第16話 接近

 「マスター、起きてください。もう昼前です。」


この声はNAVIナビだな。テツさんじゃないんだな。


「わかったよ。おはようNAVI」


「はい。おはようございます。」


体を起こしてから気付いたけどやけに静かじゃない?扉の外から物音一つしないのだけど。


「皆さんおはよ......ございます?」


部屋を出ると静かな理由がはっきりわかった。誰もいないのである。電気さえもついておらず、殺風景な広間があるだけであった。


「NAVI、他の皆は?」


「皆様は先程、任務に向かわれました。皆様から伝言を預かっております。『夕飯までには帰れると思うけど昼飯は自分で対処してください』だそうです。」


「俺を置いて任務?てかその伝言ヒロからだろ。あいつは俺の保護者かよ!」



 八月も中頃になると暑さが半端ない。人殺せる暑さだ。そんな灼熱地獄の中私ヒロはビルの一室から狙撃銃を構えて待っていた。


〈ヒロ、そろそろ目標が狙撃ポイントに来るぞ〉


「わかってますよ」


通信の後すぐに目標が、治安局の装甲輸送車が私の視界の真正面に進入してきた。今回の任務は捕まった仲間の救助、と言ってもこの前のような総員をあげてのものではなく狙撃チームと三チームの合同だけだからそこまで規模は大きくない。けど、失敗出来ない任務でもある。


「私が先頭の護衛車両をやります」


〈俺は本命をやらせてもらうぜ〉


〈俺はその後ろのやつか〉


深呼吸をして、落ち着て狙いを定める。SSDのサポートで予測線が見えているので落ち着いて撃てばあたる。


「3....2....1...シュート!」


三つの銃声と共に道路を走っていた車に異常が発生する。他の護衛車両も停止し、中から武装した治安局員が出てくる。


〈ナイス、ヒロ!あとは俺らに任せろ!〉


私のはるか頭上から何本かワイヤーが伸びたと思うとそれにぶら下がった状態で次々と運びランナーズの人達が車両の元へ向かっていくのが見えた。



 暑すぎる。ヒロは室内だから直射日光はないけど俺らはバリバリ日光がダイレクトアタックを仕掛けてくるからほんとに人が死ねる。


「タキくん、すごい汗だよ。熱中症には気をつけてね」


「わかってるよハナ」


ダァン!


銃声が聞こえた。俺らの出番だ!


「ナイス、ヒロ!あとは俺らに任せろ!」


何回か練習はしてきたけどいざ本番で使うと少し緊張と言うか恐怖を感じるな。だか!躊躇はしていられない。


「俺ならできる!」


ビルから飛び降りて風を切る感覚がおそってくる。


「いっけー!」


左腕を思い切り振り抜くと、その手首に装着されたデバイスからワイヤーが発射される。発射されたワイヤーはそのままビルの突起に巻きついて固定される。俺はそのまま振り子のように弧を描くようにしてかなりのスピードで移動する。俺はこいつの扱いに慣れていないので直線的に動けないが、慣れてる人はそうでも無いようで地面スレスレをまっすぐ移動している。ひえ〜、怖すぎ。


〈やっぱテスターの人達は練度が違うね〉


「俺らと違って一年以上こいつを触ってるんだ。当たり前だ」


目標まで300mほどあったと思うのに十秒くらいでもう目と鼻の先まで来てしまった。地面スレスレで飛んでた人は治安局員をクッションにもう着地して戦闘を始めるようだ。俺らも早く着地しないと。でも俺にアレと同じ事をする技術も度胸もないので一度後ろにワイヤーを出してそこからゆっくり減速して安全に着地する。偶然着地地点に治安局員がいたのでついでに踏み潰しておいた。


「来たは良いけどほとんど片付いてるな」


「私達最後尾だったしね」


着地した時に潰した局員で最後だったようだ。それなら早く仲間を助けよう。


「こいつ電子錠じゃねぇ!」


「これはまた古いものを..」


輸送車の後ろのドアを開けようとしてもなんということでしょう電子錠ではなく鍵を使うアナログ方式ではないですか。誰かピッキングできる人はいないかな?いるわけないか。


「どいて、私がやる」


「ハナはそんな器用なこと出来ないだろ」


そんなこと言われてもお構いなしに扉の前に立ったと思ったらドアノブを掴んで思いっきり扉を外した。バギィ!という音と共に破片を撒き散らしながら扉は外れてしまった。


「えぇぇ.....」


あいつの怪力には驚きが隠せない。別に外見的にはそんなに筋肉モリモリマッチョマンの変態ではないけどやってる事がそこら辺のバトル漫画のキャラクターなんだよな。


〈あまりその場に長居するのは良くないかもしれないですよ、騒ぎを聞きつけて治安局やメディアが集まってきてます〉


どうやら治安局以外にも厄介な奴らが来てるようだ。写真とか撮られるのは俺達的には避けないといけない。


「おい!早く救助者を連れてこい。ワイヤーを使って昇るぞ」


ワイヤーを建物の上の方で固定して待つ。流石に二人を引き上げるパワーはないのでワイヤーを支えに駆け上がってくイメージであげる。


〈治安局が来ました。戦闘用意〉


治安局の車両が進入してきたので一旦引き上げをやめて構える。


〈狙撃チームで戦闘の3台を始末します〉


宣言通り先頭を走る車両三台が爆発四散していった。破片がいくつか飛んできて俺の顔スレスレを通っていく。



〈おい!もっと安全に始末しろよ!〉


「すみません、ちょっとマガジンを交換していたら遅くなってしまいました」


今回のマガジンは試製4発マガジンなのでこまめに交換していないとすぐに無くなってしまう。なんでそんなの使ってるの?ってそもそもライフルの弾が装甲車両なんて撃ち抜けるわけないでしょ。その為今使ってる弾薬は少し特殊なものでこの狙撃銃に合わせようと思ったらマガジンに4発しか入りませんでした。


