第31話 観察日記




 冴子は一日の終わりに日記をつけていた。


「8月×日……午前、美波さんの家へ。彼女の受験勉強を手伝うが、予定より進まず」


 この日記は、美波と付き合い始めてからつけ始めたものだ。


「先週、先々週に比べ、彼女が勉強に飽きるペースが早くなっている。集中力の問題?」


 カリカリとペンの音が静かに響く。


「勉強が終わったらセックス、という条件付けは失敗だったかもしれない」


「最初は効果的だったが、彼女が私に慣れてくるにつれて、一日の勉強が終わる前に求めるようになってきた」


「観察のためあまり厳しく拒絶しないようにしていたが、少し手綱を引き締めるべきかもしれない」


「一度甘やかしすぎたあとで厳しくすると、不要な反発を招く可能性がある。今後は注意していきたい」


 冴子はペンを置く。


「難しいわね。人間関係って……」


 日記を閉じると、冴子はベッドに入り、部屋の電気を消した。



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