第2話 失失

ある曇り空の朝、陽介はいつものように教室の後方の席に座った。彼の机は壁際にあり、周囲からは少し隔離されているかのようだった。授業が始まると、教師の声は遠く響き、彼の心はすぐに彼の内側の世界へと引き込まれた。


その日は国語の授業で、一人一人が前に出て自分の将来の夢について話すという発表があった。順番が近づくにつれて、陽介の心拍数は高まり、彼の手は冷たく湿ってきた。他の生徒たちが自信満々に話す中、彼は自分が話すべき内容を心の中で繰り返し練習していた。


「僕は、いつか大きな美術展で自分の絵を展示したいんです。」彼の心の中では、その言葉がはっきりと響いていた。しかし、いざ名前を呼ばれて前に出ると、彼の言葉は途端に消え失せた。彼の口から出たのは、「僕は、えっと…、将来は…」という断片だけだった。


周囲の生徒の顔は、興味がなさそうにまたは少し嘲笑うように陽介を見ていた。そして、教師が彼を助けることもなく、ただ「しっかりしろ」とため息をつくだけだった。陽介はすぐに席に戻り、顔を覆い隠した。彼の夢を誰かに話す勇気がなかったのだ。その日の放課後、彼は自分が何も出来ないという思いにさらに囚われてしまった。


翌日、美術の時間が彼に少しの救いをもたらした。教室の隅で、陽介は自分のスケッチブックを開き、いつものように自由に絵を描き始めた。彼の真剣な眼差しは、彼が紙の上で生み出す世界に完全に没頭していた。彼の創造力が鮮やかな色と形で表現されると、クラスメートの一部が彼の作業に興味を持ち始めた。


「お前、絵、上手いんだな。」クラスの一人が彼の肩をたたきながら言った。驚きとともに、陽介はその言葉を受け止めた。誰かが彼の才能を認めてくれたのは、これが初めてだった。この小さな一言が、彼の自信を少しだけ回復させた。彼は、もしかすると自分も何かできるのかもしれないと感じ始めた。


この日の出来事が、陽介の心に新たな光をもたらした。彼は自分の感性を抑え込むのではなく、少しずつでも表現していく勇気を見つけ始めていた。それは彼が自分自身を理解し、他人との関係を築くための第一歩となることを、陽介はまだ知らない。

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