8話 魔道具開発〜竜核砲銃ドラゴンバースト〜


冒険者ギルド依頼、〝新米冒険者の監督官〟。新米冒険者にスライムとの実戦経験は積まさせてはやれなかったものの、その上位個体であるメタルスライムとは実戦経験を積ませて上げる事が出来た。

そんな昨日は、私にとって実に有意義な一日だったと言えよう。

何せ、冒険者ギルドからは依頼達成の報酬を。そんな依頼の最中には、可愛い天使な妹の聖属性によって蒸発してしまった魔道具開発に必要な材料を。

金銭とメタルスライムのボディ、私に必要な物二つを同時に手に入れる事が出来たのだから。

その甲斐あって、ついに〝あれを〟実行に移す準備が完了した。

昨日が材料採取と金銭確保ならば、今日は勿論——魔道具開発篇の幕開けである。

場所は、魔道具開発所でもある私の自室。

開発コンセプトは、どんな〝防御魔法も結界もぶち抜く銃!〟だ。

名前は、既に決まっている。


——竜核砲銃ドラゴンバースト。


ドラゴンの代表的な攻撃方法で、広範囲を焼き尽くすブレスがある。安易に言えば、それだ。

人間で言えば心臓、ドラゴンで言えば竜核。

ドラゴンはその竜核から高密度の魔力を引き出し、胃袋とは別の場所、魔袋と呼ばれる場所で魔力を蓄積、元素変換し口から放出する。

それを参考に、ドラゴンの体=銃、竜核=銃弾、魔袋=マガジン、と見立てて見た。

厳密に言えば、弾と言うより魔力を変換した元素エネルギーであったり、マガジンと言うより魔力エネルギーをチャージする袋の様な構造だったりともっと細かい部分はあるのだが、これ以上の説明は面倒臭いので割愛する。

格好は、スナイパーライフルがモデル。

高密度の魔力を元素エネルギーに変換した……ここは元素砲とでも呼ぼうか。その元素砲に耐えられる様にメタルスライムを外郭の素材として、魔袋と元素砲の通り道となるバレットには魔力を元素砲に変換する魔法術式を刻み込む。

勿論、威力強化、速度強化、耐熱強化、硬度強化、圧縮、高密度化、その他オプション付き。

最後の工程である組み立てを行えば、いよいよ完成である。


「……よし、完成っと」

「——今回も、かなり物騒な物を作ったな、主人」


と、竜核砲銃ドラゴンバースト!の完成と共に扉の方から声を掛けてきたのは、私に仕える従者、執事レノンだ。

フルネームは、レノン・アシュラウド。

長ったらしく腰付近まで伸ばされた金髪は今は一本に纏められ、これまた長い前髪の間からは切れ長の黒瞳が覗いている。実に、執事服に映える容姿だ。

ハッキリ言って、超がつく程のイケメン。この世界には、美男美女しか居ないのだろうか……。


「やぁ、レノン。どうしたの? サボり?」

「サボっているつもりはなかったが……。うむ。そうだな。主人の魔道具作りをずっと見学していたのは言い逃れの出来ない事実。そういう意味では、サボりと、そう言えなくはないだろう」

「別に、そこまで考えなくていいよ……」


軽い挨拶文句のつもりだったのだが、かなり無駄な思考力を使って真面目に答えてくれるレノン。


「で、どうしたの? 何か気になった所でもあった?」

「まぁ……。ただ、威力の調整を行う方法が使う者の腕次第というのはな……。その魔道具、竜核砲銃と主は呟いていたが、かなり扱いが難しい」

「んー、そうかな……」

「そう思えるのは、主だからだ。主は息でもするかの様に扱えるかもしれないが、常人には極めて困難だろう」

「それが、威力調整?」

「あぁ。ドラゴンのブレスは高密度の魔力を扱う。高密度とは即ち、魔力を極限にまで圧縮した魔力の塊。人が扱う魔力とは使い勝手が大きく異なる。魔道具の核をドラゴンとしている時点で、威力は甚大。使用者に危険が付き纏うのがこの竜核砲銃の欠点……。感覚的に威力の調整は難かしいだろう」

「んー、じゃあ、誰にでも扱えるって訳じゃないのか。量産して、皆が持てればって思ってたんだけど……」

「主、流石に国一個滅びるぞ……」


と、幾ら何でも大袈裟なレノン。

所詮は、ドラゴンブレスの強化版。色々と手を加えて威力を上げてはいるが、あくまでコンセプトは〝どんな防御魔法も結界もぶち抜く銃!〟だ。

レノンが言うほど大それた物じゃない。


「レノン、これからの予定は?」

「屋敷の掃除は既に終わっている。予定と呼べる予定は無いが……」

「じゃあ、試し打ちに行こっか、レノン」

「了解だ」


という訳で、いざ、LETS魔道具実験!。


      ***


という訳で、私とレノンは竜核砲銃ドラゴンバーストの実施テストを行う為に屋敷の外に出た。

栄えある竜核砲銃のテスト対象として選ばれたのは、私が知る限り最も強固に作られた結界——此処、ゼシアを包み込む大結界だ。

外部からの攻撃の一切を防御し、魔法による内部への侵入を一切阻止するこの結界は、バレンシア城地下にある宝物庫、そこに掛けられた四九六個ものプロテクターを優に上回る性能を持つ。

