第33話 帰り道のギャルと委員長



 とある日の放課後。


 美波は廊下で担任教師に捕まっていた。


「美波さん。いい加減、進路希望調査を出しなさい」

「はぁ~い」


 美波は担任からもう何度も聞いたセリフを右から左へ受け流す。


 二学期に入って配られた進路希望調査表。


 提出期限は三日前だが、美波はそれをまだ持ってきてなかった。


「せんせ~だから私は就職でいいってば~」

「それはご両親とちゃんと相談したの?」

「それはまだだけどさ~」

「だったら、ちゃんと話し合って決めなさい。一生のことなのよ」

「分かってるってば~」


 担任はため息を吐き、新しい進路希望調査を渡して去っていった。


「……」

「美波さん?」

「わあ!」


 突然、背中から声をかけられ、美波は思わず飛び退く。


 振り返ると、そこには冴子が首を傾げて立っていた。


「あっ、いーんちょ」

「何してるの?」


 冴子は視線を美波の手元に移し、「ああ」という顔をする。


「まだ出してなかったのね」

「いや~まぁ~」


 美波は頭を掻いて目を泳がせるが、冴子は特に何も言わない。


「えっと…あっ、一緒帰らない?」

「いいわよ」


 それからふたりは学校を出て、駅までの道を並んで歩く。


「そういえばいーんちょ、今日は勉強いーの?」

「図書室開いてなかったの」

「へぇーそうなんだ」


 二学期になって、冴子は放課後居残って勉強することが増えた。


 美波も一緒にいたくて何回かつき合ったが……カリカリとした空気が苦手で、行かなくなってしまった。


(図書室じゃいーんちょとイチャイチャもできないしな~)


 まぁ、毎日じゃないし、週末はふたりで会えるからいいのだけど。


「そういえば」

「ん? なに~?」


 あと少しで駅に着くという頃、ふと冴子が呟いたので、美波は何気なく聞き返した。


 すると、冴子はさっとこちらを振り向いて、心なし無表情に、


「もうあと半分ね」

「半分」

「私たちが付き合える時間」


 そう言われて、美波もさすがに足が止まった。


 そんな彼女を四、五歩ほど置いてってから、冴子は振り返る。


「どうしたの?」

「あ、いや……」


 冴子のただただ不思議そうな表情に、美波は何と返せばいいか分からなかった。


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