第2話 オタクは推しの努力が大好き

「…………ねぇ、ヤミ様……今から始まるのってたかが入学式だよね?」

「ああ、そうだな」

「———ならわざわざ組織の最高戦力を配置する意味ないよね!?」


 俺の隣に並んだイリスが、レイシアちゃんの隣に何食わぬ顔で立っている銀髪碧眼の美女———アルテマを指差して小声で叫ぶ。

 因みにアルテマの姿は物理的に俺達以外には見えないようになっているので絶対にバレる心配はない。

 というかイリスはこの配置の必須性が分からないのか?

 

「いや必要だろ。いつ何時レイシアちゃんが敵に狙われるか分からないんだぞ? 即死級の魔術か魔法でも来たらどうするんだよ! レイシアちゃんをストーリー以外で怪我させるわけにはいかないんだよ!!」

「過保護! ヤミ様過保護過ぎるよ! わざわざ序列1位のアルテマ様を付かせる必要ないじゃん! 序列10位台の奴で十分じゃん! …………それに、アルテマ様がいるとヤミ様とイチャイチャ出来ないんだよね……あーあ、早くボクだけのものにしたいなぁ……」


 …………。


「あ、レイシアちゃん! おい静かにしろ、レイシアちゃんが今から話すから!」

「むぐっ!?」


 俺は再び危険そうな言葉をガンスルーして口を塞がせると、俺の視線は悠然と美しく歩くレイシアちゃんに固定される。

 本来この場面はレイシアちゃんの回想シーンでしか見れないので、リアルタイムで見れるこの感動は果てしなかった。


 それに回想シーンは一人称視点とかいうクソ仕様だからな。

 俺はレイシアちゃんの歩く姿が見たかったってのによ!

 こればかりは運営には落胆したぜ。


 しかし今、俺の目の前ではレイシアちゃんが壇上に向かって歩いている。

 平民とは思えない所作で周りを魅了しながら歩いている。

 ふ、ふつくしい……。


「あぁ……生きてて良かった……この10年頑張って生きて良かったぁ……」


 かくいう俺もレイシアちゃんに魅了された者の1人であった。

 何ならこの世界で最も魅了されたかもしれない。


「くっ……カメラが欲しい……何で忘れて来ちまったんだ俺は……」

「ん。ヤミ、これで我慢して」

「流石アルテマ…………おい、何しれっと俺の隣に来てんだよ」


 俺がこの神秘的な姿をカメラに収められない苦行に耐えていると、横から自然な感じでカメラの魔導具版を手渡される。

 条件反射でそれを受け取った俺は、迷うことなく被写体をレイシアちゃんに設定してシャッターを押し……初めて隣にアルテマがいることに気付いた。

 

 え、本当に何で隣にいるの?

 君の任務はレイシアちゃんの護衛だが??


 俺がそんな意図を込めて、我が組織の序列1位であり俺の右腕でもあるアルテマに目を向けると……アルテマがいつも変わらぬ無表情で小首をかしげる。


「来たかったから?」

「駄目だよアルテマ様! 任務に私情を持ち込んじゃいけないって言ったのはアルテマ様だよ!!」

「……五月蝿い、イリス。文句があるなら私に勝ってから言って」

「ぐぬぬぬ……!!」


 必死にド正論で噛み付いたイリスだったが、アルテマの冷たい視線と圧倒的強者感に直様敗れ、悔しそうに歯噛みする。

 ただ今回は、俺がイリスの味方になってやろう。


「いや今回はイリスが正解だから。アルテマはレイシアちゃんの隣に戻れ」

「…………後でご褒美を要求する」

「俺が出来る範囲でな。分かったら早く戻った戻った!」


 俺がそう言うと、本当に不服そうに渋々といった感じで戻って行った。

 そんなアルテマの後ろ姿を見ながら小さく息を吐く。


 全く……俺を除けば組織のNo.1だってのにワガママで困るぜ……。

 俺が居ない時は物凄く有能だって聞いてるんだけどな……。


 何て思っていると……。


「———サクラが舞い散り段々と温かくなる中、私達は今日、神秘育成学園の美しくも威厳ある門をくぐりました」


 拡声魔導具越しのレイシアちゃんの美しく透き通った綺麗な声が体育館に響く。

 それだけで先程の疲れが一気に消し飛んだ。


 ふおぉぉぉぉ!!

 何て凛として美しい声色なんだ……!!

 あぁ、神!

 君は正しくこの世に舞い降りた女神だよ、レイシアちゃん!!

 この学園の門なんか霞んじゃうくらい綺麗だよ!!


 俺がレイシアちゃんの新入生代表挨拶に感動していたその時———俺の耳に付けた無線機のような魔導具から報告が入る。


『侵入者を複数確認。狙いは1000年に1度現れる対魔族属性———神聖属性の適性を持つレイシア様だと思われる。主よ、殺すか?』

「……その必要はない。そいつらはどのみちレイシアちゃんに届かないからな。万が一、打ち漏らしがあった時にだけ動け」

『あいよ』


 それだけ言った後、音声が切れる。

 タイミングが本当に悪いな……と俺は内心愚痴を漏らすも、レイシアちゃんの声に即座に癒された。


 あぁぁぁぁ……染みる……。

 やっぱりレイシアちゃんのお声が世界一だな。


「ヤミ様、今の何だったの?」

「ん? 今のって?」

「無線だよ、む・せ・ん!」

「ああ、それのことね。何でもレイシアちゃんを攫おうとする不届き者が来たらしいぞ。ま、俺達が動くまでもないけどな」

「へぇ……本当にあのお———レイシア様に危害を加えようとする馬鹿な奴らがいるんだね」


 そう言って意外そうにレイシアちゃんを見るイリスだったが、ふと俺の言葉に疑問を覚えたのか訊いてきた。


「ヤミ様……何で動かないの? レイシア様の敵なら速攻で潰しに行きそうなのに」

「勿論速攻で潰す。でも……今回は俺達以外にそんな敵を殺す頼もしい奴がいるんだよ」


 この襲撃は物語中盤でこの学園の生徒会長から聞かされるのだが……侵入者は全員生徒会メンバーによって捕縛され、尋問を受けることになる。

 その結果としてとある国が魔族に情報を売っていたことが判明するのだが……まぁそれはまだ後1年以上後なのであまり気にしなくてもいい。


 それよりも……。




「———新入生代表挨拶、1年A組、レイシア」

「やっぱり俺の推しは最高だ……!!」




 実はこの時めちゃくちゃ緊張していたとゲームで後に語った推しレイシアちゃんを精一杯労うことの方が遥かに大事なことだ。


「「…………」」

「良く頑張ったな、レイシアちゃん……それにちゃんと練習の成果が発揮できて良かったな……!」

 

 俺は周りからのドン引きの視線とイリスとアルテマからの仄暗い視線をガン無視して、一生懸命話し終えたレイシアちゃんに、聞こえていないと知っていながら労いの言葉と盛大な拍手を送った。

 

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 ここまで読んで下さり、ありがとうございます!!


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