「マスター、建物に侵入者です。数は七、全員治安局員のようです。」


「ここまでだな」


急いで片付けて移動の準備をする


「俺もこいつを使うか」


手首についてる新装備を固定し直して窓から飛び出す。即座にワイヤーを射出して振り子のように半円を描きながらテツ達の上空を通過する。そのまま少し後方に着地してまた狙撃の機会をうかがう。


「そろそろメディアが到着しますよ」


「分かってるなら早く手伝え!」


狙撃で援護をすると引き上げが再開されてどんどん人が減っていく。かなり順調で残り三人まできた。引き上げ要員も私達のチームとほか3人居る。


「早く引き上げてください。3人同時でいいでしょう。ここは私達に任せてください」


「お前らがしくじるとは思わなねぇけど気をつけろよ」


〈狙撃援護は任せろよ!〉


〈弾薬はまだ....すこし....まぁ大丈夫だと思うよ!〉


心強い?仲間がいるから俺が強いとか関係なく負ける気はしないがね。それでも油断しないのはそうだ。引き上げが30秒程で完了する。それまで時間を稼ごう。


「それでは狙撃の方は任せましたよ」


ライフルを置いて持ってきた片方の取り回しのきくものに武器を変える。


「AK-47改、久しぶりですね」


「一昨日くらいに使ってただろ...」


「それは射撃訓練場の話です。実践とは関係ありません」


既製品の時点で暴れまくるやつだが改造してさらに暴れ具合が増したがその代わり通常よりも高威力の弾丸が使用可能の魔改造品、命中精度はワーストクラスだがそこは数打ちゃ当たる理論とSSDでどうにかする。


「クロ、サポートを」


「了解。弾道予測線は使用不可ですが、レティクルを視界に表示します。」


SSDも予測できないこのクソ精度は笑える。でもストレス解消にはいいんだよなコレ。肩にガツンとくる反動、手の感覚が消え去るほどの衝撃、一撃で相手を紅く染めるのが見える視界、この瞬間が私を生かしている。テツやハナのように身体能力に秀でていない私が、アイツらに追いつこうと必死に磨いた技術、俺以外には扱えない武器、今までの努力と事実が私に勇気を与えてるれる。テツやハナ、ヒナと肩を並べてたっていると、そう言える勇気が!


〈よし!終わったぞ!お前らも早く上がってこい!治安局の奴らは俺らが抑える〉


屋上からも支援射撃があるので私達は急いで壁際へ向かって、ワイヤーを射出して上昇する準備を整える。これ結構バランス感覚必要なやつみたいだ。


「ヒロ!早く昇ってこいよ!」


「うるさいですね。あなた達のようにはいかないのですよ!」


運動神経いいヤツらはもう昇りきったようだ。だが私も感覚を掴んできました。これからもっと速く——


「ヒロくん!!」

「避けろ!!」


二人が焦ったように叫ぶと私のワイヤーに何かがぶつかってそのまま切れた。支えを失った私はちょうど十二階程度の高さから落下していく。ぐんぐんと地面が近づいてきて『アカンこれ死ぬやつぅ!』と思ったその時、私の足に何かが巻き付き、私は地面から1m程で止まったがワイヤーが足にくい込んできて超痛い、足に何か液体が私の皮膚を流れていくのを感じる。


〈ヒロ!生きてるか?!〉


「なんとか生きてます。それよりこのワイヤーはテツのですか?なら早く解いてください。足が...イデッ!」


〈あっ悪い〉


「いえ、解いてと言ったのは私です。ですが一言欲しかったですね」


さてと、昇る手段が減ってしまった。大変だけど、地道に昇るか


〈みんな、ラスボスが来たよ〉



 ある程度の立場になると現場に行くのに色々と時間がかかってしまうな、今度警視庁の奴らにもっと動きやすくしろって打診しようかな?...その為にもここでちょっとは成果をあげないとね。これ以上あの子に無理はさせれないし...


〈局長!現在テロリスト集団と交戦中、拘束した者達が次々と奪われています〉


「了解、焦らなくていいよ。相手も武装しているだろう、捕獲はまた出来るがそれは命あっての事だ。決して死なないように」


〈了解!〉


どう頑張ってもこちらが劣勢に立たせられるのは何故だ?向こうの使っている装備か?まぁ、行けば分かるか


 到着すると現場は結構悲惨で治安局員が高所から撃ち下ろされていた。例に漏れず私も動けないんだけどね。車の陰から全く動けません。


「《ヒイラギ》ここら一帯の地形をスキャンして」


「了解しました。地形を分析....表示します。」


まだ地上に三人か、壁際にいるな...なっ?壁を駆け上がっているだと?!そんな芸当が出来るのかアイツらは。


「あれは?ワイヤーか?」


車の下から覗き込むと何かを支えにして昇っているらしい。逃がしてなるものか!即座にアサルトライフルを構える


「ヒイラギ、結構無理な体勢で射撃するからサポートを頼むよ」


「了解しました。弾道予測線表示。」


照準を合わせて、予測線も他のやつより遅いアイツにちゃんと伸びてる。そのまま引き金を引く。乾いた音ともに衝撃が手に伝わる。その時、ちゃんと固定出来てなかったからか少し手元が狂ってしまった。でもワイヤーには当たったようで落ちてきた。注意がソイツに向いたのでそのまま上にいる鬱陶しい奴らにいくつか撃っておく


「よし、静かになったな。総員そのまま前進」

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新東京逃走記 夢の続き @dream_neru

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