能するぞ!!」
それから、りんご飴、焼きそば、たこ焼き、かき氷、きゅうり、串肉、etcとほぼグルメな屋台を一通り堪能し、皆でかなり満足していた。食ってばっかりだから腹も当然膨れて来て、少しばかり苦しかった。そして、いくあてもなくフラフラと歩いていると、パンフレットとうちわをもらった。パンフレットには花火大会の時刻が書かれてあった。当然、橋田は
「こうしてはいられませんね。花火大会なんて祭りの最大的行事ですから見逃すわけには行きませんね。」
と、行く気満々だった。しかし、問題が発生した。パンフレット書かれてあった、花火がよく見えるスポットは既にたくさんの人が押し寄せており、到着するのにはかなりの困難わ強いられる事になる。
それにしても、
「人多すぎないか?」
「そりゃあ、地元一の花火大会ですよ。大勢押しかけるのも無理はありません。」
秋谷は人混みの中も平気なのかしていつも通りの笑顔であった。
「おい、みんなどこいった?おーい!!」
そして、割と近くで俺たちを見失ったであろう大塚は、ひたすらに声を上げ続けていた。
しかし、そんな俺も情けないことに人々の混雑に巻き込まれる事になった。一斉に押し出され、俺は他の面々と逸れてしまった。
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