第12話
シールド構築に関してエアルの存在を隠して報告書を仕上げていたが、どこから嗅ぎ付けたのか、ドルフ大井が囲っている人間が今回のシールド成功の鍵だ、と聞いた役人がいた。それがあの若い議員、田中だった。
拒むことが出来る訳もなく田中は今、ドルフの研究室のソファに座って優雅に出しだ紅茶を飲んでいる。
エアルには家から出るなと伝えたし、室井にも頼んだから大丈夫だろう。ただ俺のこの状況が一番の問題だ。
「ドルフ教授が完成させたシールドには、ある人間が関わっていると耳に入ってきたんですが」
「ある人間? 研究はチームを組んでしてるんですがね」
「その人物がキーマンらしいでという噂を、ね」
どうやら施設内の状況を、外に漏らして奴がいるようだ。議員に入るという事は、すでに外に漏洩していると考えていいだろう。
正直、俺としては漏洩したところでどうでもいい。ただシールドが完成すれば、この国に莫大な利益を与える事になるだけだ。損をするのもしないのもこの国次第になる。
「ほうーーそうですか。しかし田中議員にそんな噂が耳に入っているという事は、この研究施設内の情報が洩れている、という事でなりますね。上に報告しておきます。何せこれは、国家プロジェクトなんで、どんな些細な情報も外部に漏れているのは大問題なんで」
ほんの一瞬だけ田中の表情が消えたが、直ぐに笑みに変えた。ふーーん。若いのに中々のタヌキって所か。田中がどんな人物か分からない今、油断できない相手という事は分かった。
「そんな大げさですよ。施設内の研究内容に興味のある人間が、勝手に憶測を立てて話していたのが、広がっただけのようですね」
本人が持ってきた話しのくせに、自分自身で納めたな。バックに大物政治家が付いている訳でもなさそうだ。田中議員が言った言葉を報告されるのは、分が悪いんだろう。
ただ個人的に来たのか、それとも情報収集をして他国に売るために来たのか、まだドルフには確定的な事が掴めていない。
まあ、どちらにせよ俺の結婚という話しではないみたいだ。
ならばと、ドルフは情報を与えてやることにした。
「実は俺、結婚をするんですよね。いやーー伴侶を得て、もっと頑張らないとっておもっちゃいますね! 田中さん、結婚は?」
「私はこの国に捧げているんで、結婚は考えていませんね。私の命は政治家を目指すと決めた時から、この国のものだと決めてますので」
「若いのに、なかなかの愛国主義ですね」
「そんな事はありません。政治家として当然です」
田中を観察していたドルフは、その言葉に嘘がないと感じた。彼の目は青い炎で燃えて遠くを見据えようとし、顔はまるで自決を決めたような面差しだったからだ。しかし愛国心も強すぎれば猛毒になりかねないが敵、という訳ではなそうだ。
「それで、どんな女性なんですか? 是非、紹介して欲して頂きたい」
「すみません。妻は何せ、超絶に美人なんです。ほかの男に紹介なんてしたくないですね」
「え?」
「見た目が女神であり天使。もちろん中身も女神。紹介したくないな」
思わず本音、本当の事を熱弁しそうになったドルフは、田中の反応に我に返った。
「そんな感じなんで」
「——教授が奥様を心から愛し、大事にされている事は分かりました」
「それはどうも」
「ではそろそろ、お暇をさせていただきます」
この田中なら、とドルフは「ちょっと待ってください」と立ち上がった田中を止めた。そして机から名刺を一枚取り出した。
「何かあったら、この人を頼ればいい」
敬語がすっかり抜けて、ドルフが渡した名刺を見た田中が、受け取りながら大きく目を見開いて驚いている。
「この、先生は保守派の」
「俺からの紹介だと言えば、会えるだろう。まあ、田中さんが信用できないと思えばその人は、切り捨てられるかと思うけどな」
「——ありがとうございます。この人にはお近づきになりたかったんですが、私みたいな若造では中々会えるような人ではなかったので。でも、どうして?」
「——気が向いただけだ。さて、俺も奥さんの作った昼飯を食いたいし、何より会いたいんだ」
「——今日はありがとうございました。お邪魔しました。この御恩はいつか」
田中は深々と頭を下げて帰って行った。
「奥さんだって! 俺、奥さんと言っちゃったじゃないかーー! まだ正式に結婚してないのに!」
部屋で一人になったドルフはソファにダイブし、自分の言葉を思い出して一人で悶えていた。
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一日置きに投稿予定です。
すごく慣れないジャンルで、ファンタジー系を書いた事がないですが、
よろしくお願いいたします。
第6回ドラゴンノベルス小説コンテスト《中編》に応募しています。
☆や♡のご声援のほどよろしくお願いいたします。
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