独立の道
10 天使は王を選ぶもの
父親には約束したものの、エリオはラルクの嫌がることをしたくなかった。出会った時から馬の合う友人だったが、ここに来て余計に手放したくない親友になりつつある。
だが、父親に自分から提案した以上、聞いておかなければならない。
「なあ、ラルク。お前はフォレスタが独立したら、祝福してくれるか?」
栗鼠に種をやっていたラルクが、振り返る。
ここは槍樹城の客室で、ラルクに用意された部屋だ。
「祝福? フォレスタで王を選んで欲しいと、はっきり言え。お前たちは、それを欲しているのだろう」
そのものズバリ指摘され、エリオは慌てた。
「僕は君に強制するつもりじゃ……って、ラルクは嫌じゃないのか」
「別に。そもそも、お前に付いて来た時点で、そのことは承知の上だった。お前こそ、王になる気はあるのか?」
「へ。僕が王?!」
目を白黒させると、ラルクが呆れたように嘆息する。
「心の整理が必要なのは、お前のようだな」
「ちょ、ちょっと待って。ラルク、君は僕を王にすると言ってる?」
「むしろ何で他の奴を選ぶと思う。見知らぬ者や嫌いな者を選ばないだろう」
ラルクは意地の悪い笑みを浮かべた。
「俺に故郷を捨てさせておいて、お前は覚悟が無いなんて、言わないよな?」
言い返す言葉が思い付かず、エリオは絶句した。
侯爵の息子として責任を果たしていくつもりだったが、王を名乗ることまでは想像できていなかったのだ。
「それ、僕じゃないと駄目?」
「駄目だ」
「我が儘な臣下に振り回されて、胃に穴が空く未来しか想い浮かばないんだけど。他に良さそうな人を見付けるからさぁ」
エリオは葡萄畑を作りたかった。
フォレスタ侯爵は、侯爵とは名ばかりの田舎貴族であるし、畑を
帝国に留学して、それなりに勉強したエリオは、国王が面倒な役目だと分かっていた。
「だいたいフォレスタだけでは、帝国に対抗できないよ。人口が違い過ぎる。せめて北の
そもそも、その二つの部族が帝国に降りてきて略奪を行うため、フォレスタが前衛として選ばれた経緯がある。
「フォレスタを含めた三つの部族から代表を選ばないといけないから、僕は王様は無理だと思うよ。奴ら脳筋だから、弱い僕が王様なんて納得しないよ」
エリオは訴えたが、ラルクは取りつく島もない。
「どうにかしろ。俺は、脳筋な男を国王に選ぶつもりはないからな」
「えぇぇ~」
友人はフォレスタに居着いてくれそうだが、それにはエリオの多大な努力が必要のようだ。
(※ラルク視点)
エリオが去った後、ラルクは部屋の灯りを消した。
真っ暗な室内で、唯一明るい窓辺に座り、月光を浴びながら物思いに
頭の中を巡るのは、これまでのことと、これからのこと。
幼い頃から、ラルクは空模様を予測し、動物の思考や感情を聞き取る異能があった。その異能は、天使の翼が生えてからより強力になり、天候を操り動物に命令するものに変化している。
今までの延長線上で使える能力については、特に使い方が分からないということは無い。しかし、国王を選んだり、魔物を倒したりすることは別の話だ。聖堂にいた数日では、翼の隠し方を教えてもらうので精一杯で、その他のことは学んでいなかった。
「もう少し聖堂に留まって学ぶべきだったか」
後悔しても後の祭りだ。
ジブリールは何と言っていたか。確か、新しい国は基盤を整える必要がある、だったか。
ラルクは目を閉じ、空の声に耳を澄ませる。途端に冷え冷えとした空気を感じた。これに比べれば、帝国の空は友好的で
勢いで帝国を出てきたものの、いざ独立して動き始めると、いったい何をすれば良いか分からないことに気付く。帝国でいた頃は、何もかもが用意されており、どうすれば良いか手順が明白だった。しかし、ここでは何か為そうとしても、どこから手を付けるかまるで分からない。
国王を選ぶ? どうやって?
単に指名すれば良いのか、それとも天使特有の魔法でも使うのか。前者だとしても、どれくらいの人数に周知すれば、国王と認めさせることが出来るのだろう。知り合いを集めて宣言するだけなら、子供の遊びと同じだ。権威付けのため何か儀礼が必要だと思うが、ラルクは儀礼に詳しい訳ではない。
見込みもなく飛び出てきた自分に失笑する。しかし、それでもエリオに協力するタイミングを後ろずらしには出来なかった。エリオは今困っているのだ。今ラルクが付いていてやらなければ、全て失ってしまう。
せめて今の自分が出来ることをしよう。
そう決めて、空と森の様子を探ると、異変に気付いた。
この街を囲む森の中に多数の人間が潜んでいる。遠くに人が掲げる
「!!」
ラルクは目を開けると、急いで上着と剣を掴み、部屋を飛び出した。
敵襲だ。おそらく帝国兵ではなく、周辺の森の部族。ちょうど先ほど話題に上った、北の
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