第27話 オペレーションレベル3

 扉を開け、俺たちは不審者がいる場所へと走り出す。すると、橋田は走りながらこう言った。

「落ち着きましょう。こう言う時は『おかしも』ですよ。」

 おかしも.....か。懐かしいな。小学生ぶりに聞いたかもな。ただ、走りながら喋っているのは落ち着いているとは言えないけどな。

「押さない、醸さない、白井君、桃」

 醸さないってなんだよ。

 あぁ、聞くだけ無駄だった。何故そこまで自信満々に間違えられるのか。逆に教えて欲しいものだ。

「違いますよ。橋田さん。」

 シロネさんは自信満々に訂正する。そうだ、間違った事は指摘してやった方が良いのだ。

「押忍、賭けない、白井君、も」

 白井君何してんだよ。なんか「も」が字余りみたいになってるぞ。

 全く、今はそんな場合じゃないのに。

「そんな事より、どうやって不審者に対抗するんだ?」

「任せてください。私とシロネがいれば、鬼にカナブンです」

 そんな言葉はない。

「それで、俺はどう動けば良い?」

「そうですね。まぁ、その時になったら指示を出します。」

「あ、アレじゃないですか?」

 そこにはザ・不審者のような姿をした男がいた。その男はこちらに気づき、慌てて逆方向に走り出した。

「アレが不審者ですね。追いかけましょう」

 俺たちは不審者を追いかける為に全速力で走り始めた。犯人とは距離があまり縮まない。その男の手にはナイフのような物があり、緊迫した空気に包まれた。

「くそっ、待ちやがれ!!」

 暫く追いかけた頃、不審者が工事中の階段前に止まり、慌てふためいていた。

 しかし、犯人は横の教室のドアを蹴破り、中に入っていった。すると、教室内から悲鳴が聞こえ、俺たちは様子を見て戦慄した。

「おい、お前ら。ちょっとでも近づいてみろ!!この子がどうなっても知らないぜ」

 不審者はナイフを突き出し、教室内にいた岡部さんを抱き抱え人質にしていた。

「なんてことを......」

「くそっ......どうすれば良いんだ」

 教室のドア付近でただ立ち尽くしていた。身体中を伝う汗すら鬱陶しい程に緊迫した俺たちは小声で指示を出し始める。

「聞いてください。我の魔法により、この教室内の空間を5秒止める事ができます。この5秒の間にシロネは敵の無力化をお願いします。そして助手は人質の解放をお願いします。」

 俺とシロネさんはお互い顔を見合わせて頷いた。

「分かりました、武器を分子レベルまで分解します」

「健全な生徒の平和を掻き乱しているのを見過ごせないな。ブラッドファミリーとしてな。」

「シロネ、璃くん!!」

 橋田は感動し、目をウルウルとさせる。

「では、行きますよ。私が唱えたらスタートです。」

「あぁ、頼んだぜ。」

「なにこそこそ喋ってやがる!!」

 犯人がそう叫ぶと橋田は詠唱を始めた。

「ふっふっふっ、我が魔法と共に朽ち果てるべし。究極にして、或いは世の理をも凌駕する我が魔法。くらえ!タイム!!」

 5秒間の停止。このわずかな時の中で、やり遂げなければならない。俺とシロネさんは決死の覚悟なのだ。

 そして、俺たちは走り出す。周りの時は完全に止まっており、不思議な感覚だ。シロネさんは武器の破壊。俺は人質の解放を。シロネさんは素早く敵からナイフを奪い取り、俺は岡部さんを抱える事に成功した。

 そして、時は動き始めた。

「な、なんだ......。武器がねぇ、人質がねぇ。どうなってやがる」

 犯人はかなり困惑していた。無理もない。ふとした瞬間に持っていたモノ全部が目の前から消えているからな。これも我が創設者の仕業だよ。

「残念だったな。我の学校に入っていったのが運の尽き。もう貴方は追い詰められているのです」

 しかし、不審者は臆する事なくこちらに走って来た。最後の悪あがきとやらだろう。半ば諦めていたその時、誰かが犯人に突っ込んで行った。

「私の仲間に、手を出すなああぁぁぁ。」

 現れたのは大塚だった。

「私の生徒に何してんだコラ!!」

 そして、更に現れたのは柚木先生だった。

 二人は犯人を吹っ飛ばし、馬乗りにしてボコボコ殴っていた。不審者は情けない事に小さな声で、「ごめんなさい」と言っていたが、だんだん聞こえなくなっていった。俺はこの光景に少々恐怖を感じた。側から見ればただのリンチにしか見えないからな。

 そうして、不審者退治は無事成功を収めた。奇跡的に生徒達に怪我は無く、不審者は警察に仲良く連れてかれていった。

「ふっふっふっ、やはり我が魔法とやらでなんとかなりましたね。実は私は彼女達に強化魔法をこっそり唱えていたのですよ」

 なるほど、だからあの不審者に勝つ事ができたのか。何処かおかしいと思ったら。

「ってか、秋谷。大塚はどうして来たんだ?」

「いえ、最初は大人しくしていたのですが、『こんな作業をやっていたら私は気が狂って死ぬ!!』と叫びながら飛び出していってしまいました。」

「やっぱりな。まぁ、でもお手柄だったな。」

「当たり前だ。私に掛かれば、夜飯前だ。」

 朝飯前と行きたかったのだろう。だから、よく意味も知らないなら無闇にことわざを使うなって。

「璃くん。グッドでしたよ。」

「シロネさん。貴方のおかげでもありますよ。」

「いえいえ」

 ニッと笑うその様はかなり可愛い。さすが癒し担当だ。

 そして、人質にされていた岡部さんがこちらに近づいて来た。

「この度はありがとうございました。」

 ペコリと岡部さんは頭を下げていた。

「いえいえ、俺達は当たり前のことをしたので」

「どうか、お礼をさせて欲しいのですが。生徒会の権限でなんでもできますよ。」

 なんでも......か。俺は前々から考えていた事があった。しかし、機会がなかった為実行に移す事ができなかったのだ。せっかくの機会なので、お願いしよう。ただ勘違いして欲しくないのは、ソッチ方面の願いではないとだけ言っておこうか。

「では.......」

「.....わかりました。手配します!

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