第2話 新東京市(裏)

6月14日 2:54

新東京市 第1区 とある建物の屋上


〈こちら『カズ』合流地点に大量に治安局の連中が待ち構えてる。しかもアイツは局長だろ。合流は無理そうだ〉


〈情報が漏れている可能性があるな。今は見送る方が良さそうだ総員撤退〉


[オイル漏れのためピザの配達は21時から]


というメッセージが送られてきた

時間をずらして次は21時からまた行動を起こすということらしい


「マジかよ、」


SSDから聞こえてくる作戦中止命令を聞いて思わずそんな言葉を呟いてしまった

わざわざ早起きして参加していたのに、しかも次は21時からだと聞いてもっと憂鬱な気分になる


〈コラッ、『イヨ』聞いたか?撤収だ〉


「はーい」


………………


「で?長い説明を挟んだけど早くメッセージの内容教えろよ」


「おまえは何を言っているんだ?」


「あまり寝れてないんだ気にすんなって」


「えっと、、

ピザの配達が21時からってとかいう訳の分からないメッセージだったよ」


内容を聞いて心臓を握られたような感覚に陥った

そして真っ白になった頭で必死に言葉を紡ぐ


「そう、か、、、、まっ、、、まぁオイル漏れなんて運がなかったな、、、あっ自分トイレ行ってくるわ」


そうして駆け足で廊下を通り抜けて

トイレの個室で頭を抱えていた


「ヤバイって何で柊があのメッセージを持ってるんだよ」


そうして10分くらい考えて結論を出した


「きっと偶然だよ。偶然。柊がピザの出前を頼んだけど来れなくなったからメッセージが来て、それがちょうど私達のやつと奇跡的に同じタイミングで来ただけだよ」


そう、与一は考えるのをやめた


……………


柊が遊びに誘ってくれたが疲れが溜まっていたので断った


「疲れた、、、寝よ」


…………………


20:58 新東京市 第1区 とある建物の屋上


〈こちら『ジン』ターゲット付近に治安局は見当たらない〉


〈こちらカズ合流地点にもいない〉


〈了解、各員、作戦行動に移れ〉


「了解」〈了解〉


と同時に屋上から飛び出し、隣の建物の窓に激突する

バリンという音と共に三人が建物の中に入る

そして、


「警告、侵入者、侵入者、警備レベルを5に移行します」


「イヨ、『テツ』脱出経路の確保は任せろ」


「頼んだよ、ジン」


そうして奥へ進んで行って

沢山の機材の置かれた部屋に着いた


「イヨ、ここだな」


「そうだね。早く目当ての物を貰おう」


そう言ってテツはデータチップを機材に接続してデータを抜き取る


「よし、早くここから出よう」


〈ジン、脱出経路は予定通り確保出来たか?〉


〈任せろ、今SSDに情報を送った〉


〈了解〉


「『ナギサ』ナビゲーション頼んだよ」


「了解しました。」


視界に進行方向がわかるように目印が見えるようになった

指示にそって走り非常階段を登って屋上へ出る

外は既に雨が降り始めていた


「お前ら無事だったか。でも気をつけろ治安局が動き出してる。しかもなにか妙な動きをしている」


「とりあえず合流地点まで走るぞ」


ナギサの指示通りに合流地点へ向かう

目印の時計台が見えてきた辺りでジンが通信を入れた


〈カズ二人と合流した。そっちの方は異常ないか?〉


……


〈おいゴラァ!カズ聞いているなら返事しろ〉


〈………〉


「応答がないですね」


「電波妨害か?でも今回使ってる回線はいつもと違って影響を受けないはずじゃ」


「向こうで何かあったんじゃないの?」


私達は一度止まって物陰に隠れて姿勢を低くしてカズからの返事を待つ


「ジンさんどうします?」


テツが不安そうな感じで言う


「もう一度通信を入れて返事がなかったらカズとの合流は諦める。それとイヨ、このチップをお前に預ける」


ジンさんが私にデータチップを差し出す

「分かりました」と言って受け取る


〈カズ、もうすぐ合流地点に到着する。合流可能なら返事をしてくれ〉


………


「カズとの合流は無理だな。三人で動くぞ」


そう言ってジンが立ち上がった瞬間


〈………ろ、〉


声が小さすぎて聞こえなかったから聞き返そうとした時、はっきり分かるくらいの大きな声が、叫びが聞こえた


〈〈逃げろー!お前らー!〉〉


聞こえるのと同時に物陰の向こうから何かが投げ入れられた

私は一瞬何が投げ入れられたのか理解出来なかった

けど、ジンさんが俺らを倒れ込む様に押し倒した

ドーン!という轟音と共に衝撃が伝わってきたのと同時に私は意識を手放した


気絶していたのはほんの数秒だけで

すぐに目が覚めた、テツさんもすぐに体を起こして周りの様子を確認している

私は覆い被さっているをどかし起き上がって

やっと私は何が起きたのか理解した

そして怖くなった

殺されると思った

身体中の震えが止まらない

今回の連中は本気だ

私達の生死は問わない

治安局がここまで本気でくるって私達は一体何をあそこから盗ったんだ?

