7話 誰でもメタルスライム簡単楽々攻略法

三日間の自粛を終え、ミューと離れ離れになってから既に二日が経った。

勿論、今直ぐにでも屋敷を飛び出して会いに行きたい気持ちだ。たけど、ミューにも自分の立場という物があり、会いに行けばかえって迷惑を掛けることなる。

忙しいのである。おいそれと会いに行く事は出来ない。

だから、私はその寂しさを誤魔化す為に、ひたすら魔道具開発に必要な材料採取に勤しんでいる。

場所は、屋敷のある王都から離れて南に二十四キロ。最弱の魔物が跋扈する草原——ネリア草原。

通称、雑魚場。新米の冒険者や新人の騎士達が戦闘経験を積むのに良く使われる場所で、通称通り、ま~ここの魔物は弱い。

異世界物でよく見聞きする雑魚魔物の代表格、スライム。正しく、そいつの群生地体がここなのだ。

なら、そのスライムが魔道具の開発に必要な素材なのかって?。はっ!兄ちゃん、嬢ちゃん、なまいっちゃいけねぇぜ?。

私の狙いはスライムはスライムでも、その上位個体。


——メタルスライム。


そして、こいつの特徴として——。


「くっそ……! こいつ、マジで速ぇっ!」

「それに、硬い……っ。まぐれで当たったとしても傷一つ付けられない……!」

「この新人演習、雑魚のスライム狩りじゃなかったのぉ……っ?」


そう、メタルスライムはとてつもなく早く、とてつもなく硬い。

最高速度はなんと二百キロ越え。その丸々としてメタルボディは鉄に負けず劣らずの強度を持ち、加えて高い魔法耐性も備え持つ。

そして、そんなメタルスライムの何よりもの特徴は。


——〝超がつくほどの短気〟である事。


「いづっ! こいつ、反撃して来やがった……っ!」

「ぜ、絶対受けるな! 体は鉄と同質。この速度で真正面から当たられたらひとたまりもな、ぐぁああっ!」

「セントくん! あ、え、嘘……。足が折れて……」

「くっそっ。新米の俺らじゃこいつは荷が重ぇ……っ。いつまで傍観……て、何してんだ……。いや、今は違ぇ! テメェら、俺らの引率だろっ!」


と、新米冒険者の一人、エバルが私に怒鳴り声を上げた所で、そろそろ私の目的、そしてこの状況がどういったモノなのかという説明をしよう。

その前に、それを語る上で、幾らか私に必要な手順を踏まなくてはならない。


「おかわり」

「はい、ミューネ様」


1、空になったティーカップをサリーネに渡す。

2、サリーネがティーカップにレモネードを注ぐ。


「どうぞ」

「ありがとう、サリーネ」


3、サリーネからレモネードの入ったティーカップを受け取り、私はそのまま口に運んで喉を潤す。


「ふぅ……」


4、吐息一つ。

そうして、私の話をする上での手順、基、喉の調子が整った所で、そろそろ真面目に語るとしよう。

私の目的と今の状況、その説明を。


「そう、私が引率係です」

「……は? 何言って……」


つまり、私が何を言いたいかと言えば——。


「つまり、ミューネ様はこう言いたいのです。あくまで私は引率役、まだやれると判断したので私から手を出す事はない、と」

「いや、違うよ?」

「……え?」


と、サリーネに水を刺されちゃったけど、つまり、だ。

既に、察しの良い人は気づいてるだろうけど、私は新米冒険者に実戦経験を積ませるべく冒険者ギルドから雇われた雇用人、引率係だ。

本来、新米の冒険者にはスライム狩りで実戦経験を積ませるのがセオリーで、依頼の内容もスライム狩りと、雇用主からの説明を受けた。

のだが、そこで少し、私は合理的に考えてみたのだ。

可愛い妹の聖属性により蒸発した、とある魔道具の開発に必要な材料。


メタルスライム、新米冒険者に倒させればよくね?て。


「だけど、まぁ、新米冒険者にメタルスライムの相手は流石に酷だったか……」


