第28話 海の中で




 日焼け止めを塗り終わった。


「そだ! 浮き輪借りようよ」

「いいわね」


 ふたりは海の家で、大きめの浮き輪を借りる。


「どっち先使う~?」


 美波は海にチャパチャパ入りながら、後ろに冴子に尋ねる。


「その大きさなら、一緒に入れるんじゃない?」


 と、冴子は浮き輪の穴を指差して言う。


「え~いけるかな~?」

「大丈夫でしょ。美波さん細いし」

「そお~? じゃ、いーんちょこっち来て」


 美波は冴子を手招く。


「よっいしょ」


 美波は冴子と密着し、頭上に持ち上げた浮き輪を下ろして、ふたりの頭を穴に潜らせる。


「おっ、いけた~」


 上手くいったことに美波は楽しげな声を上げる。


 そのままふたりで深いところまで進む。


 やがて足がつかなくなって、ふたりはプカプカと浮き始めた。


「こっちは人少なくていいね」

「ええ」


 ふたりの周囲には誰もいない。


 みんな浅瀬で遊んでいるのか、今日は客が少ないのか、どちらにせよ静かなのはありがたい。


「いーんちょのこと独り占めしてるみたい」

「え?」

「だってほら、今いーんちょのことしか見えないし」


 今ふたりは、浮き輪の穴の中で向かい合う格好だ。


 周囲に人気はなく、波の音しかしない。


「……」

「……」


(なんか変な気分になってきた…)


 冴子の水着を見た時から、実はそうだったのかもしれない。


 美波は自分の脚を冴子の脚に絡める。


 水の中で触れる彼女の脚は、いつもと違う感じがして、なめらかだった。


 水温で冷えているはずなのに、でもほんの少し暖かい。


「ん」


 冴子がキュッと唇を噛む。


 美波が脚を引き寄せると、水着越しに彼女の胸が当たった。


「いーんちょ」

「…何?」

「今日は私が触っていい?」


 美波が頬を赤らめながら尋ねると、冴子はしばらく考えたあと、


「水着の上からなら」


 と、小さな声で答えた。


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