第13話

 それはドルフにとってもだが、一番エアルには晴天の霹靂だった。

 気分まで浸食してきそうなどんよりとした曇り空で、昼間だというのにこの日は薄暗かった。


 ドルフが研究室で仕事をしていると「ドンッ!」と音がし、同時に建物が揺れた。次にあちこちで警報が作動した。


「シンニュウシャデス。シンニュウシャデス。ケイカイレベル7。ケイカイレベル7。キケンデス。キケンデス。シジニシタガッテクダサイ」


 真っ赤なエアスクリーンが立ちあがり、LEVEL7と表示されている。


「LEVEL7って、最高危険レベルじゃないか……エアル!」


 すぐにエアルで電話をかける。


「大丈夫か?」

「はい。ドルフさんは?」

「大丈夫だ。一体何が」


 部屋の窓から外を除くと、武装した軍隊が動いていた。


「は? 軍隊?」

「あの、ドルフさん」

「いいかエアル? リビングの下にシェルターがある。そこに入るんだ。絶対に俺が行くまで外に出るな」

「あの、そうじゃなくて」

「今から行く!」


 今までにないほどにドルフは焦っていた。一体なんなんだ?! まさかシールドの成功を嗅ぎつけたどこかの国が来たのか? クソッ! エレベーターより階段で行くほうは早いと、自分では考えられない足の動きでドルフは一階まで下りた。


「火事、か?」


 距離にして五〇メートル先の木が燃えていた。


「ドルフさん!」

「エアル! なんでここにいるんだ?!」

「す、すません。でも、リリーの気配なんです」

「え?」


 リリー、リリーって誰だ? 聞いた記憶が……ハッとしてエアルを見た。


「リリーって、エアルの世界で暗黒落ちした魔女のリリーか?」

「はい。あそこで暴れているのは、リリーです」

「いや、でも、死んだんじゃないのか?」

「死んでなかったんだと思います。私がこの世界に来たのは、精霊たちや仲間たちの加護があって助けられたんだと思うんです。リリーはもしかしたら私を追ってきたのかもしれません。ごめんなさい!」


 深々と頭を下げて謝るエアルにを、ドルフは抱き寄せた。


「エアルは何も悪くない。悪いのはリリーだろ」

「――でも」


 大魔女リリーは元々は純白の魔女だった……ドルフはエアルを正面から見据えた。


「なあ、エアル。リリーは暗黒面に落ちたが、魔力ってやつは純白の魔女と変わりがないほど凄いのか?」

「はい。純白の魔女と暗黒の魔女の力が互角だと言われていました」


 これは使える。ドルフはニヤリと笑った。


「あの、ドルフさん?」

「エアル。君はシェルターにいるんだ。俺がリリーを何とかする。いいな?」

「でも」

「頼む! 俺の頼みを聞いてくれないか?」


 エアルは戸惑った顔をしながら「分かりました。では私から夫ドルフさんに加護を。そして精霊たちからの祝福を」と告げた。一瞬周りが、光に包まれた気がした。


 ちょうど現場に向かおうとしていた軍隊の人間を呼び止めて、自分の名前を告げ、家族であるエアルを安全な場所に連れて行ってもらう事にした。


 一人になったドルフが現場に向かう途中、長い黒髪を逆立てて暴れる濃く黒い靄を身にまとった化け物が暴れまわっているのが見えた。一瞬見えた目は赤黒く、口元は裂けたように吊りあがっていた。


「あいつを出せ! ここにいるのは分かっている! エアルーーッ!」


 咆哮のように妻になる名前を出され、ドルフはあんなのに名前を呼ばれたら、エアルが穢れるじゃないかと、気分が悪くなる。


 慌ただしく動きまわる軍人に、指揮官の居場所を聞きながら、やっと接触が出来た。


「どうもドルフ教授。指揮官の陸軍曹長三宅と申します。なぜ、重要人物であるあなたが前線に来ているんですか? 正気ですか?」


 浅黒く精悍な顔つきの、ドルフと年齢がそう変わらなそうな三宅が表情を変えないながらも、明らかに邪魔だと思っているのが手に取るように伝わってきた。


「すまない。頼みがある。あそこで暴れている奴を生きたまま捕獲して欲しいんだ」

「申し訳ありませんが、上からは抹殺と指示がきています」

「そうか」


 ドルフは通信とエアスクリーンを同時に立ち上げた。


「お久しぶりです」

「久しいなドルフ教授。話しは聞いている。今度ぜひ、完成したシールドを見せてくれ」


 三宅がスクリーンに現れた人物を見て「藤堂防衛大臣!」と綺麗な敬礼をした。


「そのシールドの事でお願いがあります。シールがまだまだ未完成ですが、それを完成させる事ができます」

「ほう。話しを聞こう」


 これで大丈夫だろう。ドルフは続けた。


「今、研究施設内で暴れている化け物が、シールド完成の鍵を握っています。ここにいる三宅陸軍軍曹には抹殺命令が下されていますが、捕獲をしていただきたい」


 藤堂は少し悩んでいるように見えるが、多分ポーズだろう。エアスクリーンの中の小さめのスクリーンが立ち上がる。そこには紺のパンツスーツ姿で五〇前後の女性が映っている。


「大倉准尉。私だ」

「藤堂防衛大臣。それにドルフ大井教授。もしや研究施設の侵入者のことでしょうか?」

「話しが早くて助かる。ドルフ大井教授が、その侵入者を生け捕りにしてくれと言われてな。どうやらシールド完成の鍵だそうだ」

「承知いたしました。ドルフ教授。そこに指揮官は?」

「います」


 ドルフは、三宅と立ち位置を変わった。


「話しの通りだ。生け捕りに命令を変更する」

「はっ!」


 直ぐに三宅は持ち場に戻り指令を出し始めた。


「ありがとうございます。藤堂大臣」

「いや、構わん。それよりもシールドの完成、楽しみにしているよ」


 その言葉に大倉が敬礼をして通信は切れた。


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 一日置きに投稿予定です。

 すごく慣れないジャンルで、ファンタジー系を書いた事がないですが、

 よろしくお願いいたします。

 第6回ドラゴンノベルス小説コンテスト《中編》に応募しています。


 ☆や♡のご声援のほどよろしくお願いいたします。


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