第4話
「へーお酒ってこんなにも種類があったのか
普段、飲んでるのってハイボールとかチューハイくらいだったからな。」
しゅんは、手元の本に目を向けながらバーテンダーについて調べていた。
ジン、ウォッカ、テキーラ、それをベースにお酒が作られる
スクリュードライバー、モスコミュール、マティーニ
「これだけのお酒を覚えるのも大変な仕事なんだな。」
他にも細かいテクニックが記載さてれている。
氷をステアして…
ビルドは、直接グラスにお酒を注いで…
シェイカーを使って上に下に振ります。
その時に注意したい事は…
あの狭い空間でほんのひと時の分からない中にこれだけの技術があったのか
改めてバーテンダーという職業の奥深さに魅了されていた。
一つ一つが邪魔にならないように無駄なく、手早く、丁寧に丁寧に
もう一度、あの店に行ってみたい
でも、1人で行くのには気がひけるな…
雄太に連絡してみるか。
ポッケにしまっていたスマホを取り出し、連絡先から雄太の名前を探した。
“雄太、今日の夜空いてる?”
メッセージを送ってから暫くすると、
“悪い、今日バイト入ってるわ!”
“そうか、しょうがないな”
スマホを閉じようとすると、再び雄太からのメッセージが来た。
“もしかして、女の子関係の用事?それだったらバイトを休みます!”
というメッセージ共に謎のスタンプが送られてきた。
“大丈夫!全然違うから。しっかり、働いてください”
メッセージが送ると
それと一緒に『頑張れと!』スタンプを送ってスマホを閉じた。
そいえば、あの店って何時からやるんだっけ?
Googleで開店時間を調べると、まだまだ時間あるな。
本をパラパラと捲ると、気になったお酒にだけチェックを入れた。
まだ、日も長いし散歩でも行くか。
本を閉じて、スマホと携帯をポッケにしまうと玄関へ向かい靴に履き替えた。
扉を開くと、少しだけ生温いような風が顔にあたる。
ただ、まだ季節の移り目もあって心地の良い気分の風だった。
築35年は、あろうか
古びたアパート階段を
カンカンと降りると、近所に住む大家さんが犬を連れて散歩してみるが目に入った。
リードで引かれている犬は、なんだかもの嬉しそうな表情でこちらを見つめていた。
あの犬ってチワワかな?ダックスだっけ?
どっちだったけなと考えてたら、目が合ってしまった。
「こんにちは。」
「…こんにちは。」
少しだけ気まずいような感じがした。
そのまま何も返事を返さないのも変なので挨拶をした。
「もうすっかり、春になったわね。
そしたら夏になって、また秋が来て、冬になってて歳がきたら季節なんてあっという間に過ぎるわよ」
「そうですね」
なんて答え言いか分からず、とりあえず取り繕ってみた。
「そうですね!って失礼しちゃうわ。なんか、私がおばさんみたいじゃない」
「あっすみません。」
「って冗談よ!まぁ、若い内に早くやりたい事やっておきなさいよ」
「ありがとうございます。やりたい事ですね。」
大家さんは、それだけ言うと満足した様子でそのまま散歩の続きを始めた。
この街に来てから2年くらいが経った。
2年という月日の中で色んな人と知り合いになる事が出来た。
この街を歩いてもまだまだ知らない風景が沢山ある。
そんな新たな場所を発見する事がここに住むようになってからの楽しみになっていた。
大学に入ってから一人暮らしを始めるようになって、
その頃からか慣れないながらも家事や自炊を覚えていった。
近くには、よく行くスーパーがある。
その先には、銭湯がありアパートの風呂が故障した時によくお世話になっている場所だ。
最近で言えば、昨日の事だが。
そのまま歩いてる行くと桜並木が綺麗に並ぶ、河川敷がある。
桜の季節は、過ぎて枝の先には緑が覆い始めていた。
そこには、川が流れる横にグランドも併設されている。
日曜日になれば、近所に住む野球少年達がユニフォームを泥だらけにしながらボールを追いかけている。
いつも散歩コースをちょっと抜けた場所まだ歩いた。
そのまま歩いていると、ギターの音と綺麗な歌声が聞こえてきた。
吸い寄せられるようにそちらに向かって行くと、見覚えのある姿があった。
どこか悲しいような切ないけども希望を捨ててないようなその歌声が響いていた。
曲が終わるタイミングで声を掛けた。
「いつもここで歌ってるの?」
「あっ!びっくりした。たまにだけだよ…家がこの近くだから。」
マリは、ギターを傍らに置くとふぅ〜と息を吐いた。
「どうしたの?」
「ここにくると、気持ちが落ち着くから」
「そいえば、この前以来だったよね?」
「そうだね。」
「いきなり声掛けたけど、よく覚えてたね。」
「まぁ、すごく印象的だったから!」
「印象的?」
「だって他のみんなは、女の子にアピール沢山して盛り上げてたのに1人だけ大人くしていたから。つまらないのかなって思って」
しゅんは、あの時の事を振り返ると少しだけ恥ずかしくなった。
「実は、ああいう場所が苦手なんだよね。対面とかならまだ大丈夫なんだけど…
人と話すとかがあまり得意じゃないから」
「人見知り?全然そんな風に見えなかったけど。」
「まぁ、昔に色々あったから」
「色々?」
「まぁ、それはいいから。それよりも歌上手いね。俺、初めてこういう路上ライブみたいなのを見たけど感動したよ」
心の底からいい歌だなと感じた。
「そんなに褒めなくてもいいよ。私よりもすごい人なんていっぱいいるから」
謙遜してるつもりでもない。
実際にテレビで見るような有名歌手になれるのは、ほんの一部でしかないから
「でも、これだけの歌声が全国の人に届いたらすごいよ!」
「それが、本当に出来たらね。」
少し余計な事を言ってしまったのか僅かな沈黙が出来た。
「それよりもこの辺りによくきたりするの?」
マリが喋り始める。
「住んでいるアパートがこの近くだから。」
この街に住むようになってからこの河川敷まで来るのは4回目くらいかな
「せっかくだから何か歌ってあげようか?リクエストとかある?」
「そうだな…」
自分が覚えている範囲で難しくなさそうな…
と悩んでいると
「何でも大丈夫だよ!ほら、最近聞いた曲とかは?」
再び、思案していると
「オズの魔法使いとか?」
「オズの魔法使い?また変わったリクエストだね!いいよ。オズの魔法使い好きなの?」
「たまたま、映画で観て良かったから覚えてて」
「いいね」
ギターのチューニングを合わせ、
ふぅーと息を整えると静かにメロディを奏で始めた。
その声は、どこか包みこむようなおおらかでどこかに運んでくれるような美しさがあった
曲が終わると
「この曲、実は好きな曲で何度も練習してたの!偶然だね!」
「そんな偶然があるんだ。」
2人で笑い合った。
日が沈み始めると
「そろそろ帰らなくちゃ」
「送ってこうか?」
「近くだから、大丈夫…って思ったけど、歌も歌ってあげたから送ってもらおうかな」
荷物をしまい、自転車のカゴに荷物入れると2人で河川敷の横を歩き始めた。
歩き始めて、5分もしない内にで彼女家に着いた。
本当に近くだ。
「また、会える?」マリが言う
「いつでも!」と答える
そのまま駅に向かって歩きBARへと向かった。
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