幾らスライムと言えど、上位個体。流石に、Aランク指定の魔物を新米冒険者に相手させるには無理があったらしい。

楽して材料ゲットならず。仕方ないけど、私が出張るしかないかな。


「行かれるので?」

「うん。未来ある若者冒険者の心に癒えない傷を残すのは少し忍びないからね。直ぐに終わらせて来るから、暖かいレモネードでも入れといて」

「分かりました。行ってらっしゃいませ、ミューネ様」


サリーネが用意してくれた日除けのパラソルとテーブル、そのもう一つである所の椅子から立ち上がり、私はサリーネの見送りを受けた。


「さて、と……」


準備運動がてら、私は新米冒険者達の方を見てみる。

すると、足を折られた爽やか好青年に続き、気弱そうなソバカスエルフも今正に腕をやられた。

残すは、私に対して怒鳴り声を上げてくれた、倒れた二人の仲間を背にメタルスライムと戦う狼の獣人のみ。

今も、メタルスライムはとてつもないスピードでエバルを翻弄している。

正直、見てられない。全くもって、ダメダメだ。


——メタルスライムの攻略法、それは至ってシンプル。


「くそっ、くそ、くそ……っ! も、もう駄目だ……っ!」


迫り来る、いつ自分もやられるのかという恐怖。ここに来て、堪らずしゃがみ込んで目を閉じてしまうエルバ。


「——君に一つ、享受して上げよう」

「て、テメェは……」


絶体絶命のピンチ、そこに格好よく私が登場して見せる。


「攻略法その一、身体強化魔法オーバーを二重掛けで視力に一点集中。体感時間凡そ十分の一。相手を補足出来たら、速やかに並列で捕縛魔法の魔力糸、これは三重で掛けて編み込み」

「な、何言って……。そんなの、出来る訳が……」


誰でも習得出来る、簡単な魔法の重ね掛け。新米の冒険者に享受するには絶好の攻略法。

が、まだ足りない。あのメタルスライムが相手、もう少し私は魔法を織り込んで行く。


「更に並列、魔力糸を強化魔法バーストの四重掛けで強化」

「いや、ちょ、待て待て、テメェ……! 本当に何して……まさか、本当に……!?」

「更に並列、魔力糸にデバフ魔法、スロウを五重掛け、 バインドを五重掛け、スリープを五重掛け」


そして、最後は安直に。


「更に並列。——挑発」


同時、此方の様子を伺っていたメタルスライムの琴線、その糸が外部から強制的に断ち切られる。

元々、短気な性格の持ち主だ。外部的、魔法による怒りの誘発ともなれば——当然、ブチ切れる。

目標一直線。怒り狂ったメタルスライムが二百キロもの速度で私に突進して来て——。


「う、うっそぉ……」


——あらゆる魔法がメタルスライムを無力化した。


メタルスライムとの距離、鼻先スレスレ。

幾重にも編み込まれ、強化され、デバフを織り込まれた魔力糸がメタルスライムの体を絡め取り、完全な無力化を成功させている。

位置、タイミング、ドンピシャ。計算通りだ。


「捕縛と強化、それにデバフ。こんだけの魔法を複数回重ねられたら、幾ら魔法耐性の高いメタルスライムと言えど簡単に無力化出来る」


そう、これこそが、正しく、


「これが私考案、誰でもメタルスライム楽々攻略法! 新米冒険者諸君、覚えとく様に!」

「……で、出来るかぁあああ!!」


と、何故か大ブーイングを食らった。


「あ、あの……お願いだから、喋ってないで早くヒールかけて……」

「ぼ、僕もお願いします……」


冒険者ギルド依頼、〝新米冒険者の監督官〟。スライム討伐数○。メタルスライム討伐数一。負傷者二名。

そんな感じで、無事に私は依頼を達成したのだった(勿論、負傷した新米冒険者の傷は治してあげた)。

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