頭の中で色んな考えが巡る

視界に映るは赤黒い物体とソレに必死に声をかけるテツさんの姿

とりあえずジンさんにこの後の動きをどうするか聞こう


「テツ、、さん、ジン、、さんは、、どこに、いるんですか?」


テツさんが驚いた様子でこっちを見た

彼の目に私はどう見えたのだろう

悔しそうな表情を浮かべて私から目を逸らした


「ジンは外の様子を見に行ってる。静かにして待ってろって」


「わかったよ。そして、その赤いのは何?」


「あまり見るな。いいか、俺が許可するまで顔を出すなよ」


そう言ってテツさんは両手を上に挙げて物陰から出ていった


「降伏する!だからもうこれ以上攻撃しn」


テツさんが言い終わる前にテツさんの頭から赤い液体が吹き出して後ろに倒れる


「テツ、、さん、、?やっ、、やだな〜テツさんったらこんな時にドッキリなんて、ジンさん大怪我してるんだよ。そんな事してる場合じゃないですよ。だから早く起きて下さいって。」


いくら声をかけてもテツさんから返事はこない

ただ生暖かさの残る赤を流し続けている

分かってる

そこに在る赤黒い者がジンさんで

今テツさんは頭を撃ち抜かれたんだって

分かっているはずなのに

どこかその事実を否定したい自分がいる

しかし、現実はなんとも非情である

コレは何かのドッキリや冗談でも無ければ目が覚めれば何も無かったって事にもならない


そして、爆発のショックで失っていた感覚が戻ってくると更に私を恐怖の渦へと引きずり込む

鼻には血なまぐさい臭い

口にはさびた鉄のような味

手にはドロりとした液体の感触

耳には鳴り響くサイレンの音

感覚の全てが私を動けなくする


私はもう泣く事しか出来なかった

何も出来ない自分が不甲斐なくて

仲間が目の前で死んでいくのが辛くて

次は自分の番だと思うと怖くて


「イ、、ヨ、逃げ、る、、んだ」


「ジンさん!」


最初から生きていたのかそれとも息を吹き返したのか分からないが確かにジンさんが喋った

急いでジンさんに顔を近づけると微かだが何か言っている


「いいか、まず後ろにある扉から建物内に入るんだ。そして二階分下へ降りて、真っ直ぐ走れ。そうしたら奴らに気付かれずにここから離れられる。お前だけでも逃げて他のみんなにこの事を伝えるんだ」


「でもっ」


「早く行け!」


強く言われ反射的に走り出した

気付かれないように陰を進んで扉まで辿り着いた

開けようとしたが、鍵がかかっている

蹴り破ろうとした時、扉の向こうから足音が聞こえてきた

私はとっさに近くに身を潜めた

少しするとガゴン!と音を立てて何人か武装した人達が出てきた

その人達はジンさん達がいる方向へ周囲を確認しながら移動して行った

私は後を追いたくなる気持ちを抑えて建物の中に入った


「確か二階分降りるんだっけ」


階段を駆け下りながらこの後の経路を復唱していると


「マスター。ナビゲーションなら私に任せて下さい。」


とナギサがこの後のルートを表示してくれた

確かに真っ直ぐ走るだけのルートの様だ


「ナギサ、今治安局の警戒範囲はどれくらいだ?」


「はい、ここを中心に半径約1500mの範囲で治安局が警戒網を敷いています。」


「OKだ。ならば逃げ切れそう」


そう言ってフロアに繋がる扉を開けようとした時、銃声のようなものが聞こえた

そしてその音が何を意味するのかも同時に分かってしまう


「ジンさん、テツさん、必ず逃げ切ってみせます」


扉を思い切り開けて駆け出す

窓から飛び出し、建物と建物の中を駆ける

途中綱渡りや棒を伝って複雑な道を行く


………


「ここは、そうか第12区まで来たのか」


時刻は21:40

作戦開始から30分以上が経過していた


「マスター。治安局の通信を聴いていたのですが、マスターが逃げた事がどうやらバレたようです。」


それでもあそこからはかなり離れている所まで来たはずだ

そう思って一息つこうとした時


「お疲れ様でした」


下から聞き覚えのある声が聞こえてきた

恐る恐る下を覗くと


(真人!?なんでこんな所に!)


そこには真人が立っていた


しばらく覗いているとサイレンの音が聞こえてきてサッと身を隠す


「ここまで来てるのかよ」


とにかく早く振り切らないといけない

けど迂闊に動くと奴らに見つかる

なかなか動けずにいるとナギサから提案があると言って話し始めた


「マスター。治安局の妨害電波に一箇所だけ穴か有ります。そこからなら通常通信が可能です。」


「よくやったナギサ。そこからなら応援を呼べる」


ナギサの言う通りに目標地点まで走る


………


「ここか、」


見晴らしの良い建物の上に立って通信を繋ぐ


〈社長、大変です。奴ら本気です。とりあえず応援を送ってください〉


〈あぁ、こっちでも異変は察知している。

先程お前の位置を特定出来た。既に近くの者が応援に向かっている。他の二人にもそう伝えてくれ〉


〈その、、、私だけです〉


〈、、、、そうか、よく逃げたな〉


〈はい〉


どっと疲れが襲いかかってきた

壁にもたれかかろうと手をついた時

壁に小さな穴が空いた


「えっ?」


状況を把握するよりも前に周りからゾロゾロと沢山の人が顔を出した


「治安局!?」


「貴様はもう包囲されている。投降しろ!」


「そう言って素直に従ったやつが今までいたのかよ!」


一斉に私に向かって銃口が向けられる

少しずつ後退するがもう後ろには奈落しかない


(覚悟を決めろ!石橋与一!)


「うぉぉおおおおお!」


叫びながら真っ直ぐ走り出した

無謀だって、無理だって分かっていはいるが疲弊した頭で考えられる一手はコレしか無かった

世界がスローになる

全てが鮮明に視える

奴らの筋肉の緊張や息遣いの荒さ全てが手に取るように解る


(人間は死ぬ直前に世界がゆっくりになるってこういう事か)


〔パァン!!!!〕


………………

……………


〈社長、イヨの死亡を確認、データも奴らに回収されたと思います〉


「わかった。お前も早くそこから離脱するんだ」


うーんと唸りながら椅子に座る


「治安局の連中がここまで本気になるものとは一体?」

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