第1話 レッテル

陽介が学校に足を踏み入れると、朝の静けさが一瞬で学び舎のざわめきに変わった。彼の耳に最初に届くのはいつも同じ言葉、「お化け、お化け」という囁きだった。それは彼のクラスメイトからのもので、それを聞く度に彼の心は少しずつ沈んでいった。彼の違いが、彼を孤独にしている。


陽介は特に物静かで、周りよりも少し小さな体をしていた。彼は、自分が他の子供たちと異なることを深く理解していた。その違いが彼を「お化け」というレッテルに固定していた。運動が得意な子、勉強ができる子、いつも周りを楽しませる子。それぞれには役割があったが、陽介の役割はただ一つ、「お化け」だった。


ある日、体育の授業での出来事がすべてを悪化させた。陽介はボールをうまく扱えず、重要な試合でチームを敗北に導いてしまった。その日以降、彼の周りの空気は一層冷たくなった。彼の存在は、クラスでの失笑の種となり、先生さえも彼に対する期待を捨てたように見えた。


「陽介は何もできない。」先生のその言葉がクラス中に響き渡った時、陽介は何も言えなかった。ただ下を向き、自分の存在をさらに疑うだけだった。彼は自分がまともな人間でないという思いに苛まれ、ますます人前で自分を出すことを恐れるようになった。


しかし、彼には誰にも知られていない秘密があった。陽介は絵を描くことに長けており、彼のスケッチブックは彼の夢や願望を色鮮やかに映し出していた。彼は教室の隅でこっそりとそのスケッチブックを取り出し、誰にも見せることのない自分だけの世界を作り上げていた。それが彼の唯一の逃避路であり、心の支えだった。


その日も、陽介は放課後、誰もいなくなった教室で一人、彼の想像力が織り成す世界に没頭していた。彼のペンが紙の上で滑るように動き、彼の内なる世界が静かに彼自身を慰め、励ましていた。この小さな秘密が、やがて彼の人生を変えるきっかけとなることを、その時の陽介はまだ知らなかった。

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