第29話 問題集5冊と週3で手を打ちました




「エッチ」

「うっ…」


 浮き輪を持って海から上がりながら、美波はついっと目を逸らす。


 目線を逸らした彼女の頬に、冴子の視線が突き刺さる。


「外でなんて、びっくりしたわ」

「ごめんってば~」


 美波は慌てて平謝りしながら、冴子の手を握る。


「だっていーんちょの水着かわいーんだもん。胸とか当たっちゃうし」

「それでムラッときたの?」

「うっ…まぁ、そうです」


 美波がしどろもどろに答えると、冴子に小さくため息を吐かれる。


「さすがにちょっと考えた方がいいかもね」

「えっ? えっ?」


 美波は慌てる。


「それって、もうしちゃダメってこと!?」

「そうは言わないけど…節操なさすぎというか」

「それはホントごめんなさいだけど!」

「せめて週2にするとか」

「え~~足りない~~~!」


 美波が抗議していると、ふと横から声をかけられる。


「なになにおねーさんたち喧嘩?」


 ふたりが振り返ると、日焼けした大学生くらいの男が軽薄な笑みを浮かべていた。


(うわ)


「海まで来て喧嘩とかよくないよ~。もっと楽しまないと~」

「それはそうね」


(いーんちょ!?)


 どうせナンパだろうと無視しようとした美波だったが、冴子の方が男に返事をしてしまった。


 すると、男も見込みアリと思ったのか、調子に乗ったように近づいてくる。


「そうそう。向こうに俺の友達もいるから、どうせなら一緒に楽しく遊ばない」

「いえ、それはいいわ」


 男の誘いを秒で断った冴子は、急に美波の手を引いて自分の方に引き寄せる。


「私たちはふたりで十分楽しんでるから」


 そう言って、冴子はそのまま美波を引っ張って歩き出してしまう。


 あまりに流れるようにキッパリ断られたせいか、男は追いかけるのも忘れたようにポカンとしていた。


「いーんちょすごいね」

「何が?」

「うん。私じゃあんなスマートにできないもん」

「適当にあしらっただけよ」

「ううん、惚れ直したってば」


 美波は冴子を褒めそやすが、彼女はくるっと振り返って、


「そんなこと言っても、週2の話はなくならないわよ?」


(バレた!)


「美波さんは受験もあるんだし、やっぱり週1くらいがいいかもね」

「そんな! せめて週3! 勉強もがんばるから~!」



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