第二夜 三日月さまとねこ

ねこである。吾輩に名前はなく、もらえるはずだった名前への焦がれを胸に猫として生きるねこである。


やさしいきみも死んでしまった。どうすれば薄汚れた猫を拾う優しい人間が死なないか、ねこは考えた。


考えているうちにウトウトとしてきた。眠くないのに世界が白くなる。とうとう死ぬのだなと察して、やっとねこを拾う人間が二日目の夜に死ぬ呪いが終わるのだろうと思い安堵した。


一瞬かくんと意識が飛んだ。すると目の前にねこが十ぴき集まったくらいの大きさの黄色い三日月が現れた。厚さはねこ三びき分だ。


三日月の内側の丸みの中央は窪んでいてねこはそこで眠りたくなった。なんだかとっても眠かったのだ。

乗って窪みにくるりと半円を描いて寝る姿勢をとると、まるでお腹いっぱいにご飯を食べて飼い主の膝で寝ている時の感覚がしてきた。


「泥と目やにで汚れてガリガリの猫を助けてくれた優しい人間たち。ねこは誰のことも救えず、みんな二日目の夜に死ぬ奇病を発した。


ねこに呪いがかかっているならどうか、どうかあの優しい人間たちを今から救えないだろうか。

人間は死んだ後は永く眠るらしい。死んだ人間が生まれ変わる時までとは言わない。ねこのために使ってくれた二日間を一人ずつに返したい。


三日月さま。おねがい。ねこを助けようとした十人の優しい人間の魂の元へ、ねこを連れて行ってください。

お礼にねこが欲しかったなまえを差し上げます。三日月さま。おねがいします。」


ねこを乗せた三日月はぽわんと一度大きく光り、ゆっくりゆらゆらと揺れだした。

辺りは草原でも川原でもなく夜の空になっていた。揺れた三日月はまるで水面に漂うように夜の空と混じり底が見えなくなり、進み出した。


ねこはスヤスヤと眠っていた。

夜の空の水面をゆっくりと進んでいくと夜空の中に一つの扉があった。

ねこを十番目に部屋に招いてくれた、最も近しい時間を共に過ごした優しい人間が住んでいた家の玄関扉がそこにあった。

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猫は窮鼠の夢を看る まどろみカーニバル @utakatanotuki

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