過去に一度、ゼシア上空に一体のドラゴンが飛来した事があった。

人を食料としか見ないドラゴンだ。当然、獲物をその目に捉えたドラゴンは捕食を開始しようと目の前の障害物たる結界を壊そうとする。

が、結界はドラゴンの攻撃を弾いて見せた。

超重量たるドラゴンのタックルも、広範囲に及ぶ超火力のドラゴンブレスも、ゼシアの結界はドラゴンの襲来を無傷で耐え凌いだ。

それだけ、ゼシアに張り巡らされた結界は強固に出来ている。

だから、私は当時、その光景を眺めながらこう思わずにはいられなかった。


——あの結界に風穴を空けたい。


その目的の為だけに、私はこの竜核砲銃ドラゴンバーストを作ったと言っても過言じゃない。


「主、本当にあれに撃つのか……?」

「え? そうだけど……。これ作ろうと思った切っ掛けって、あの結界を破壊してみたかったからだし。……え、何か問題?」

「いや、まぁ、主がいいのならいいのだが……。一応、此処を守るシステムなのだろう? それを壊してもいいのかと、そう思ったまでだ」

「あぁ、そういう事? 大丈夫大丈夫。壊したら張り直せば良いだけだし」

「そういう問題なのか……?」


そう、それだけの簡単な問題だ。

親がよく遊んだ物は片付けなさい!と子に叱るだろ?それと一緒で、壊した物は元に直してしまえばいい。

直してしまえば、何の問題もない。


「よし、これで最終チェック終わり! そろそろ、一発派手なのぶちかましますか!」


竜核砲銃をパーツごとに一度全部バラし、内部に刻んだ魔法術式に記載忘れがないか、竜核に問題は無いか、隅々までチェックした。

後は、ちゃんと稼働するかどうかだが——。


「てか、これっ、重いな……!」


ここに来て、問題点発覚。

持ち上げてみて、あまりの重さにへっぴり腰になった。


「スライムと言えど、鉄で構成されてるのには変わりないからな。運ぶ時と同様、宙に浮かべたらどうだ?」

「う、うんっ。そ、そうする……っ」


自分の体を支えるのに精一杯。レノンの有難い助言に従い、竜核砲銃を一度地面に下ろしてから魔法で浮かす。

よし、これで、今度こそ完璧だ。


「実施テストと言えばやっぱり、カウントダウンだよね。……レノン、お願い出来る?」

「了解だ」


承諾してくれるレノン。その声を聞いてから、私は静かに目を閉じる。

真っ暗な世界。涼風が吹き抜け、草葉がザワザワと擦れる音が聞こえた。


——酷く、心臓の音がやかましい。


考え、悩み、試し、失敗し、また考え、悩み、試す。そうして、幾度もの失敗を得て形となった自分の作品がやっとの思いで完成する——。

私は、この瞬間が好きだ。


「十」


カウントダウンの開始と共に、私は竜核砲銃に手を添え、浮遊魔法で位置を調整して照準を結界に合わせる。


「九」


竜核砲銃に魔力を流し、砲撃の反動に耐えうる為のバイポッドを地面に射出。


「八」


身体強化の魔法を掛け、全身を補強。私は、引き金に指を掛けた。


「七」


次の瞬間、大気中の魔力が、竜核に吸い寄せられる様に集まり出す。


「六」


圧縮、圧縮、圧縮。竜核に蓄積される高密度の魔力が魔袋に流れ込み、元素砲に変換されて行く。


「五」


変換し、変換し、変換し、元素砲が魔袋に溜まって行くのに合わせて、魔袋から漏れ出した光が竜核砲銃を淡い光で包み込んで行く。


「四」


充填、充填、充填。


「三」


まだ。


「二」


まだ、まだ。


「一」


まだ、まだ、まだだ。


「〇」


そして、〇の合図と同時——。


——私は、引き金を引いた。


「――ッ!?」


瞬間、視界が真っ白に染まった。

世界が真っ白に染まり、凄まじい爆発音が轟き、突風が吹き荒れ、砲撃の反動で後ろに吹き飛ばされ——。

目論見通り、射出された元素砲はゼシアの結界を軽々と貫いて行った。


「……いやいや、嘘でしょ……」

「これは、流石にやり過ぎだ……」


射出された元素砲。その行く末がどうなったかと言われれば、結界を貫いても尚天高く登り続け、快晴の空に登る流れ星なんて幻想的な光景を描き、そのまま大気圏を超え。


——宇宙で大爆発を引き起こして行った。


「これは、不合格かな……」


竜核砲銃ドラゴンバースト実施テスト。結果、快晴だった青空が一面真っ赤に染まった。

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