第30話 話を逸らし、踏み込めず、いつものこと




「そういえばいーんちょって、何でアメリカ行くんだっけ?」


 夏休みも後半。


 いつものように美波の家に集まり、勉強している最中、ふと彼女は冴子に尋ねた。


「進路って、前に言わなかった?」

「そーだけど、具体的なの聞いてないじゃん。留学? それとも就職?」

「そんなの気になる?」

「そりゃーそーでしょー」


 若干、集中力が切れてきたこともあり、美波は話題を続ける。


 それに冴子は軽く肩を竦め、ペンを置く。


「目的は留学ね。向こうで勉強したいことがあるの」

「勉強したいことって?」

「それは内緒」

「え~~」


 美波は唇を尖らせる。


「それくらい教えてくれてもいーじゃ~ん」

「そういう美波さんこそどうなの?」

「私?」


 質問を返され、美波は自分の顔を指差す。


「この時期に志望校もまともに決まってないのって、結構問題だと思うけど?」

「うへぇ~」


 冴子にジト目で見られ、美波は先生に怒られたみたいな気分になる。


「だって将来何したいとか、まだ分かんないんだもん」

「ふぅん」

「それに最悪お父さんのとこで働けばいいし~?」

「居酒屋だっけ?」

「うん」

「調理師免許とかは?」

「料理はお父さんが作るし」

「……」


 冴子は首を傾げていたが、特に何も指摘しなかった。


「だからー大学とか入れるとこに入れればいいんだって」

「何? 勉強に飽きたの?」


 冴子は軽くため息を吐く。


「だって課題はとっくに終わってるのに~、いーんちょが受験べんきょーっていうから~」


 課題が終わっても勉強会を続けようと言い出したのは冴子だ。


 美波も彼女に毎日会う口実が欲しくて受け入れた。


 とはいえ、勉強自体が好きでないのは相変わらずだ。


「いい加減息抜きしたいな~」


 それに対し、冴子は再びため息を吐き、


「勉強教えてあげる方が有意義だと思うけど?」

「え~そんなことないよ~」


 美波はテーブルを回り、冴子の方へにじり寄る。


 彼女の肩に手を触れるが、向こうは何の抵抗もなく、カーペットの上に押し倒される。


「いーんちょとこうしてるのが、一番楽しいし」

「……そう」



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