前世ルーレットの罠
鳥尾巻
星のカケラ
僕はいつも君を探していた。君を全部覚えている。
僕達の体は星のカケラを集めて出来たものだ。宇宙のどこかで生まれ、また宇宙に還り、何億年も何千年も繰り返し繰り返し何かに生まれ変わって、今、君は僕の目の前にいる。
君の小さなカケラが最初に現れた時、眩しいくらいに輝いて惹き合って、そして思ったんだ。「ああ、これは僕の為のカケラだ」って。
それからというもの、君は僕の為に生きていた。僕を生かす為なら何でもしてしまうんだ。2人でこの星に墜ちた時もそうだった。この青い星の大気圏で燃えながら、君は「また会える」と笑った。
僕はこの星に散らばる無数のカケラの中から君を見つけ出す。小さな緑の虫、銀色の鱗の魚、赤い羽根の綺麗な小鳥、路地裏の薄汚れた猫。愛らしい赤ん坊、美しい女、逞しい男。ルーレットみたいに何が出るか分からない。でも、どんな姿をしていたって、僕は君のことがすぐに分った。
君の言葉は嘘ではなかったけれど、会えるのはほんの一瞬だ。僕はいつも君を失い続ける。
僕は幽閉された高い塔の上から、助けに来た君が雪の石畳の上に赤を撒き散らして横たわるのを見下ろす。遠い昔のどこかの戦争、僕を庇い敵の矢に斃れる兵士。杭に縛られ、炎と煙に巻かれる魔女。荒れる海原、波に攫われる赤ん坊。切り立った断崖、僕を救い、代わりに落ちていく男。裸に剥かれ手足を縛られて橋の上から首を落とされる罪人。
これは何かの罰なのか。幾千、幾億もの一瞬の邂逅を与えられるだけの。
とうとう僕は罠を仕掛けることにした。君はそんなことをしてはいけないって言うかもしれない。だけど漠然と宿命を受け入れるだけじゃ、永遠に君を失い続けることになる。
この世界から抜け出して、他の場所に行こう。少しくらいカケラがなくなっても宇宙は気にしない。惹き合う2つのカケラが崩れ落ちる星の爆発のように力を放ち、僕らは別の次元に飛んでいける。
もうすぐトラックがやってくるよ。別にトラックじゃなくてもいい。僕はその前に身を投げ出して、君を巻き込むことにするよ。君は僕を覚えていないかもしれないけど、初めて会う変な男だって庇って死んでしまうに違いないからさ。
前世ルーレットの罠 鳥尾巻 @toriokan
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